第八十九話 狡猾なる半身
「カロイアン!」
「カロイアン!任務を実行しろ!裁断を下せ!デミアン閣下の命の元に!我ら法務」
「よ...よ」
「ん....」
「貴公よ!」
「なんだ...まだ暗いのに...起こす」
「セ....オリク!」
「....我が名はセオリク!急であることを承知も、貴公よ!ともガルドシュースをこと尋ねん!」
「うぉ!」
目の前には黒い騎士がいた。
「....誰だ...?あんた」
「貴公よ、我が名はセオリクと申す、その姿、帝国が法務部であろうか、私は騎士団が人よ、故、恐るなかれ。」
「....法務部って....よくわからん....確かにそんな言葉が頭にある、ムハノが上司とか....けどそれ以外は...クラクラするからな」
「そうであるか、そうであろうか、人の世はなんたる不安の定ぞ...悪しき力が顕現に違わんことや!うーおおおお!天よ!地よ!我は戦わんとする!偉大なる正義が降臨がために!」
「うぉ...?」
セオリクという男の言葉を聞いて、法務部の男は思わずに後ずさる。座ったままに尻や手を動かして。
表情からも相手、セオリクが明らかにまずい相手と考えたからだ。
「おお、すまない。しかし恐るなかれ、我は天より遣われし騎士にして、稀代なる勇者。誉の権現ぞ!」
そう言って騎士と名乗る男、セオリクは彼の方に向かい手を差し伸べる。
「さぁ、来るるが良い君よ。この地は天が闇に飲まれる刻(刻)故に、私と共に馳せて参らんか。」
「な、なんだよ...そもそも俺は起きってばっかで..」
「何、これで慌てることはない、我...いいや私も今しばしなり」
「そもそもなんだよあんた!その話し方!」
「赤帝轟拳!!」
「あっ!」
「ガルシドュース!!」
「あれは蒸気!!?火が水を燃やして上を滑るぞ!間違いなく我が友ガルシドュースだ!しかしあの騒乱はなにゆえか!?今ゆこうぞ!」
「な、なんなんだかああああ!」
「来るな!!」
「慌てるな!お前さんらはこの司ってうお!!」
「来い!リドゥにお前たち、おい!君!団員を借りるぞ!」
「おぶえええ!矢!!!」
「同意とみなす!来い!」
「待てあ!わしああああ!」
「うわああっ!」
「滑るな!転ぶと死ぬぞ!」
孤島の密林を切り裂くように、矢が飛んできた。
注意を呼びかけていたランドリウスは巨木の根元に身を投げ、土を蹂躙しながら転がった。
パキン
背後で木の幹が裂ける乾いた音が響く。
と言うよりも幹が少し引き裂かれてしまっている。
「うっ……!」
孤島の密林は、朝霧に包まれていた、だから逃げ惑うにも、ろくにできないわけだ。
(やはりか...密集していたあの建造物やはり、人工的なもの...そしてこちらを襲うやつらが関係ある...のか)
見れば古い遺跡の石柱が蔓に絡まれ、半ば地面に沈んだような場所だ。
空気は湿り気を帯び、土と腐葉の匂いが濃く立ち込めている。
矢が一本、ランドリウスの左胸を深々と貫いた。
(幸い、俺に傷はあまり行動に影響しない...だがこの霧...おかしいぞ、天が暗くある...なるあの叫ぶ声の後に起きたのも違う...矢の持ち主の力か。)
青白い肌をした男は、灰色の祭服を纏い、首から下げた聖印を揺らしながらよろめき、矢を必死に引き抜く。
見た目は帝国の司鐸、ならば傷を癒す――だがそのすべては偽装にすぎない。
彼はかつて死者から外套を盗んでは来た、ただの生きた屍。
本名など、もう誰にも思い出せない、彼でさえ。
海上で死体となって漂っていたところを拾われた。
死者を甦らせる、そんな蜂を操る不可思議な男に拾われて以来、すべてが塗り替えられた。
記憶も過去も何もかも墨をぶちまけられたように。
突然、木々の奥から低い詠唱の声が響き始めた。鼓のような旋律が地面を震わせ、薬草と血の混じった独特の臭いが風に乗って漂ってくる。
(まだ追ってくるのか!?と言うよりも数はまだいるのか)
「やれ!わしゃあ神術で対抗してやる!」
「しかし、隊長!」
「隊長自身からが...?」
「くそ!くそ!またあの火柱!あれのせいで森が吹っ飛んだせいで!あいつら!」
「慌てるなかれ!わしに任せい!」
傭兵団が動いたのだ。慌ただしくも
傭兵らはこの目的地を目指し、数日前から準備を進めていた。
もちろん彼らの目的を達成させる策がいくつもある。
「やれ!こんじゃ、わしだけの力じゃあ術はできんだよぉ!」
誰かが彼の前に並んでいた。多くの数。
数十名近い屈強な男たちが、遺跡に近づく手前の広場で祭壇のようにあたりになんかを設け、何かを手に入れるためのような行為を執り行っていた。
血を捧げ、薬草を焚き、島の力を利用しようとする儀式だろうか。
神への献上だろうか
(今更...神頼みか...?)
「おい!気をつけろ!しくじったら島がまずいだろ」
それは失敗すれば島全体を揺るがすほどの反動を招く危険なものだった。
(ミェゾェン・ナェ! ディ・トルィ・リェス・トラェ)
「去れ、さもなくば終焉は来る」
「あぁ!?」
「騒ぐな!おい!アェルキ・リェナ・シル・ミラ・ノヴ・ディ……ガェル・ゾェン!(わしに言っても無駄じゃ!蛮人!)」
「アッガ・タクナ!(死ね、海老((エアルダ語を使う者らが矮小な存在と相手罵る時に使う)))」
「...サ、レ...エアルダノ...」
「は?ドルザ語って言え、俺たちはこう見えても誇り高き帝国の民だぞ、あんな鮫人と一緒にするな」
騒ぐ音多き事。
ランドリウスはそれらに胸の奥がざわつくのを感じ、ゆっくりとその気配の方へと足踏みを近づいた。ざわつきの正体かなぜか、己が喉の渇きが徐々に強くなってくるのを彼もまた感じる。
(声からするに緊張をしているやつがいる、怪我をしているだろう...誰しも俺じゃない...痛みを感じるはずだ、しかし...)
「……血の匂いだ」
彼は木の陰に身を寄せ、様子を窺った。
「来い、リドゥ、お前たち」
そしてみんなを読んでは身を寄せて隠れていく。
(思い出せ、この現状、説明をしてもらった事があるような、あれではないか、いやそもそもなぜ、あれはしゃべる)
━━━━━━━━━━━━━
あれは一行が湖のほとりを進み始めた....湿った地面が足を沈め、腐った植物の臭いが鼻を突くこともある時。
不快な匂いがあり、さらには不快な音まですることもある。
それはたまに見える、遠くの廃墟からのものだろうか、それは、まだ誰か住んでいるだろうか、風が奇妙な呻き声を運んでくる....そんな恐ろしい中に会話をしていた最中の話。
「は?」
ラアンドリウスの口から、彼自身も思わず声が出ていた。
何度聞いても彼にはその言葉は不愉快だった。
ジョン・フォンはにやりと笑い、髭を指で梳いた。 「だから先の刻の言う通りで贄じゃよ。古き神の残滓を呼び覚ますためぇ。こんん....んんなの島の大奥、湖の底に沈む噂の閃電戟がほしいんじゃ。」
「...なんだそれは?私が君に聞いているのは...何度も同じではある。なぜ贄にする。贄とは何だ。」
「答えろとわしゃに言っても...まぁんここは答えようじゃん、知った方が成功までしやすいんじゃがと。」
「ならばいらない。」
「まぁま、聞いてくれるんじゃ、そもそもその様子...信頼を築けないじゃん....」
「....」
「俺が言う」
(リドゥ?なぜ)
ラアンドリウスは横目で少年を見る
「お前たちエアルダ共に話したくないからだ」
「のうのう、勘違い酷くてたまらん....ゼリガン海あたりからエアルダは広まって平ドルザ...強いてはドルザ語にまで影響してんじゃ、知らんな?御方」
(エアルダ...?何だか懐かしいような...そこで傷を治していた..うっ頭痛が...これ以上はまずいか...)
「まぁ、話は君から聞かせてもらう。」
「のう、さ、贄じゃ話じゃ。まずじゃが、こん話し、わしらが主催しているわけじゃないが、売りにして、資金を集めた事もあった...まぁまぁ有名じゃ。貴族に言った」
(おかしいが...)
リドゥが息を呑む音が聞こえた。少年の指がラアンドリウスの袖を強く掴む。
(……乗ってやるか、知ってのふりで)
「ああぁ、何が言いたいんだ。事実の目的の話か、はったりはきかんぞ。」
「...罠のつもりじゃなまぁ...正解じゃ」
(間違いはない、こいつ、素直に答えすぎている、それに...いや、まずは乗ってやるしかない、実力が違いすぎる。)
思いを実行しようと、ゆっくりと息を吐く、緊張を解すためだ。
そして視線をジョンに固定される。
視線のぶつかり合い。
「つまり、なぜお前たちには私が必要だ。答えろ、何の必要性と...そして何の被害をこちらが被る。」
「待つん」
「黙れ、お前は私をどれだけ愚弄する!何度も同じ事を聞いた!俺の態度はすでに明白だろう!」
「まぁ」
「答えろ、俺はすでに答えている!俺は死にたくはない。そして事実そうあるかと聞いた、何度もな」
「....正解じゃ! 賢いと言うよりもいい度胸じゃない、連盟の司鐸殿は頭座ってるんじゃのう。だが安心せい。お前さんは“生贄”として完璧じゃが、死なせはせん。」
「黙れ、それで何が確定する。なせ言葉を濁す。」
「...あん...たの方....」
じゃリン
ザギン
周囲の兵士たちがざわめき始めた。誰かが槍の柄を握り直す音が響く。
夕暮れの赤い光が、彼らの疲れた顔を不気味に照らしていた。いよいよ目つきがおかしい。いやあたりの雰囲気が激烈する。
淀む。
(この男……なぜ頑なに贄を言わない、状況がまずい
そんな今だが、まだ隠していることがある。真実を知れずに死ぬだけのはごめんさ。俺はもう自分ことさえ知らない...ならばこれだけでも...いいや全てを知らずにはいられない。)
「さ、答えろ!」
ラアンドリウスは手を伸ばし、最後には叫んで言った。
「決定権は俺にあるはずだ!ジョン・フォン。だが条件がある。お前がここまでして俺たちを待つと言うのならば、ここでも激怒しないならば!」
ラアンドリウスは伸ばした手の指先でジョン・フォンを指していいう。
彼に圧でもかけるように
「俺が祭壇に行く前に、リドゥを完全に解放しろ。そして、この傭兵団の全情報を明かせ。それで盟友としての誠意を示せ、その後俺がどう動くかは俺が決める、もちろんお前に伝えはする!」
「なっ、なんだとぉ!」
ジョンは一瞬目を細め、それから豪快に笑っては飛び掛かろうとした部下を止めた。
「ははは! 強気じゃのう! よかろう。リドゥはもう連盟の方のものじゃ。」
「ダメだ、同盟は条約だ、契約だ、明文にしても意味はない、傷を治す前にどれだけ口で言っても!紙で書いても、治せないままで死んだんじゃ、誰も約束はしない。」
「わしらも同盟じゃと言ったはず。だが……そこまで挑発されていいとはわしゃ」
「貴様の信頼はその程度か!!同盟として成り立ちたいならば信頼を証明しろ!俺の心を動かせて見ろ!言葉ではない、事実で!現場でなぁ!」
「やめろ」
「黙れ!条件を伝えてやる!従うかしないかはお前次第だ、俺も」
「やめろ」
「俺の話を聞けばいい!お前は!俺はこのことにかけている、己が命までもな!」
「やめろ、殺して」
「俺は誰よりも信頼している、ここまでの反応や流れがそう示している。お前が望むものを俺にしかないと信頼している。」
「おい...ガン」
「剣を抜くか。いいだろう、だがこちらの条件を言うとは言ったがお前に交渉しちゃいけないという事は言っていないぞ、聞く気はないか。」
「..はは、そうじゃったのう、ほうほう、なら言え。」
(効いた!圧力をかけるギリギリの方法で!こうすれば、ちょっとでもその圧を抜けさせようとする提案を出せば態度は一気に変化する。そんな予想が...効いた。)
ラアンドリウスのこの行動は決して安全ではなかったが、彼なりの思いはそこにあった。
それは、ここで相手に引っ張られては、一時期生きながらえるのは確かではあるだろう。
しかしそうであってもいずれは、確実に死ぬと言う匂いがしていた。
ならば未知で死ぬよりも、できる限りの事を早期の段階でやれば止めることだってできるじゃないか。
(そうだ、傷を癒すのだってそのはずだ...)
だがそれも、一度死んだ自らの命を一番に思わない彼にしかできない行為であった。
交渉としてもめちゃくちゃだった。
もしかして待てばもっといい機会はあったかもしれない。
だがそれも彼の最初の情熱的な発言、彼自身の感情による発言でそれは不可能になった。
(まぁ、どのみちあいつは俺たちを守ることも助けることもうまくは考えていない。)
それもそのはずだ、同盟とは力量さがある場合もある、しかし、その場合は利用されることが多い。
実際生死人の船であの船長と大副(副船長)に契約があるのをラアンドリウスは見ている。
だが、明らかに船長が一方的に利用しているだけだ。
(ならば、増やす、最初の同盟時に俺が見せた態度、俺の怖いもの知らずにある、仮初の姿を見せたと思ったが、どうやら俺は甘すぎた、まだだった...)
「いいか...契約は!」
「いや、わしゃが悪かった。秘密兵器を見せてやろう。」
━━━━━
「秘密兵器!」
ラアンドリウスは思い出す、秘密兵器の正体、島にいる敵の位置、それら全てをジョン・フォンが知るものを伝えてもらったこと。
(嘘かは知らんが。)
そして対抗するために、設置している彼にある生まれ持った才能。
(“神術”)
「....あれをここで使うのか...?」
リドゥが小声で囁いた。
「あんた……本当に大丈夫か? あいつら、やつの仲間だろう。」
「大丈夫さ」
ラアンドリウスはそう答える、別に完璧に制御できるわけでもないし、かと言って落ち着いているわけでもなく、内心での飢えを感じながら舌を這わせては、喉の奥から込み上がる熱いものに魘されるままに兵士たちの首筋に視線が映る。
それがが、光に照らされて脈打っているのが見える。
暖かさのようなものか。
(血……もっと、欲しい。)
突然、森の奥から低い咆哮が響いた。木々が揺れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。
「グロハァァ……!」
声の元ではでは傭兵たちが円陣を組み、中央のジョン・フォンが汗だくで詠唱を続けている。
両手を前に伸ばして、力をかけるような姿で。
祭壇には血と黒い石が積まれ、炎が不気味に揺らめいていた。
儀式は佳境に入ったか、地面が微かに震え始めていた。
突然、祭壇の炎が爆発的に膨れ上がった。黒い煙が噴き出し、傭兵の一人が悲鳴を上げる。
別にジョン・フォンの技ではない。
「うわああっ! 何だこれ!」
地面から黒い霧のようなものが噴き上がり、男たちの足は絡め取られたようだ。
つまり、この様子からすると、彼らの儀式は失敗した。
誰かがが剣を振り回すが、まるで何かの実体が彼に干渉を持ち、腕はねじ曲げていく。
儀式の反動が始まったのだ、失敗したのだ。
「うぉおおおお制御が効かん!」
叫び声が飛び交い、血が飛び散る。傭兵同士でぶつかり合い、飲み込まれるように体が凹み出す者。
結果逃げ惑うだけの者たちが続出する。
それはジョン・フォンが生まれた時に持つ神術の応用系
――“微弱共振連鎖”
弱者ながらに、彼は奇妙にも神術の域に到達した。
その理屈は格別に奇妙なわけでもない。
単に彼の力は弱く、引き起こすにもそう時間は掛からなかった。
この技の核心は、誰も見向きもしない「弱い要素」を徹底的に利用することにある。
自然の威光を持つそう言うような神業に程遠いものである。
例えばガルシドュースやエバンドルらの地形をも変えるもの、破壊や創造行為を我が身でできる、いわゆる壮大なる大神術の偉大なる神術の等級には程遠いものであったのだ。
それは肉体の操作に近いものであり、元来は彼の体内にある己が体の振動、脈拍の支配程度であった。
汗の一滴、息の振動、微かな心拍の乱れ、皮膚の古い角質、埃、血の小さな凝固塊……そうした“取るに足らないもの”を触媒とし、体内で発生する微小なる爵銀の力で共振させては雪だるま式にそれを増幅・連鎖させる現実の神術。
━━━━━━ 「わしのこれ...弱すぎんか」
ガルシドュースのような派手な大技でもなければ、ましてエバンドルが力の片鱗を応用した召喚や世界をも創造する鏡界などはなく、どこにも存在するありきたりのものを最大限の力でやっと動かしてはそれと生体反応を悪用した、極めて現実味のある技、それを儀式を経て残虐なる術となる。
成功すれば、敵の体内で小さな弱点を無限連鎖させ、自らの体を内側から崩壊させる。
そう聞けば無敵のような技である、しかし彼の場合爵銀の出力と神術自体に存在する上限がそれを制限している。
あれはあくまでも、生まれる前に、何もかの生み出した物による、環境汚染によるある意味後天的な才能の一種であり、すなわち成長の上限は最初からひどく制限されている。
事実、この技、失敗をすれば、その連鎖は術者側に跳ね返る。
だが今それが儀式を媒介として実現する。
広範囲の殺傷能力を持つ破壊的な存在へと。
「響け……微かなる弱さよ。ひとつが全てを飲み込むまで……」
ジョン・フォンの声と共に、傭兵たちの体には異変が起きた。
最初に気づいたのは斧を持つ男だった。
「隊ちょ...一体...」
額に浮かんだ汗の一粒が、急に熱を持ち始めた。
「ん……? 汗が……熱い?」
その汗が蒸発する振動が、空気中の埃と共振。埃が皮膚に付着し、毛穴を塞ぎ始めた。
「悪いなてめぇら...わしゃの技...遠くまでいくにはこれしかないんじゃ」
それは敵味方の区別もできない、拡散するには、人を媒介にするしかないものだった。
「バカなあああこの!このンリヘ...ばああああああ!!!」
「ンリゲル・バイン!」
ここから惨劇はさらに広まる、なぜならば、誰しもがひどく興奮、ないして緊張をしたからだ。
結果脈動の高速化が生まれては、人にある心拍はわずかな乱れが血流の微小乱流を生み、血管壁の小さな傷、すなわち普段はさほど問題にならないものまでも
が共振で拡大し、致命的な損傷へと変化する。
ぽこん
誰かの首筋の血管が、ボコッと浮き上がる、それは内部で血が煮え始めたような痛みを走らせる
「う……ぐあっ!? 何だこれ、血が……熱っ!」
痛みは弱い要素の連鎖で雪崩を打つ。
汗が蒸発し、体温微上昇する、そこで筋肉には微細なる痙攣が起これば、さらには関節液までも圧力が変化し、先刻与えた傷、古傷それが共振で開く。
「肩が!!?」
古い肩の傷が裂け、血が染み出すと、その血の鉄分が空気中の物質、至る所にある微粒子と反応すれば、熱は発生する
ならばあたりは温度が上がり、さらに血液をも煮えたぎらせて、無限になる循環が始まる。
全てのものが、気温の向上による体温の上昇で己が身を完全に破壊されるまで。
事実それは周囲の傭兵の汗にも同じ現象を伝播し始めた。
まるで感染するように。
「リャン!」
名を叫ばれるが、その存在はすでに険しくある状態にあった。
おそらくはこの場にいる誰よりも。
彼の剣を握る手のひらに、わずかな汗が溜まっていた。
その汗が共振し、手の皮脂と混じり、滑りを生む。
剣の柄がわずかに滑り、握り直した瞬間の微かな力の偏りが、腕の腱に負担をかけ、微細なる断裂を筋肉に誘発する。振動の誘いか。
ズルン
その振動は徐々に、小さくも着実に肩から首そして脳天まで達してしまう。
結果頭痛が爆発的に増幅した。
「頭が……割れる……! ジョン、お前何を……!」
ジョン・フォンは中央で歯を食いしばっていた。
彼自身も汗だくだったが、その汗が自分の術を加速させている。
微弱共振連鎖の恐ろしさは“現実の弱さを悪用する”点にある。
ならばジョン・フォン自身も利用しないわけにはない。
人間の体は完璧ではなく、常に無数の小さな弱点を抱えている。
この術はそれを「同調」させ、連鎖崩壊を起こす。
一滴の汗が蒸発する力すら、無視できないものまでに増幅するのだ。
ある傭兵の肺に残っていた微かな埃が共振で舞い上がり、気道を刺激すれば、咳が起きる。
普通ならばそこまでのものではないが、何と、何の関係か、連鎖か、咳の振動が肋骨の古いひびを刺激し、起こるは内出血。
続いてさらに血の凝固塊が新たな災いの元になる。
肺をぶち破り、うちから溺れさせる川へと。
ある男は咳き込みながら膝をつき、口から血混じりの泡を何遍も吐いた。
まるで内臓をも吐き出す勢いで。
事は連鎖に起こり、その間も止む気配なし。
別の者は足の裏の小さなマメが破れ、痛みの信号が脊髄を伝わり、全身の筋肉を微痙攣させ、足を崩す。
倒れた拍子に小石などが体にわずかでも当たれば、皮膚の微小な切創が発生して、それによりその血が床の埃と混じり、新たなる被害を生み出すことになふ。
祭壇周辺はすでに地獄絵図だった。
派手な触手や火、雷、神速の斬撃などはない。ただ、皆が自分の“日常的な弱さ”に殺されていく。
汗、息、脈、埃、古傷、疲労……普段は無視できるものが、すべて凶器に変わる。
「最大限じゃあああああ!」
傭兵同士がぶつかり合うと、その衝撃すら微弱共振を強め、連鎖が加速した。
一人が倒れるならば何度も増幅された彼の中での振動が床の微細な亀裂を広げていく。
その亀裂が地面を伝わっては別の者の足をわずかに捻る、さらに捻った瞬間の力の偏りが腰椎に負担し、椎間板の微小損傷が連鎖していく。
「微小な損傷が恐ろしいのううぅうをわしゃは人生で経験し尽くしたんじゃ、こん力のせいで。」
ジョン・フォンの額からも汗が滴り落ち、自身の足元で小さな水溜まりを作っていた。
成功しているとしても彼に損傷は伝わるだろうか。
ならば、まさしく敵味方問わずの技である。
だが損傷は損傷だけでは終わらない。
その汗で出来上がる水溜まりが床の埃と反応し、彼の靴の革にある微細なひび割れに浸透すれば革がわずかに柔らかくなり、足首の動きが微妙に狂う。
自分自身ですら制御はできない。
(.?あれは一体...「種火だ」)
(!!!?何だ今の声!!?)
(「これ以上の好機はない」)
祭壇のような場が沸騰し、ほんの小さな「種火」――ジョン・フォンの詠唱の息が血面に触れた瞬間の温度差――が、儀式の増幅場に飲み込まれたことより起因する。
ならばジョン・フォンこそが最大火力であり、全ての燃料元である。
増幅率はすでに数百倍を超え、種火は一瞬で虚空の熱、存在しないほどの質量や温度を生み出す物へと変換される。
その過程で、周囲の大気や物資が強制的に引き裂かれ、鎖が引き付くように、特殊な力を伝達させやすい空間を急速に形成・凝縮させてしまう。
故にあれはただの火でなく、煙もただの煙ではなかった。
だから火が見えなくても、周りの温度を上昇させている。
形なき燃焼酸素やものら残滓が混ざり、完全燃焼しきれないまま黒い煙になるほどに増殖し、こんな破壊的な場面を生み出したのだ。
その原理だ、そしてそれを可能とするのは。
「...正直セオリクよりも、こいつの力の方が不運に近いな。」
限りなく無限にまで増殖せる不利益、不完全であれば体に必ず、不快をもたらす器官たち、それらを利用し得るものとしていく、ある鍵。
祭壇には黒い煙があった。――それは古代の影の深淵から削り出された“虚空凝縮体”だ。
過去に死んだ特殊体質者の残存、ベックオやムハノのような特殊体質者の死体から生まれるもの。
内部に無限に近い負の圧力を閉じ込め、加熱されると石のような固体の奥で微細な結晶格子が歪めば、一斉に共振を始める材料は揃う。
すでに大量にある圧力の場に熱をかければ、さらなる圧縮する力を生み出す故に、破壊を拡散させていく。
「そしてそれは微小ながらにもウガリスラより上位な神術の元を利用して、生きる生物全ての中に...眠るウガリスラを媒介とする。」
(一体何が...?誰かが俺の脳内で?!)
「すでに点に到達している。増殖は無限かもしれん、しかしおまえ次第で止められる。全ての支えがあいつだからだ。」
「なっ」
「どうした?ラアンドリウス!」
ラアンドリウスは言葉に気がつく、同時に知識も流れてきたからだ。
崩壊の瞬間、閉じ込められていた、“虚空の呼気”、人が死後体内に溜まる、何かに似ている。
屍を膨張させてしまうあの状態に。
確実にそれが今に爆発的に解放される。
血の蒸気と混ざり合い、完全には燃え尽きず、炭素のような影のような粒、名を当てるならば粒子と言うべきそれが融合した超密度の黒煙を生む。
この煙はただの煙ではない。明らかに現実の何かを食いながら膨張し、一つ一つが生き物のように振動する。
自分の目で見えないが、そう見えたと言う感覚が彼の中にあった。
(ならば...利用できる?やつがやっているように...いや、まさか俺が弱いをつけば...?)
弱い要素を巧みに利用する、その技傭兵たちの体温、息の湿気、地面の微かな埃、それらに触れると粒子が活性化し、煙は一瞬で重く粘つく胞子雲へと変質するようだ。
「そうだ、胞子、小さくあるも、人に傷を受けさせる。」
胞子は空気中のどんな小さな隙間も見逃さず、肺に侵入し、皮膚の汗腺に張り付き、地面のわずかな亀裂から下へ沈み込む。そしてそこで凝縮し、黒い霧となって這い上がるのだ。
弱いはずの汗や埃、振動が、逆に最強の媒介となる。
「...ッッ」
最初に煙を直撃したものはすでに砕けるほどのひどくあった。
それには驚かずにはいられなかった。
煙は彼の古い傷跡、数年前の戦いでできた小さな刀傷に集中した。
傷の周囲の微細な瘢痕組織がまるで何かと共振し、皮膚が内側から泡立ち、血が煙のように噴き出した。
あれでは養分のようになっている。
しかしそれはあくまでその存在自身が崩れて、その崩れたものはほかを破壊する鍵になるだけ。
増殖も何もなく、必要とする力もそう強くはなく、ただうまく利用しているだけ。
(だとしても、俺にはあいつのような力はない...一体何をすればあそこまで行ける...矢が俺の胸を刺したんだ....)
そう、強くないという言葉はあくまで、超常の力を持ち存在たちの話であり、ラアンドリウスにとってこれでも充分に強く見えるのだった。
歪なる破壊、砕けて、ぐつぐつになった形なき屍は想像をも超えた形で広がった。
ポツ ポツ
雨だった、孤島には霧があえう、ならば雨が降ってもおかしくない。
「うわあああ!」
「おい!俺に近づくなああ!」
「やめろおお!なんで雨粒でああああ」
媒介だ。
雨にぶつかっては霧ようにばらけていく体、肉片はさらに破壊を作り出す。
雨が体を壊したわけではない、弱い部分にされた屍の破片が霧散しては、ほかへと付着してそれを弱くする、そして今度はそれも雨に壊されて広まる。
現にある傭兵の息が出ても、体内の気体をかけずにただ周りへ湿気を加えるだけで、その顔全体が雨の膜に覆われていく。
それは、彼がそれほどまでに肺が弱くなって、水すらも吹き飛ばせないほどにあると考えられる。
膜は皮膚の油分を吸い取り、毛穴を塞ぐ。
「あっ」
息ができずに恐怖で叫んだ瞬間、弱くなった肉体は震動に反応して砕ける。肋骨の内側から紅い霧が噴き出し、彼もまた拡散されていく。
「儀式は成功だああ!わしゃ、わしゃ最強だああああ!」
「行け。やつは狂っている、俺の思念がおまえの体にあるうちに殺せ。さもないとやれる。」
(なっ、なんだって...)
「儀式は...うっ....ははは」
(何も考えられん...)
(こっこれは!?)
「やつの体も破壊されて周りに広まっているだろうな、力は弱いが...この状態からしても相当に特殊な力だな」
(だから俺は何が)
「...簡単に言うとあいつは体がズタボロになり正常に思考ができていない。」
「やったああああああ!」
(やったぞ、やったぞ、常になかま!分析でこ、わひゃ!塗って!儀式、だから広まる!)
「もっともこの俺の力なくしては思考も読めん、これであいつに近づけ、意図を読め」
(なぜ俺にお前の)
「いやとは言わせない、俺は神で皇帝だ、お前..いいや汝らは従う義務がある、それが褒美だ、ただ気をつけろ、直にやつから血飛沫や腕で掴まれた至近距離での技は俺でも守れない。」
(なら)
「あくまで俺は思念体だ、だから守れない。本体がいない...閉じ込められている今だ...それを教えてやった、ありがたく思えて」
(...ともかく行かないとやられるのか..逃げ切れるのは?)
「海を泳いでみろ、それかこの距離で風より早くなれる気か、肉片がさらに細切れに壊れていけば風よりも早い。」
(そうか....)
「いいか、すでに距離や時間はない、爵銀無くしては死ぬだけだ。」
(なら....頼む...)
「やつを殺せ!」
(いやだ)
「殺せ!!」
(いやだ、やつが何を思っていても俺は同盟のつもりでいる。)
「違うな、お前は人を殺すのが怖いだけの軟弱ものだ、あいつのせいでどれだけが死んだ」
(...それでも俺はこの手で命をもう奪いたくはない、少なくとも誰かの意思では....)
「そうか、お前は俺があの時船で見たやつか。」
(...船?)
「雑魚が!!!あんな弱者に支配される雑魚風情がこの偉大なるガルシドュースに刃向かうなんぞ!!!」
(ガルシドュース...?)
「そうだ、ガルシドュースだ!俺が選んだ!気に入った名前だ!」
(....)
「お前たちと違って俺は自分の意思で名を選ぶことだってできる!だから言うことを聞けばいい!下等生物、矮小なる存在」
(いやだ、弓矢の奴らにやらせる。)
「うわああああゔぁゔぁゔぁゔぁゔぁ!ヴァヴァヴァヴァヴァヴァァ!!!!やれ!やらせろ!力のままに暴れさせろおお!」
ランドリウスはその混乱の隙に戦場の端に滑り込んだ。
白い影のように一人の傭兵の背後に回り、牙を立てて首筋に嚙みついた。
温かい血が喉に流れ込み、焼けるような渇きが一瞬和らぐ。男は短く喘いで倒れた。
「あ...あり」
(あいつの言う通りだな、しかし煽り立てるとあれになって....今も叫ぶのか...性格がわかった...演技じゃなければ)
隣の男が気づき、手を振り上げる。
「タ、ころ」
しかしランドリウスはまたも彼の首に噛み付く。
(...俺に効かないとなれば、接触でこれを渡せるか...血液は、体液の中でも治療にはもっとも...)
「無意味だ、全部この俺のおかげだ....」
(そうか....だがこれ以上は砕けていかないだろう....)
「お前の目でみろ...そうなっているはずだ」
(ありがとう...お前がやってくれたか知らないが...それでお前のおかげな気がする...)
素早く身を翻してまが腕を掴み、引き倒した。
拾ってきた斧で切ろうとするも、すぐに折れてしまう。
そこで再び牙を沈め、血を啜る。
三人目も、混乱の中で抵抗する間もなく喉を裂かれ、傾れる血で祭服がみるみる赤黒く染まっていく。
(ふぅ...力が湧いてくるようだ....しかし鋼鉄でもこれは防げないのか...)
「死ね、この化け物!」
残りの傭兵が気づき、剣や短刀が飛んでくる。
(まだ生きているのか...体格差..?患部を切り落とせば助かる..?)
ランドリウスは考えつつも、先程の打撃に倒れた体を震わせながら数秒で起き上がる。
血で力を得たのか、または何かの真相を求めているのか。
動きは早くあった。
ランドリウスは血まみれの口元を拭い、男の腕を強く掴んだ。
「その腕どのみち切らないといけない、ちょうどいい、俺の発想を検証もできる、耐えろ、痛みに」
ランドリウスは白い歯を覗かせて笑った。口の中に残る血の味が、まだ渇きを刺激しているのか、まるで男の腕を噛むことに期待しているようだった。
男は必死に抵抗した。
「離せ……この化け物……!」
左手でランドリウスの顔を押し返し、右腕を引き抜こうと全身の力を込める。
足が床を蹴り、壁に背中を打ちつけて体をよじった。汗と血が混じり、腕に噛みつけばさらに感じる、広まる生臭い匂い。
(この匂いジョン・フォンの技を喰らったせいか。)
ゴリ
男の筋肉が隆起し、血管が浮き上がる。
「離れろおおお!」
かつては鍛え上げられた肉体だったはずだ。
しかし、すでに肩から滴る血が床を赤く染め、力は刻一刻と削がれていく。
肉体が崩れているのだ、ズタズタに。
故にランドリウスの牙が深く食い込む。
カチリ、という骨が軋む音。
男は獣のような叫びを上げた。
「うああああっ! やめろ……抜け……抜けてくれ……!」
指が痙攣し、ランドリウスの頰を掻き毟るが、その爪はすでに弱々しい。
痛みに耐え男は歯を食いしばり、首を振り、必死に体を捩る。肘でランドリウスの頭を何度も殴りつけるが、その拳は次第に空を切るだけになった。
ラアンドリウスは見向きもせずただその顎の力がさらに増した。
(すぐに終わらせる。)
牙が肉を裂き、腱を断つ。男の右腕はもはや自分のものではない。指先がピクピクと動くだけだ。
「いや……だ……腕が……俺の腕が……!」
男の声が涙混じりになる。恐怖と絶望が瞳に浮かぶ。かつての誇り、力、すべてがこの一瞬で奪われようとしている。
ガキッ。
骨が砕ける音が響いた。
男の体が弓なりに反る。口から泡混じりの悲鳴が漏れる。
ランドリウスは首をゆっくりと捻った。
そして——。
ズルリ、という湿った音とともに、男の右腕の前半が完全に引きちぎれた。
引き千切られた場所から白い骨が覗き、肉片が垂れ下がる。
ランドリウスはちぎれた腕を片手に持ち上げ、神妙な顔眺めた。
(なんだ...俺の知識じゃどう助ければいいかも。)
ドンッ!!
男の体が内側から爆ぜた。
肩から胸にかけてが一瞬で膨れ上がり、肉片と骨片、血飛沫がそこら中に飛び散った。
木々に飛べばそこには赤い花が咲き、地面は臓器の破片で埋もれた。
「...」
男は半分吹き飛び、遠くに飛ばされては、そのままヘタレ込み目で虚ろに天を睨んでいる。
「...まさか」
次の瞬間、男の体にさらなる異変が起きた。
爆ぜた右肩の傷口から、異様な熱が噴き出した。皮膚の下で血管が浮き上がり、黒く膨張する。
グニュ
男の胸が波打ち、腹部が不自然に蠢いた。
「熱い……熱いぞ……なんだこれ……体が……ぐつぐつ……」
「来い!」
ラアンドリウスは男に向かって走り、手を差し出す。
ぐちゅっ、ぐちゅるる……
肉が煮えたぎるような音が、男の体内から響き始めた。
まるで筋肉が内側から溶け、泡立つさま、皮膚の下で血が沸騰するように膨れ上がる。
「たっ!助けて!」
そうして、男も、縋るものはもう何もないのか、自分の腕を噛みちぎったラアンドリウスに残った手を差し出す。
シュン
「あっつ」
ラアンドリウスに顔に蒸気がかかる、しかしそれで彼は足を止めずにいた。
あれは、男の肩の傷口から白い蒸気が噴き、肉片がぷつぷつと弾けた産物。
次に男の最後の腕が自ら痙攣し、指の関節が一つずつ内側から砕けていくように勝手に動き出す。
骨が奇怪な動きで粉々になったのか、皮膚だれてはやがてそこが破れて赤黒い肉汁が噴出した。
ぐつぐつ、ぐつぐつぐつ……
(胸が凹んでいる!)
胸郭が内圧で膨張し、肋骨が一本ずつ折れながら皮膚を突き破る。
心臓の鼓動が異常に速くなり、まるで内側から大槌で叩かれているかのように胸が波打つ。
ぽこん
腹部が膨らみ、皮膚が薄く引き伸ばされて血管が網の目状に浮き上がった。
次の瞬間、腹の中央が裂け、煮えた内臓がどろりと溢れ出した。胃液と血が混じり、床に落ちて白い煙を上げる。
「やありばばああああ!」
言葉がうまく出ていない、男の顔も変貌を始めたのだ。
頰が内側から圧力で膨れ、目が飛び出しそうに突出する。
歯茎からは血が噴き、舌が腫れ上がって口から垂れ下がった。
だから言葉もうまく出ていない。
最後には頭蓋骨が軋み、頭皮の下で脳が煮えるような音がした。
「う……ぐ……あ……ああああああっ!!」
絶叫が途中で泡立つ血に掻き消される。体全体がぐつぐつと煮え立ち、肉が崩れ、骨が粉砕されていく。
脊椎が内側から折れ、背中が不自然に反り返った。
座った姿勢のままに男は動き出した。
ドンッ!!
またもや暴発
頭部は半分吹き飛び、明らかに死んだ。
「...あ...」
ラアンドリウスはなぜか、いやな気分になる、爆ぜて消えたのは彼なのに、それでもいやな気がした。
(...おい、ガルシドュースと言ったな、方法を言え、どうすればあれを止められる)
「いやだ..」
(...ガルシドュース様...偉大なるお方よ、どうか俺に...この矮小なる存在に導きを)
「ふふん...うん、ゴホン...うむ、いいだろう....方法は簡単だ。」
(ああ...いや、はい...)
「それでいい!」
(もっともお前が考えているような方法ではないがな...ラアンドリウスめ!)
(早く方法を!)
(同盟と聞いてなんだと思ったが結局は情報も得ずになってしまうとは...だがいい、今はあの体さえ手に入れれば、思念体の俺でも神術を行使できる...!)
(頼む!時間はもうない!)
「おお、すまん」
━━━彼がそう思っていたかどうか...私にはわからなかった....しかし、そうあって欲しい。
文字はここまでか....
なるほど...私が求めていたものではないが....
乾いた紙の手触りが、指先にわずかな違和感がくる。
古い。だが保存状態は妙にいい。まるで、読まれることを前提に、これではまるで意図して残されたかのようだ。
なんとなく本を閉じかけた手を止め、部屋の暗がりに視線を移した。
集めてきた帝都大備忘録の一部...そして彼女か....
わざと声を出してみようか
なるほど....帝都大備忘録こと...後の章で改名したそれにないのが、この日記にあるとはね...
「リン...様」
困惑。理解しきれない表情。不安だろうな、そのぎこちない動きからわかる。
それで必死に言葉を探すとはやはり愛おしく思える。
さてそろそろ答えてあげようじゃないか。
ああ...聞いていたか...では...行くよ
「はい!リン様!」
違う。
「お師...様?」
そうだ、それでいい
それでいいんだ...そうして、私の跡を...そしていつかは世界を...




