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青灰の地より  作者: 不病真人
第二部 海が父 第一章 赦されぬこと

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第九十一話 巫毒の術

「シャッッあ!?なんだあの鳥?!」

襲っていきたはずの男たちが襲われる悲鳴だ。

しかし鳥、それをいうなんぞ誰かはおかしさを感じるだろう。此処を見たものは。鳥か


聞かれればくるのはただ一つ、しかし違う、断じて小鳥のような愛くるしいものではないのだ。

「ややめろおお!はっ」

叫んでいる男は声が不自然に止まる。

喉が貫かれたのだ、彼が叫んでいる間には。


「前へ ただ前へ膝まで飲み込む 黒き泥濘

左足引きずり 右足踏み込め

骨まで凍える 夜の烈風が如し

かの命は鉄の かの命は使えよ

他の大地を 牙で引き裂け

栄光の名など ここにはない

ただ血の道だけが 我らが誉ぞ

ならば前へ前へただ前へ

八が正道は敵にする十害悪 大害は永劫」


 「貴公よ...?何して今すること其れとは?」

 「チッ邪魔するな間抜け、な、魔法、じゃなくて祭儀だよ祭儀だ。わかるだろ騎士なら」

 「いかにも我こそは我が帝国が誇り高き、騎士団が一人してここぞと!かの人セオリクは来れる!聞けよ、見届けよ、我はガレヌ・フォデ・グリオス・セクリオ・ド・ラングシェ。!」


 「は?」


「古の誓いにより誉れを賜りし者なり。」


「いかれてんのかお前..?」



 「うおおしゃああ!てめぇの仕業だな、やっちまえーだ!」 「ちげぇし、まだ俺の技じゃないから命先に守れよお前ら。たく」

 「ん?ぎゃあああ!」

目潰しである。鳥のような怪物が一人の男を襲っていた。自分勝手に動く船に乗る男をその怪物が襲っていた。

「鳥ぽいのか..?」


 「されど今はただ、誓いを胸に、この世を駆ける無名にある、放浪の剣よ!」

「しかし遠い土地の町の南、忌み丘にて再び集結せしうる魔女の軍勢──それを討たずして真の夜明けは決して来ず!我が友ガルシドュースはいまだにそれを封じ込むか。彼は。」


「さっきから何を言ってんだお前?」


「我は」


「いいや、お前の話聞くと仲間たち全員変人だし、今更何に気がついてもお前の勝手にやれって感じ。」

「...?」

「なんだよその顔」

セオリクは神妙そうな顔していた。

いや真剣というべきか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまで彼を、俺は、ラアンドリウスとして名乗り始めての俺はあまり知っていない。

以前知っているかもよくわからない

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 「わかったあと聞いてやる蛇のなんちゃらとか、結晶とかも、お友達が暴力すぎて魔女の軍勢終わらせてるか微妙かもって愚痴も」


「否、すべては」

「あああ!我らは軍勢なり!」

「貴公よそれは再び唱えでは?」


「ぎゃああああああ!我は」


「しかしよ、ガルシドュース=ウガュスアルダシグル」


「うおおおおお!」

「貴公よ、奴らの様子」


「どうやらま、ほ....じゃなくて祭儀はいらなさそうだな、あれだけ攻撃されっちゃ。」

「しかし」

「俺この島から出たら弓遵商界(ラクセヴァル)いくよ」


(な、何なんだあいつらは...でも他人の気が、あの騎士はしない。まさかガルシドュースの仲間...)

うっ頭痛が吐き気が止まらない。思い出したとしてもそうだ。

ラアンドリウスよ。


 ガルシドュースの思念が未だに邪魔をする、例えからになったその器でも。蜂が抜けた今なら尚更だ。

「うっ....」

(何も、考え...一体何が...体が....)

静か、静寂、安寧。


蜂のざわつく音が消えた。


 俺は....ぼくは、薄暗い小屋の藁の上で目を覚ました。朝の光は小さく、隙間から弱々しく差し込むだけ。

いつものことか、それよりも体が重くて、昨日の畑仕事の疲れがまだ残ってる。


「…また一日か」って、心の中でつぶやいた。

今日も来てほしくない、だって最近もっと疲れるもん。


 でもまた今日もお母さんが炉に火を起こして、薄い粥を作ってくれた。

麦と少しの根菜を煮込んだだけ。塩がほとんどなくて味気ないけど、温かい。

朝だけじゃなくて昼間もこれがいいなあ。

ぼくはそう考えながら木の匙でかき回しながら、ゆっくり食べた。

一口ごとに、お腹のすき具合が少し和らぐし、寒気も取れてくるからやっぱゆっくり食べる

「お母さん、今日は絹ってやつなのか?」

「ああ、そうだよ。しっかり働かないと、冬に飢える」ってお母さんは疲れた顔で言った。

父さんは去年の疫病でいなくなったから、ぼくの田植えだけじゃ無理だし。

お母さんも工場....?とか言う場所に出たんだ

できるだけ手伝わなきゃいけないのに何でぼくはできないんだ。

朝の粥を食べ終わって、外に出た。

お母さんは嫌いじゃないけど、疲れているお母さんは見たくない。


見飽きたこの村の方がずっといい。

村は泥と藁の家が並んで、道はぬかるんでる。

空気は湿ってて、遠くから病気の臭いみたいなものが漂う気がする。


ぼくは鍬を持って畑へ向かった。

「ヘッふん!」

土は固くて、重い。

だから汗かく。

それで汗が止まらないし、汗で汗が流れるしすぐにまた汗じゃさっき出た汗がすぐに流れて、目に入る。

掘り返すたび、痛くなる。

「なんでぼくらはいつもこんなに苦しいんだろう」

って考えた。

神様はいるのかな。


 たまにくる何だかすごく綺麗な服をした人たちから聞いたことしかないけど...さん...ばしえあ?はしら!かばしら?しか...?いるような。

(わかんないや)

村のおじいさんは「罪を犯したから疫病が来た」って言うけど、ぼくは何も悪いことしてないのに。

弟のエルドも昨日、またうちも出ずに寝込んでたし、明日も同じ日が来るのかと思うと、何だかすごく嫌。


 (あいつなんてしんじゃえばいいのにだ)

 「へん」

昼前、少し休んで村の井戸で水を飲んだ。

冷たくて、少し土の味がした。

エルドはたまにこれになんか甘いはちみつ入れてもらえるんだよな。

「ずるい!」

エルドとか、僕知ってるもん、炉の隣の子供...?そんなことか、じゃああいつきっと。

「に...に...にい、兄ぃ」

「む」

あんなきっとどこかから逃げた鍛治職人の子供なんてぼく知らないもん....



 「あっ」

昼飯は硬い黒パンと、干した根菜の残り。

パンにかじりつくと、歯が痛くなるくらい固いし、歯が折れたかとも思った。

だから「あって」声が

(でも今日は思ったより石が少ない)

ゆっくり噛んで、のどに流し込む。

「もっと食べたい…」って思ったし口に出したけど、残さないと夜がないから毎回限定するし...でも何で神からの使い手は?って言うのも来ない?

ちゃんとお願いしたし、今も言ってたじゃん


(こんな石さえなければぼく驚かないもん....)

そう、別にエルドのことを考えるなんて。


 「ぼくはエルドンだよ兄さん」


ぼくは空を見上げた。灰色の雲が低く垂れていて、太陽はほとんど見えない。

なんだかいつも暗い気がする。


サ サラ

午後も畑仕事。

土を耕して、耕して。

指が泥だらけで、爪の間が黒くなるし、なんか気持ち悪い

しかも時々、遠くの森の方から獣の声みたいなものが聞こえて、ぞっとする。

村の人は「悪魔のささやきだ」って怖がるし。

もう嫌家に籠もりたい。

でもダメなんだぼくも本当は怖いけど、働かないと生きていけない。

今年ものうぜい...?ってやつがまた来るさ


 でも

でもさ

いつか、この暗い日々が終わるのかなって、鍬を振りながら考えた。

明るい場所とか、食べ物がたくさんあるところとか、夢みたいに。

すごく鋭くて綺麗な金属で出来た鍬でさ。



夕方、太陽が赤黒く沈みかけた頃、ぼくは丘の上に登った。

 「わーい!」

村で一番高い場所。

だから足がふらついて、息が切れる。

でもここまで来れば暗いからって家にいないのを見つけて怒る人もいない。

(今日はちゃんと一人で少し休むぞ〜)

座って休もうとしたそのとき——

空の端に、何か巨大な影が浮かんでいた。

「……え?」

ぼくは目をこすった。

「羽ない...」

 

 あ、鳥じゃない。船だ。

船はよく知らないし、見てない。

でもおじさんから聞いた船の形だと思う

でも何で何で大きな船が、空に浮かんでいるんだ


 「あ」

ゆっくりと動いている。

鍬のあれよりも綺麗な金属みたいな部分が、沈みがけの夕焼けの赤い光を反射して光ってる。

飛んでる。

ほんとに飛んでる。 (なに?)

なんだかわからないがすごく胸がどくん、どくんと鳴った気がして足が勝手に震えて、立ち上がれなくなった。


「うそ…そんなの、こんなにありえない…」

口が勝手に開いて、声が出そうになるのを抑えた。

神様の乗り物か? それとも悪魔の船か?

村のおじいさんが言ってた、昔の伝説みたいなもの。

「こう見えてもワシらは神の...」


 「眩しい...」

夕日と違う光。

朝でも見たことない眩しい光だ

暗い世界に、突然現れた光。日隠れする頃なのに眩しい。

 「怖っ....」

怖いのに、目が離せない。

何でだ、ドクンドクンのせいなの...?なんか胸が熱くなって、涙がにじんむ

 「ま、まっ...待って...」

飛べるそれはゆっくり山の向こうへ進んでいく。

ぼくはただ悔しい声で呼び止めようとして...それができるわけもなく、そこからはただ両手を握りしめて、ただ見つめていた。

もうこれ以上は何もできないし体中が震えて、動かないし言葉も出ない。


言葉が出ない....


 「ム...ムハノ閣下.....閣下....ムハノ様...どうか、ご武...うんを」


 言ってやった、俺が最後にやれることを....

でも、もうこれしか... 「ガッ....」

血だ。

死ぬよね

みんな血はいた人死んだよ、一緒に訓練した戦友も爺さんも

こうして、俺の人生は終わるのか。

(やだよ)

まだ、選ばれし、俺の人生は始まったばかりじゃ...

俺は選ばれたんだ「か、閣下...」

そうだろう、閣下....デミアン閣下

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「選ばれし」


 「いやよ!お母さんはね!誰も選ばれたんじゃない。でもね!ねぇ!お母さんはあなたたちを選んでないの、そんな権利なんてないの!だからあなた、二人がどんなでも愛するから産んだのよ!ねぇ!いかないで....」


 「違う!」


「あっ!アダグ!愛してるわ!」


「違う!私は神が尖兵、その裁きよ、この錯乱した郷婦を」

なぜだ、なぜ涙をする。

私は、俺は、選ばれたんだぞ。


 「私が選んだはずだ....」

母が、そのせいで何もかも終わってた。

今までにあった私の...俺の全てが

エルドンが死んでいた。

税だ、税のせいだ、法務部は単独特権しかないし、選ばれるとなると故郷の情報も訓練を終えるまで何も知れない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 (違う、違うんだ...違う....ごめん、ごめんなさい。母さん、お母さん、助けてお母さん...ああごめんエルドン、ごめんよ、もう一度会いたい...ああ、ほう...帝...さま)

「え、エ... エルド....ん....」バタ


「やはりかッ!驚いてしまったが未完成の闘技ではないか!!ははは...はぁ...クズめ。」


これは記憶、記憶を追う頼りとはいえ決して良い気分じゃない。

選ばれし存在になっているつもりでも彼が敬愛する上司からは、何も思われてはいなく、敵よりも浅はかで矮小な存在として扱われているようだった。


 「何が一体....!?」

俺の中になぜこんな記憶がいるんだ、なんであるんだ!?

俺の元来の記憶じゃなさそうだし、何だこいつは!?

弟が死んだのに喜んでいたところまで、そんな感覚まであったのに死に際のそれは何だ?

「お前は、お前は、弟を弱いと思って嫌ってたんじゃ。」

誰に問い正すかもいえずに、俺は只々とぶつぶつと譫言のようにつぶやきを繰り返していった。


「ヴェお!」

俺の口から黒い塊が噴き出した。

ゲエエエッ!反吐が床に飛び散る。

胃液と混じり、ねじくれた蜂のような虫の死骸が何匹も吐き出された。その体は歪に膨張し、羽は溶けたようにべっとり、針のような口吻がまだ微かに痙攣している。

なんだか甘ったるい腐臭が広がり、粘液が床板を汚す。やはり蜜蜂なのだろうか、こいつらは。

「ギエエ!」

何に惹かれたのか、弱っていた俺の姿のせいか、あるいは船の上にいる男らをもう殺しては飽きたのか、鳥の怪物たちは来る。

怯えているような俺と違ってやつらは怯むどころか、むしろ興奮したように叫ぶと、羽音を大きくし、飛んできては死骸に群がろうとする。そこで一匹が俺の吐瀉物に嘴を突き刺し、別の二匹が俺自身に向かって急降下してきた。

(何を今更。俺は死ぬのか、また。)

三度目の死か、だがつい先ほどに鮮明な記憶を得て俺はただ恐ろしくあった。

同時に憎い、憎い、全てが憎い。これを憎悪と呼ぶしかないほどに憎かった。辛い経験にある死をもう一度受けたくないからだ。

なのに死ぬ、もうそれはきた。その爪先が

光を反射するほどに鋭利な爪先が。


ザシュッ

 何か一閃し、飛びかかってきた鳥を切り裂く。血しぶきが飛び、俺の頰に掛かった。

誰だ、お前は、なぜ俺を、俺たちは互いに知らない間柄だというのに、この男は、この鎧は、この騎士は咄嗟に俺を守るような位置を取っていたのか。


「あぁ....」

 俺は喘ぎながら、涎と体液を垂らして床に這いつくばった。

頭の中で声が響く——?けど誰だ、それ。名前さえぼんやりとしか思い出せない。出てこない。浮かばないんだ。

今も過去の自分が何者だったのか、まるでわからない。

「う……誰……俺は……」

声にならない。指先が蜂の死骸に触れ、黒い体液がにじむ。

えげつない絵面だった、それで、それのせいで潰れた虫の残骸がまだ微かな羽音のような幻聴を立ててしまう、だから俺の吐き気をさらに煽る。

「こんなのを俺の体に植え付けられて...俺は動き出したのか...うぇ」


「其れは貴公よ、巫毒が術ぞ」

「ぎゃああ!」「もう耐えられん!」叫びはたくさんある、けどなぜか俺は自分に声がけする男だけに、その声に反応できた。

朦朧とするほどに俺は嘔吐しているのにだ。

それでゆっくり顔を上げた。視界がぼやけ、彼の顔が初めてはっきり映る。

遠くで見るよりも近い、当たり前か、近いてきたからだ。

「我が名はセオリク」

「セ……オリク……? ……知らん……」

セオリクが俺の腕を強く掴み、立たせようとする。

「急行になるが我が同伴が待たるるが故に。」

 

何処へ行く、俺に安寧の在処は、死は来るのか。

死が俺を待ってくれるのだろうか。

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