第九十話 白い死神
「やつに至近距離でミルグドラス=マカエル(血葬棘衝)を喰らわせよ」
「?」
「ナグ=ラハ・グル=デザラッ!!(棘よ穿て、血肉の王より賜りし呪槍)なる呪文だ、デザラグ...語....というべきか、お前にはドルザ語で使うべきか、ズグル=デザラグよりも」
「?」
「肉体の破裂による攻撃と言ったところだ、普通は自分と相手の両方を利用する、むしろ自己が主体だが、今回はやつの神術もあってそれごと鑑賞して、爆ぜさせてやる。」
「?」
「魔法だザグラ カリ!イェルサル ニリマ ゴウグ エル、グラマウ ザルグル!!と唱えろ。」
「ま...?ほ?」 「やれ、従わないと殺す。どうせ待てば、くる、今度は次に来たやつの体でやるだけだ。」
(こ、こいつ冗談ではない)
「..!何をすればいい」
手が勝手に動いたのを感じだ。
「それでいい、神術や魔法は、使い方次第で、自分にある以上の力を使える、例え体のない俺や力のないお前でもな。」
(本質は借りることだから...って借りるならば、お前にその代償を教えてはいないが、嘘もしてないぞからいいか、だろう。)
「しかしあれにどう近づけばいいんだ」
俺の知るジョン・フォンと言う男はすでにいなかった、やつの言ってきたことからして、すぐにこんなことをするには思いにくかった。
(ならばここはまずいかもな。)
「簡単だ、同時に難しい。」
「難しいのは当然だ。」
そう当然だ。
この惨状が証明する。
戦場はすでに死の静寂に包まれていた。
とっくに周囲の傭兵たちは全滅し、生きている者など一人も残っていない。地面は赤黒い血と肉片、砕けた骨で覆われ、異様な臭気が立ち込めていた。
それに遠くで雄叫びしか上げないジョン・フォンが証明する。
彼は、ただ直立したまま微動だにせず、血走った目でこちらを捉える。
口を一切開かず、荒い息だけを吐き、汗が絶え間なく噴き出しては蒸発していく。
あれは完全に正気ではない、そして劇的に危険だった。
「やつの神術を教えよう、まずそれを説明しないと。」
こうして俺は初めて知った。
神術も、いろいろと。
初めて知った...決して最後ではない。
あれと対抗することだって起こる....
「弱いが、いいや、まぁ神術はこの世のいかなる他の力よりも上だ、質とかの話ではない、世界を意のままに操作して、己が意識ひとつで置き換える。それが神術だ。」
そうして、ジョン・フォンの能力を知った。
それはどこにでも存在するありきたりの現象を最大限に悪用した、現実的で残虐な弱点連鎖破壊。
ガルシドュースが伝えてくれる。
汗の蒸発、埃の共振、心拍の微小乱流、古傷の拡大、血中鉄分と空気に拡散させて微粒子にしてそれの反応――それらが死体にまで作用し、亡骸を内側から爆発させていた。
事実近くに倒れていた斧持ちの死体が、まず異変を起こした。
もう見てきた光景だが再びきた。
俺が話を聞いている間に。
ポン って感じだったな。
どうやら死体の額に残っていた汗が沸騰し、皮膚の下で小さな気泡が弾けたらしい。
ぽこん、ぽこん、という不気味な音が響き続け、首筋の血管がボコッと浮き上がったのまであった。
きっと内部で血が煮えたぎり、さらにみてると胸腔がから膨張し次の瞬間――
ドゥンッ!
「ヘアッッ!」
「叫ぶな、黙れ」
上半身が赤黒い霧となって爆散した。肉片と骨片、煮えたような熱い血が周囲に飛び散り、他の死体に付着する。
バン!
それが新たな連鎖の火種となった。
俺は思わず息を詰めた。
次に女らしき傭兵の亡骸が震え始めた。眼球が煮え、眼窩から血蒸気が噴き出し、胴体が内側から裂けていく。
爆発の衝撃で近くの死体が連鎖し、膝を砕かれた男の亡骸が遅れて爆ぜた。
「な、なんて数だ。」
地面が赤い泥となり、至る所で小さな爆発が連続している。
ジョン・フォンは本当に動かない。
動いていないのにこの破壊力。
ただ立っているだけで、死体を次々と爆発させていた。
彼の神術はすでに戦場全体を覆い、亡骸を媒介にして拡散し続けている。
作戦など必要ない。
興奮や緊張なども必要ない。
兵も当然いらない。
死後もなお、微かな体温と残った血液、埃との反応が無限循環を生み出していた。
焦ってしまう。
やつらが焦る必要がなくとも俺は焦る。
別に何かを言いたいわけではない。
焦っている。
焦るからだ。
焦る。
それを悟ってるのかガルシドュースがこちらに声がけする。
「焦るな、ラアンドリウス。心拍を抑えろ。息を浅く、ゆっくり。汗を最小限に。奴は動かない。今の状態は自らを触媒にしているだけだ。神術の出力は爵銀の上限で制限されている。接近する道筋を考えろ。」
俺は聞かれたら通りに考えてやがて低姿勢になり、周囲を慎重に観察した、意味があるかは知らない。
(だが今やれそうなのはこれのはずだ。)
まず頭に浮かんだのは風上からの回り込みだった。見える埃の流れを読み取り、死体の陰を伝うのを見た。
しかし死体が爆発するたびに風向きが変わり、血の飛沫が舞う。風上でも完全に安全とは言えない。
次に考えたのは死体の山を盾にする方法だった。
爆発した亡骸の残骸を積み上げ、徐々に距離を詰める。
「いや、ガルシドュース...?なぜ隠れる必要が、効かないはずでは?)
そもそも、隠れてたり、避けるってそれでは時間がかかりすぎだ。
「カスの考えに付き合う暇はない。適度な時間で反撃をする。」
ジョンがさらに術を強めれば連鎖が自分に跳ね返るとでも言うのか。
(もっと大胆……? いや、待て。奴の術は現実の弱さを突く。ならば意図的に弱点を晒して誘導し、逆流させるか……?)
「逆だ」
即答だ。
即答か。
「?」
(俺の考えは未だに筒抜けか。)
「自分の体温を意図的に少し上げ、連鎖を加速させて奴の注意を引け、それは神術上にある。」
「神術上に...?」
「ああ、やつはもはや意識などないに等しい。それを相手にする必要はない。だが万が一にもこちらへと気がついた時には周囲を破壊する。」
「だから隠れたり、失敗した際の予備として防御の...」
「そうだ、それをお前に、そう思わせた。ただし至近距離で一瞬だけだ。奴は動かない今が最大の隙、いつかそれが壊れて、あいつ自体が崩れてシチュにでもぐつぐつになったらまずい。」
(崩れる...死んでも神術と言うものは発動し続けるのか?)
「だから血葬棘衝を直接叩き込め。もちろん呪い(まじない)は忘れるな」
呪いは、あの不思議な言葉のことか。
ゆっくりと前進を始めた。
最初は這うように低く、死体の陰を縫うように移動する。
爆発の衝撃波が近くで起こるたび、体が熱を持ち、汗が噴き出すのが平気かと思い始める。
結構と近づいたところで、最大の死体爆発が起きた。
死体たちは、近いせいか、一斉に未だに爆発している。
いや大地にの中にいる小さな生きる全ては蠢いて潰れているんだ。
虫でもなんでも、例え草でも。
なんだって草が蠢いているのを見ている。
こんなきもちのわるい俺でもそれらはとてつもなく、汚いと思う。
亡骸らが同時に内側から崩壊し、衝撃波が広がるように、周りを崩させていく、崩れるものから支える点として、俺は地面に伏せ、飛沫をなんとかやり過ごした。
血の鉄分が空気中で反応し、周囲の温度が急上昇。
そう感じた。
理由は知らない、それがいやで仕方かないか、なぜか頭が少し、どんよりしてくる。
むずむずとする。
自身の体温も上がり、血管が微かに疼くのを実感した。
(やはり、痛みか。俺が感じるもの...痛みだけのようにで...ここまでくるといささか心地がいいものだ。)
ド
俺は体を起こし、斜め前方に駆け出した。
こうして心拍を意図的に上げ、汗を誘発させる。
やがてジョンの神術が自分に向かい始めるのを感じながらも、速度を落とさない。
ジョン・フォンは依然として動かない。
ただ血走った目でこちらなのか、どこなのか、虚を睨んでいるか。
だが未だに何かがパン爆ぜ、戦場がさらに血の海と化していくのを、生々しくある。
もはや意思と関係ないとでもいいのか。
この破壊は。
この島はなんでも、天災のようなものが多くて気持ちが悪い。
まるで設計されたように。
やがて必死に接近して跳躍した。
ジョン・フォンの胸板めがけ、右掌を全力で叩きつける。
「ナグ=ラハ・グル=デザラッ!!」
接触の瞬間、血葬棘衝ってやつなのか何かがジョンの体内へ直接注入された。
声まで聞こえた。
血葬棘衝って。
周りが叫んだいるような。
けどそれだけだ。
呆気ないものだと今になって思う。
当時は必死だったから
黒い棘が血管を穿ち、臓器を抉り、ジョン・フォンの弱点連鎖を強制的に暴走させたのか、ジョン・フォンは喉の奥で獣のような低い唸りを漏らしただけだった。
別にそこで反撃したり、突如爆発するわけでもなかった。
こんな速くもない俺の手に反応も見せていない。
あんな恐ろしいのが、船でも格別強いわけでもない俺のを喰らった。
だが、俺の掌を通じて、奴の体内で何かが爆発的に崩れていく感覚が伝わってきた。
やはり何かが来るかと気になる。
そんな緊張で額から汗と、けどジョン・フォンの仕業なのか汗が一瞬で沸騰し、首筋の血管が爆発的に浮き上がる。皮膚の下で気泡が連続して弾け、筋肉が断裂し、骨に亀裂が入る音が響いた。
今まで見てきたから、そうとしか思えない。
自分の...神...?術が自分を内側から食い破る悪循環が、儀式を経た本物の呪槍によって加速している。
(槍...なぜそんな考えが?なぜ名前が?)
そうガルシドュースの仕業かわからないか、そんな考えがある。
やがてその体は膨張を始めた。
ドゥンッ!!
体積を増すように膨らんで歪むもの、やがてそのものも限界か。
ガーン!
大規模な爆発が起きた。
ジョンの肉体が赤黒い霧と肉片、煮えた血の奔流に変わり、周囲を一掃した。
爆発の余波で残っていた死体も次々と誘爆し、戦場全体が血の嵐となった。
「うっお!」
俺は爆風で吹き飛ばされながらも、地面に転がって衝撃を殺した。
全身に血と肉片が付着し、そのせいで何か被害を被っているかわからないが、手が激しく震えていた、けど今倒れるような致命傷は負っていなかった。
「ハァ....」
静かだ。
大爆発のせいで耳や目がやられたのか?
静かになった。
動くものなど何一つ残っていない。
ただ赤く染まった大地と、立ち込める血の蒸気だけが残っていた。
俺はゆっくりと立ち上がり、荒い息を吐いた。血の味が口の中に広がり、鼻腔を焼く臭いがまだ消えない。
体内からガルシドュースの満足げな声が響く。
(上出来だ、ラアンドリウス。接近は困難だったが、一撃で終わったな。あの男の術は脆かった。現実の弱さを悪用するだけでは、本物の呪いたる魔法には到底敵わない……油断するな。腐っても神術だ、物理的にもな、ははは。)
やつのふざけた言葉に耳を塞ぎたくなるが、まだ警戒した。
しかしいつだってたっても何もない。
戦いは、簡単に終わった。
その可能性しかない
やつに言われた恐ろしい可能性にも出会してはいない。
「あぁ...」
「そうだな、終わったよ、俺もこの世も。」
その声は、確かに俺の体内から響くはずだった。
さっき見たく、冷たくて、どこか嘲るような響きを持つ独特の声。
嫌な声が今聞こえた。
耳で。
「そうだな、お前は確かに俺の声を聞いてはいるぞ。」
その声は、俺の頭の中からではなかった。
声は、戦場の真ん中――肉片と骨が散乱し、煙を上げ続けるジョンの残骸から直接響いてきた。
俺の背筋が凍りついた。
ジョン・フォンの上半身はほとんど吹き飛んでいた。胸部は大きく抉れ、臓器が露わになり、首は半分千切れかかり、脊髄が地面に触れている状態だった。
(ば、バカな、どれくらいあるか、言えないが、俺の常識じゃこんな..いやあの爆発を見てきたならば...死なず、もしくは生き返るだって)
ゴニョ
死んでいてもおかしくない傷、なのに、その首だけが不自然に持ち上がり、潰れた顔の奥から濁った目が俺をじっと見つめていた。
視覚が必要かは的確できるかもしれん。
唇が、ゆっくりと動いた。
「……上出来だ、ラアンドリウス。」
紛れもなくガルシドュースの声だった。
「ッッ!」
ジョン....?の喉か、そでを通したせいで、か、掠れて湿った、粘つくような響きを帯びている。
ジョン...と呼んでいいか、その残骸が、ぐちゃりという音を立てて上体を起こした。
露出した脊髄が地面を擦り、血と体液が滴り落ちる。
「は。」
声だ、頭の中で響いていたガルシドュースに聞こえる。
まず笑い声だった。
次に、ガルシドュースは、まるで新しい玩具を手に入れたように、嬉しそうな声を上げた。
「ふふ……これは良い体だ。爵銀の力がまだ残っている。神術の残り火も濃い。この体は弱点の連鎖を神術か、良い感じに、血葬棘衝を叩き込まれたおかげで、呪いの棘が根を張りやすい……実に素晴らしい宿だ。お前より、よほど扱いやすいぞ、ラアンドリウス。」
ジョン・フォンの死体が、よろよろと立ち上がろうとした瞬間、再生が始まった。
「なッッ!」
叫んでは逃げる、必死に逃げた。
時たまには追いかけてくるのか気にして振り返る。
だが、それがまずい、不味かった。
あまりにまずい光景を見て俺は思わずに足を止めてしまった。
まず、千切れた首の部分から黒い棘のようなものが無数に伸び、肉を紡ぎ始めた。
断裂した血管が自ら蠢き、血を吸い上げながら修復していく。
「いいぞ、さすがだな、お前をそんな体にしたやつは誰かは知らないが、この世の中にそんなやつが結構いそうで嬉しいな。」
「俺をこんな..?!」
思わずにその言葉に気を取られてしまったが、すぐにまた注意が変わる。
「ま、まだ動き...くっくる!」
胸の大きな抉れ傷からは、赤黒い霧が立ち上り、そこから新しい筋繊維が芽吹くように生えてきた。
失われた右腕の肘から先が、ぼこぼこと泡立ちながら再生し、骨が伸び、肉が盛り上がり、皮膚が覆っていく。
俺は息を飲んでその光景を凝視した。
(は、走らないと!)
だが足がすくんで、いや違う。
何かされているように体が重い!
(まさか、最初に言っていた代償がこれ何か!!?)
俺の驚く間もガルシドュースは止めもせずに蠢いている。
ぴちぴちと音を立てて肉が繋がり、骨が軋む音が響く。
ジョン・フォンの体は内側から修復され、潰れた顔の皮膚がゆっくりと張り上がり、目が元の形を取り戻し始めた。
そして音が鳴る。
ドクン!ドクン!
(龍...?)
何を思ったか俺はそのことを思わずにはいられなかった。
幻想や伝説の存在を、龍を。
まるでその存在、ガルシドュースの胸腔の奥で心臓が再び鼓動を刻み、ドクン、ドクンという音が、それが龍の目覚め、顕現も同然のように。
「ま、ま」
言葉を失う。
光景が理解不能だった。
失われた臓器が棘か、縄か、血管か何かで強引に再構築され、皮膚の下で血管が蛇のように浮き上がりながらも、徐々に安定していく。
ガルシドュースかなのか、なんだだろうか、それはジョンの口を使って、か、口からは愉しげに笑った。
「見てみろ。この再生の具合を。血葬棘衝の棘が、破壊と再生を同時に司っている……素晴らしい。生前のジョン・フォンは凡庸だったが、死んでからの方が価値があるとはな。ふふふ……これならもっと遠くまで、もっと多くの弱点を連鎖させられる。」
それが言うように再生は止まらなかった。
背中の肉が盛り上がり、裂けた皮膚が縫い合わされ、足の骨が折れた部分から新たな棘が支柱のように伸びて固定する。
(逃げないと!できる!移動できる何か恐ろしいのがッ!)
全身に黒い血管のような模様が浮かび上がり、それが徐々に薄れながらも、ジョン・フォンの体をより強靭なものに変えていく。そう見えた
完全に立ち上がったジョン・フォンの姿は、もはや死体とは思えなかった。全身に血と肉片がこびりつき、ところどころに棘の痕跡が残っているが、動きは滑らかで、以前より力強さが増しているように見えた。
いや、別人だ。どう見ても。
「良い体だ。本当に良い。」
ガルシドュースは満足げに自分の...ジョン・フォンの胸を撫で回した。
そうしてせいで掌に残った血見ては、それを舐め取りながら、くる。
俺も一歩あとへと踏み出す、けどそれでせいいっぱい。
俺は掌に先ほどの何かをしようと、そう血...なにか、衝撃...?もはや名前すらうせてきたそれを溜め直し、構えを取った。
ガルシドュースの影響で名前を忘れたか、よくわからない技でも出そうとした。
だがただ指先が震える。
同時に体内にいるはずのガルシドュースの気配が、明らかに薄れているのを感じた。
なぜか感じ取れた
「……わ、技が」
「ああ、その顔おもしろ」
ジョンの体が首を傾げ、ゴリゴリと音を上げながら、振り回す、そしてやがて両手も広げていく。
なんだか、背伸びでもして体の不快をほぐそうとする動きだ。
それはそうして俺に向かってゆっくり近づいてくる。
「お前の中にもまだ一部残っているが、それは意思だけだ、だからこうして俺は確認している、俺と離れすぎた上に、今はこうして神術まで手に入れた、記憶は少ないが、俺にはわかる。俺は、俺じゃなくなる。」
「なっ...何を」
「しかしやはりだ、やはりこちらの方がずっと心地よい、この体は現実の弱さを悪用する術をすでに知り尽くしている。そこに本物の神の力が加われば……限りなく長い連鎖を生み出せるだろう。素晴らしいさ!下等なる存在どもめ!我を除きし全てよ!」
ガルシドュース..?は愉しげに笑い続けた。
「見てみろ、ラアンドリウス。」
彼が片手を掲げた。すると、近くに転がっていた女傭兵の亡骸が、再び震え始めた。
ヒュンと音を上げ続けては眼窩から血蒸気が上がり、胴体が内側から膨張する。
以前より明らかに速く、整然と制御されているように見えた。
ドゥンッ!
爆発はより滑らかで、しかしより残虐だった、肉片が規則的な弧を描いて飛び、別の死体に付着すると即座に次の爆発を誘う。
「どうだ? 先ほどより滑らかだろう。この体、気に入ったぞ。」
俺は唇を噛んだ。
ガルシドュースがその体を気に入ったのは理解できる。
「待て、待ってくれ、まだ現状を理解なんて」
「必要ないさ、伝説は復活した、それだけだ、まぁ我自体は死んだから、元来こんなことはないはずだった。だがまさか長老の寄せ集めどもは、死んだあれの神国を招いては、自分らで神域をも作るとは。」
「お前……俺から離れるつもりか?」
「唐突だな、離れる?」
(乗ってくれるんだな、まだ会話には...ならば交渉の鍵はあり得る)
「馬鹿を言うな。お前はまだ借り手として役に立つ。ただ、主な宿をこちらに移しただけだ。両方使えば、もっと面白いことができるだろう?」
「お前は弱い。力がない。だからこそ、俺はお前を選んだ。だがこの体を手に入れた今、俺はさらに欲が出てきた。……我その者の復活だ!」
やつが、あいつが話す隙に俺はできる限りに後退しながら、必死に考えを巡らせた。
(このままでは、奴は完全に独立してしまう。ジョンの体を乗っ取ったガルシドュースは、俺の中にいた時より遥かに危険なはずだ。)
「逃げるのか戦うのか?」
(戦うなんて)
(続きは、お前の選択次第だ、ラアンドリウス。)
これが残った意思か、ガルシドュースの声がまたとした。
「速い!」
再生を終えたのか、凄まじい速度で近づいてこようとしている。
その時だった。
遠くから、水の音、流れている、それはそう、川の流れる音が聞こえてきた。
ゴオオオ……という低い水音。続いて、大勢の雄叫びが一斉に響き渡った。
「ウオオオオオオ!!」
「殺せ! 全てを飲み込め!」
俺は思わず顔を上げ、声がするその向こうを見た。
暗い木々を越え得てそこに煙が立ち込め、色を変えて灰色深くに、または赤い色も交えて染まった大地の先に、そこから何かが近づいてくる。
色の正体
(光...?焚き火か?)
「ほう?」
ガルシドュースはジョン・フォンだった者の体で微かに首を傾げ、内心で何かに気づいたようだったが、口には出さなかった。
俺は結局状況を完全に把握できずにいたし、内心読まれているかも不安だった。
「ひっーん!鰓なしを殺して正解だ!次は弓矢を打ってくるうざいやつも殺す!」
そう叫ぶやつらは、自分で動かす小さな船に乗っていた。
十艘を超える粗末な外見で、とても何の筏や小舟と違うそれが、まるで地面を滑るようにこちらへ迫ってくる。
船なのかもわからないそれはどれも小さく、人が二、三人と乗れる程度のものだ。
どうやってここまで運んできたのか、見当もつかない。
すぐ近くに大きな川などなかったはずだ、だって確かに長い川こそあったがここまでに距離は少しあるんだ。
船の上で男たちが、叫びながら船が一人でに進んでいるようで、またその進みで水がこちらに向かって飛ばされていく。
水しぶきが弧を描き、地面に落ちる水溜まりを生み、徐々に川のように広がっていく。
地面が湿り、血の赤と混じり合って不気味な流れを作り始めた。
(どうやって……? こんな大量の水を……)
俺は煙を目にして眉を寄せた。船の後方から黒い煙が上がっている。
「まさか、船だけで動く?」
(熱か、あの忌々しい船で知ったが、大副から...)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「火で煙が上がるだろ?」
「...?」
「それで空に行けんだよカスども」
「火を燃やせ!モッペン殺すぞてめぇ!」
「煙はふわっとして飛べるってのか?」
「うるせぇ!てめぇ燃やす!」
「やめろ、船員だ。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(カスが、原理を言ってくれないから...うまく予測が...だがこのあり得ない中、それしかない、空を飛ぶ船できたんだ!)
ならば、ならば動力はどこだろうと必死に探す。
(薪は、薪は!?)
と探した。
見えたのは最初に目を引かれるであろう死体、その下や後ろから煙が。
少しみてわかったが、どうやら人肉を燃やして熱を生み、何らかの蒸気や圧力を利用して船を動かしているように見えた。
(どこから...いや、ジョン・フォンは言っていた大勢の傭兵やら何やらがくると。)
ならば死んだ傭兵たちの残骸を燃料にしているのかもしれない。現実的で、残虐な方法だ。
「チッ」
ガルシドュースはジョンの口で、小さく舌打ちしたようだった。
後にガルシドュース...赤帝と名乗る彼からから聞いたが、どうも“彼”が思っているのは
(阿呆が……あれは人肉を燃やしているのではない。呪いだ。)
だが今の俺にはまだわからなかった。
だからまだ微かに希望を持っていた。
仲間にできるかもしれないと言う希望を。
しかし船が近づくにつれ、乗っている者たちの姿がはっきりしてきた。
彼らが少し乗せているものは異様な見た目だった。体中に古傷と新しい裂傷だらけで、皮膚は赤黒く腫れ上がり、ところどころ肉が露出している。
腕や脚には縄や骨で固定した板切れを巻きつけ、まるで即席の浮き輪のようにしている者もいた。
乗るそれ自体も、死体を何体も積み重ね、皮や骨で繋ぎ合わせた粗末なものだった。
血と体液が滴り落ちながら、水を撒き散らしては赤くする。
一艘の船が特に大きく、水を大量に飛ばしていた。船底には何十人もの死体が積まれ、傷口から流れ出る血が水と混ざり、流れを増幅させている。
男たちは櫂の代わりに折れた槍や斧を使い、叫びながら水を掻き回し、地面を浸食させていた。
だが時たまに深くに見える影もある、まるで何かの皮か鞣か、なんだろうか。
どうやって川を運んできたのか――俺はようやく想像を巡らせた。
(影か)
そこで思う。おそらく、遠くの川で死体や皮袋に水を詰め込んで運んでいたのだろう。
船は現地で組み立て、死体を浮力材や燃料代わりに使いながら移動してきた。
血と汗と水を混ぜ、地面を湿らせながら進むことで、徐々に川を作り出している。
(しかしもう考える暇もなさそうだ。
水が俺の足元まで迫ってきた。地面がぬかるみ、血の臭いがさらに強くなる。
このままでは脱げられなくなる。
少なくとも今の足腰でぬかるんだここを逃げるのにも大変になるはずだ。
ガルシドュースはジョンの体で静かに笑った。
「はあっは」
もしかしてあいつの言うように、体内に残っていない今にあるのか、だから俺は奴の感情を直接感じ取れなくなっていたか、しかし表情から嘲るような気配が伝わってきた。
「面白い……」とガルシドュースが続けて呟いた。
「連中は水と血と死体で戦場を塗り替えようとしている...この戦い方俺...いや我は知らん。」
俺はようやく口を開いた。
「……あいつら、何だ?」
当然か、言えば。
それは答えない
ただ腕を軽く振り、近くの死体を指差した。
するとその亡骸が再び震え、水に触れた途端に内側から膨張を始めた。
ドゥンッ!
「なっ!」
爆発は水しぶきと共に広がり、新たな連鎖を水面に伝播させる。
まるで水が媒介となって、弱点の連鎖がさらに遠くへ拡散していくように。
雄叫びを上げていた船の男たちが、こちらを指差してさらに叫んだ。
「見つけたぞ! 生き残りがいる!」
「水を撒け! 全てを煮えたぎらせろ!」
船団が加速した。小さな船が水溜まりを繋ぎながら、まるで本物の川だ。
「は、いいぞ、魔法の儀式に使うさ。
男たちの体からは汗と血が滴り、それが水と混ざり、蒸発の振動が新たな共振を生み始めていた。
少し長くこれを見たから俺はそこに気づいた。
俺やっと脱げようとする。
だが決して足だけでは無理だ。
すでに迫ってくる。
水の進む方を逃げるだって当然無理だ。
ならば一つしかないと覚悟した。
(船を奪う!)
殺すと決めてきた相手たちとの交渉を不可と判明し、さらには脅威だってあったからだ。
いくら真実などことのあることなどを考えている俺でも今はそれどころじゃない。
「どうする、ラアンドリウス。お前はまだ弱い。そうだ、地形が変わるんだ。お前ではこの猛威を防ぎきれん、この新しい舞台で、俺の力をもう一度借りるか? それとも……」
水の音が大きくなり、雄叫びが迫る。
「グロハー(“ロアー”的な発音)!」
船の一艘が最も近くまで来ていた。
船上に立つ大柄な男の体は、半分以上が火傷と裂傷で覆われ、肉が剥き出しになっていた。
彼は手に持った袋から血まみれの水を撒き散らし、地面をさらに湿らせる。
煙は人肉を燃やしているように見えたが、今思えば、あれは、赤帝ガルシドュースの言う通りにそれは呪いの力で制御されたものであるはずだった。
死体の脂と血を蒸発させ、意図的に熱と蒸気を生み出しているのだ。
思わずに歯を食いしばった。嫌な情景がどんどんと頭の中で湧いてくるからだ。
(現実の弱さを、さらに水で増幅させる……。汗、血、水、蒸気……全てが連鎖の触媒になる。)
まずい、しかしガルシドュースは内心で楽しげに思っていたはずだ。
(阿呆どもめ。自分たちの死と血を最大限に利用して、ここまで「川」を作ってきたか。面白い。)
水が俺の膝まで達した。
足元で小さな爆発が起き、肉片が水面を跳ねる。
「来い、ラアンドリウス。共にこの新しい舞台を味わおうではないか。」
「グロハー!やれ!次は矢どもだ!ただでさえゴミ見たいな水場だ!回復してやるぞおお!」
「いやだ、お前はおかしいぞ、ここまでの俺の力を望むのはなぜだ、なぜ俺の協力が必要だ」
「?」
「もしかして、今のお前!弱っているんじゃ」
ザン!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なぁ、若き人。“白い死神”の話は聞いたことがあるか?」
老人、アズンは濁った目で、活気あふれる若者をじっと見つめた。
若い頃の自分にそっくりだった。強靭で短気で、何も恐れず、世界に好奇心を燃やしていた頃の自分だ。
羨ましく思うと同時に、少し世話をしてやりたくなってしまった。
「白い死神? あの伝説の、ズェルグ=パルシェラ(派手やかな軟体動物)のことですか? 笑わせないでくださいよ、アズン爺さん。あんなの子供だましの作り話でしょう。派手やかな軟体動物なんて...そもそも我らからして人なぞただの獲物じゃありませんか」
若き*1.“漁民”は鼻で笑った。耳の裏に薄く開いた鰓が、嘲るように小さく動いた。
アズンはガラガラと嗄れた声で大笑いした。その笑い声は、まるで喉を何かに突き破られた者のようだった。
「俺も昔は、お前と同じように思っていたさ……。だがな...あれが人だ、本当の人なんだ、今俺たちが狩り続けている存在と違う。あの白い化け物に喉を一突きされたとき、すべてが変わったよ」
アズンの目に、深い恐怖がよぎった。
「幸いだったのは、突き刺された直後に、落ちたんだ。」
「落ちた..?」
「あぁ、土泥を作るために、いつも死体を、落とすように、あんな溝へ落ちたことのように俺は勢いのままにうんよく落ちたんだ。水へとあれでどうにか息の根は止まらなかった。……俺たちの住処、戦場のはずの海、水を恐れてそこから這い上がって、そうした。でもやっとの思い出周りを見たときの光景を、今でも忘れられん」
アズンは大きく息を吸い、声を震わせながら続けた。
「みんな死んでいた!喉を一突きされて、声も上げられずに。全員、若い、強かった漁民たちが……あっという間に屠られていた」
その迫力に、若き漁民は思わず首を縮めた。耳の裏の鰓が、ぴくりと閉じた。
ただの老人のはずだ。いくら以前は強くと言っても自分は若い。
だから反論をした。どこか勢いのない反論だったが。
「へ、へえ……アズン爺さん、その顔...随分と本気っぽい話ですね」
「小僧よ」
アズンは再び嗄れた笑いを漏らした。
「俺の話を、ただの老いぼれの戯言だと思ってくれて構わん。だがもし本物に出くわしたら、今日俺が言ったことを思い出せ。迷わず、振り返らずに逃げろ。財産?女?いらん、死ぬからだ」
「困るな、俺たちエアルダは、戦って神々の酒に」
「乾くこうが飢えてようがだとしてそれで腹が減ろうが何だろうが、命には代えられん。お前よ、一食我慢したくらいで死にはせんよ。……俺みたいに運のいい奴ばかりじゃないんだ」
アズンはそう言って深くため息をついた。
自分は本当に生き延びたと言えるのか。あの日以来、毎夜悪夢にうなされる。
この恐怖の中で生き続けながらも、話だけは伝えなければならない。
老いぼれの戯言と笑われようと、臆病者と蔑まれようと、せめても一人でも多くの仲間が、あの怪物に出会ったときに生き残ってくれれば。それだけで十分だった。
……くそったれの、白い化け物め。
「...やつは不死身なんだ、きっと伝説にしかいないはずの存在、そうそのものなんだ。」
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あれから何年経ったのだろうか。
老耄とコケにした存在に近い歳になっただろうな。
だが、戦士を辞める気なんてない。
そう思っていた。
そう...思っていた。
だが今日から違う。
感じていた違和感の元がきた。
遠い記憶。
子供の頃に怖がっていた話の感覚なのだろうか。
老人の話を聞いて少し怖かったあの感覚か。
どれも違った。
祖先らもこれに怯えていたのか、と考えていた、きっと誰でもいいから共感してくれと思っているんだ。
だから考えだんだよ。
でもそんな考えよりも先に気づいた。
気づいてしまったんだ、本能的に察しては。
自分がこれから出会うのは何よりも恐ろしい存在だ。
「あっ、死ぬ」
湿った森の奥から、霧のような純白の影が静かに浮かび上がった。
自分が刃を出した敵はそれだったんだ。
派手やかな光沢を放つ白い軟体動物の巨体。
異様なまでに美しい色彩を帯びた触手が、無数に蠢き、獲物の喉を狙ってくる。
似ている、似ているぞ。
「赤い、だけども例える、違う、違う、蠢く触手に無数の霧....白く、美しい」
体が凍りついた。
喉を押さえられたような震える声で叫んだ。
「ネグラディス・トルグラン(死と帰還の主)……!」
死と帰還の主が、そこに現れた。
そう本能で察した。
話の存在はいたんだ
「チッ、なんだ、この俺を知ってんのか、あいにくこいつの神術に慣れてるんだ、あとで殺してやる、じっくりと。今は改造しなくちゃいけない。俺好みのに。」
「あ...ああああ!」
「うるさいな...いや、あれか、お前は俺の神術を怪物に見て、うーん...わかった、多分あれだろう、ほかの俺を見たんだな、うんきっとそうだ。うし今は、怖がるな、まだ殺さないぞ。」
「ああああああ!」
「うるさいな。」
「ほれ、見たか、ラアンドリウス、どうもこいつは俺のことを少しは知ってのようだ。」
「おい!やれ!何をしてんだ!」
「さぁ!お前は終わりだ。その恐怖を身にしみながらに消えろ、下等な異形め」
「おい!動ッッ!」
仲間の声だ。
大勢が呼んでいる
動けなかった。足は大地に根を張り、呼吸さえ忘れていた。
心臓が激しく鼓動し、恐怖が全身を駆け巡る。
冷たい汗が背中を伝い、喉が焼けるように渇いた。
死の予感とは違う、これはもっと根源的な畏れ——存在そのものが、己の矮小さ暴かれるような、魂を震わせる恐怖だった。
もう声はしない、自分の全てがそれに奪われていくのか、すでに聞きも見るもそうしてできないのか。
あるいは同胞らがすでにそれの恐ろしいことに気がついたのか。
━━もうどうでもいい
恐怖の奥底から、熱いものが込み上げてきた。
「あ……」
声にならない声が、唇から零れた。
その存在が両の手を広げて、こちらにくる。
恐ろしいほどに、神聖だった。
神などいないはずと思った。
けど存在が、こちらを向いた。
大昔に見た水の中の生き物、光るそれよりも、遠い星よりも、これは眩しくて炎のような瞳だ、彼がそれでこっちを射抜くように見てくれる。
きっとその視線に、魂が裸にされる。すべての罪、すべての後悔、すべての願いが、暴かれていく。恐ろしかった。恐ろしいはずさ。
きっと死神が裁きにきた。
だが、俺は微笑んでいた。
いや、否。この微笑み、歓喜だ。
涙が止まらない。感極まった嗚咽が、どこまでも響く。
殴られている時よりもずっと感じる。
わからない。でも
ありがとう、と心で繰り返した。
鰓で生きてるはずなのに、顔を擦りをする。
きっと目でそれが見えなくなる一瞬が嫌いだった。
けど擦る瞬間見えないのもいやだ。
だから顔を上げ、涙に濡れた目でそれを見つめ続けた。
恐れながら、愛しながら、尊敬しながら。
神よ。
あなたを見た。
「おうら!」
嗚呼、なんと嫌な音だ。
あいつ...いや彼だけを見ていたいのに、誰かの声がする。
いやだ。そんなはずだ。
なのに彼が前にいるからそんな音すらもないに等しく思える。
見ればそれは遠いところにいるようであるか。
違う、俺の兄弟を落とした。
でももうどうでもいい。
乗り場も上げて仕舞えばいい。
今はただ見つめる。
「ラアンドリウス!」
彼が話す
「何また合うさ!運命ではない、磁場だ!平たくある世界は常引き合わせて戻ろうとすると言う!だが俺は、我はすでに昔より常々に設計してきた。その日を待っているぞ!!」
妬ましい。
そんな自分が嫌いでも、彼の視線を奪うなんて、返事もせずに。
それは一体。
「うっ!」
遠い場所の青い髪色の男、彼は返事もせずに睨むだけであった。
「ラアンドリウス!俺はいつまでもお前を待つ!お前と共にありたいからだ!我らはいくらでも広まる!」
そんなわけもわかるわけなんてもなく、青い髪の男はただ沈黙しては心の中で思う。
(なんなんだ。さっきから、これの動かし方もよくわからないし、周りのやつも止まるしで、幸い波の勢いに乗ったままに少し遠くまでいけそうだ。可能な限り距離をつけよう。)
「そうか!良い案だな。」
(しま、いや心が読めると言うなら...?お前が弱いのは知っている、今は弱い状態だ、俺が噛み殺したうさぎのピクピクとしたあれに似ているからだ。)
男は心を読まれるのを利用しようとした、それを逆手に、相手に圧でもかけるように、心の内で考えた。
シャー
けれどもいつまでも水音だけで、先ほどのような返事は来ない。
だから、進んだ、水上を。
不明を抱えたままに。
男がもっとも嫌うこと、自分が失った記憶のようなもの、そのものを。
何かが起きるかもしれずにラアンドリウスは進む。
この島にいる多くの存在たちのように。
例えば、今、水面方にある振動を感じて、主流の大きくある川の中で船ごと沈んでいる彼らもだ。
漁民、たちは今川の中にいる。
乗り物らを縄などで縛りつけては肩を並べているようにしている。
ザク
と縄を切った。
そうして浮かんでくる。
それは早く、通常ならば苦しいはずも、どれも目をかっぴらきしては近づく。
「びゃ!」
久々の外に、空気に声を上がるものはいるけども、それが別に痛みを感じたわけではない。
待ちに飽きた叫びだった。
「なっ!」
ラアンドリウスはその叫びと浮かんでくる存在に驚く。
無理もない、嫌なことが頭の中でだけでなく、今度は現実からも湧いてくるからだ。
なぜならば*2.━━心の泉の毒泡は、いつか現実の濁流となる━━
*1. 海底と沿岸に暮らす半水生の人種であり、エアルダ語に多大なる影響をもたらしている。
耳の裏に可動式の鰓を持ち、それによって水中呼吸が可能、なおかつ陸上でも湿った空気の場所ならば問題なく活動できるが、長時間の乾燥に弱く、内陸の方に定住していることはあまりない、その残留として帝国からは上陸を禁止されている。
一部年齢を重なるごとに体表が滑らかになり、肌の鱗に見えなくもない、人の皮膚の部分が実際に鱗ぽくなるためか、年齢が上がるに連れて鰓の動きで感情を表すことが多くなり、それに連れて耳も動く。
*2. 頭の中で嫌なことが湧いていただけならまだよかったのに、それが現実世界からも実際に湧き上がってきて、止められなくなる状態を表す。
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昔々、ある深い山奥の村に、不思議な泉があった。
その泉は「望めば、何でも湧き出る」と伝えられ、村人たちは魚、果実、豊かな実りを得て、穏やかに暮らしていた。
どれも泡に包まれたもので出てくるから、やがてみんな狩どころか、何かを載せる器を焼いていくと言うこともしないように済んで、誰にも頼らずに住めるようになってしまった。
ところが、その村に一人の男がいた。男は生まれつき思い込みが激しく、さらには疑い深く、何事も信じられぬ性質だった。
「この泉など、皆を騙すための仕掛けに違いない。なのにお前たちなんで信じない!あの泡だってきっとさら...おい!俺を馬鹿にしやがってるな!その顔!なんだと!嘘だ!どうせ陰で笑っている」と、心の中で毒のような疑念を繰り返しては吐きつつけた。
それのせいか泉は男の前でならいつしか毒泡を噴き始めた。
その泡は小さく毒々しく、男を蝕み、顔を暗くし、言葉をさらに棘だらけにした。
「こいつのせいで体が悪くなったんだ!」
村人たちは最初、ただ気味悪がっていた。
しかし男の冷たい視線とよそよそしい態度が続くうちに、次第に本物の疑念を抱くようになった。
「あの男、何か隠しているのではないか」「泉の恵みを独り占めしようとしているのでは」
「本当に顔色悪くなってきたな、毒でも入れるつもりか...それで毒作りでも?」
と、噂は尾ひれをつけて広がった。
男は村人たちから激しく疑われるようになった。
共同作業から外され、泉への立ち入りも禁じられ、道ですれ違えば誰も目も合わせなくなった。
疑われれば疑われるほど、男の心の毒は激しく噴き上がり、夜も眠れぬほどのに苛まれた。
そうしていると、どんどん、とあの泉のせいだと彼は思うようになった。
あれも泉の出したものじゃないかと恐れるようになりやがては食事も正常にしなくなり、顔はひどくて血色なく、青い色になり、手は震え、独り言は次第に狂気じみたものとなった。
ある大雨の夜、限界を迎えた男は泉のほうに駆け込み、叫んだ。
「俺を疑うな! 皆が俺を滅ぼそうとしている!」
その叫びとともに、男の心が望むこと、その毒泡が一気に溢れ出した。
男は泉の水を掻き回し、毒念を吐き出しながら地面を荒らした。
しかし長年の事で衰弱した体崩れて泉の奥へと倒れる。
当然死を目にしてはその思念はいいものとならずにあったのか、泉の水はどんどん変色しては嫌なものへと変わった。
すると、泉の底から濁った泥水のような水流が一気に噴き上がり、ついには激しい濁流となって、村の全体を飲み込み、家々を倒し、畑を埋め、全てを沈めた。
残されたわずかな村人たちは、語り継いだ。
「心の泉の毒泡は、いつか現実の濁流となる」と。
内なる疑念が外なる災いを呼び、ついには幸せであった安定な村全体を滅ぼすことを、永く戒めとしたのである。
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類似するとすれば「心の雲が降らす雨は、己の足元を最も濡らす」があるであろう。




