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第10話 建国祭(フィナーレ)7

 ラゥルウントが大国に攻め込まれても勝利したのは戦闘力に秀でていたわけでも得体の知れない魔力を使ったわけでもなかった。大国の中に謀反者がいたからだ。大国の兵を率いた指揮官はその兵力でまずは他国を蹴散らし、最後にラゥルウントを制圧した後は資源豊かな国で自分が王になろうと企んだ。だが、彼は王の娘と恋に落ちラゥルウントの王族を処刑することが出来なかった。


 彼は、側近がみな戦争で死んだことを利用し、彼に似た死体の首を落とし自国へ送りラゥルウントの勝利宣言をした。自分が死んだことにしたのだ。これが大国がラゥルウントに惨敗したという真相だった。ラゥルウントの王族は事実を隠蔽することで娘と彼を結婚させ、やがてすべての出来事を差し替え、彼の顔を知る者がいなくなるまで鎖国を続けた。


「多少はわが国がおかしな魔法を使うだとか、女王は恐ろしい女だとかそんな噂をまやかしに使いましたが。今後は大国を蹴散らした軍事力への脅威も消えていくことでしょう。この通り、事実ラゥルウントには何もありません。……これから、新しいラゥルウントを作っていくのです。今の王族にはすでに異国の血が入っているというのに、戦争と鎖国のせいで国民の異国への嫌悪は長く続き払拭するのは容易ではありません」

「ああ、それは我が国もだ。表向きは受け入れているが、内情は厳しい。昨日今日でなんとかなるものではないだろう」

 アデルモの言葉に、リティアはウォルフリックのことを思った。……彼も差別に苦しんだのだろうか。ふと、ヴェルターが自分と結婚しなければラゥルウントの王族と結婚してもいいと言ったことを思い出した。ヴェルターの顔を見ると、にこりと微笑む。もうその気はないのだと確認できるとリティアの心は穏やかだった。


「こちらからも打診はしてみるけど、目ぼしい令息はいたかい? 」

 ヴェルターが尋ねる。畏まらない言い方に、アンが軽く答えられるようにしたのだろう。


「ええ、フリデンの男性はみんな紳士で、教育がしっかりなされているのでしょうね。そこも我が国が見習いたいところの一つで……。ですが、本人に聞いてみないと……」

 アンがリリーラの顔を覗き込む。どうやらラゥルウントとしてはリリーラを結婚させたいようだ。リリーラは俯き恥ずかしそうにしている。リリーラはアンとは違い控えめな性格らしくまだ一度しか声を聞いていなかった。


「リリーラ、君は気に入る令息はいなかったか? 言ってくれたら私が交渉してもいい」

 彼女の隣に座っていたアデルモが言いたいことも言えないのだろうと彼女に気を利かせたが、リリーラはおどおどするだけだった。アデルモはヴェルターに伺う。


「ランハート・ヴェッティンはどうだろうか。彼は知的で策略家だ。ヴェッティン侯爵家の後継者で、彼の父も優秀であり、国王の信頼も厚い。あの家門は末代まで安泰と言われるほどだ」

「叔父上、彼は決まった令嬢がいる」

「そうか。残念だな。では、レオン・フリューリングはどうだ。次男故、そちらに行くことも可能だろう。交渉事には長けているし、人脈という意味でも、」

「彼は、うちの騎士団になくてはならない存在です」

「そうか、でも、決まった令嬢がいないなら……」

「“決まった令嬢がいない”のが問題なのです、叔父上」

「そうか。では、ウォルフリック・シュベリー。彼は純粋すぎる所があるが、異国の結婚に偏見はないだろうし、何より優れた外見なのに浮気などの心配はない。夫にしたら幸せだろう」

「彼にも心に決めた相手がいらっしゃいます」

「そうか。そうだなぁ。名だたる貴族の令息は大体もう相手が決まっている年ごろで……。ああ、スタイニッツ家には二人の息子がいたな。女性を気遣える優秀な令息で、……とにかく顔が良い」


 ヴェルターが口を開く前にリリーラが首を横に振った。

「そうだな、リリーラ。どうしても年下ばかりになってしまうな。しかし、年のつり合いが取れた男はみなもう結婚していて、残っているのは、酒癖の悪い奴、浪費癖、無意味な自信家……。うーむ。アンとペールもアンのが年上だ。年下は素直でいいもんだぞ。ああ、ではマルティンはどうだ? 」

 アデルモが一人一人候補の名を挙げる度にリリーラの顔から赤みが引き、美しい深紫の瞳は涙が滲んでいた。アデルモがそれに眉根を寄せる。


「リリーラ。何も国のために君が犠牲になることはないんだ。嫌なら嫌と言えばいい。姉上だって君の幸せ以上に望むものはないのだから。そうだろう、アン」

 アンはアデルモの問いに苦笑いで返した。ヴェルターとリティアははっと顔を見合わせた。


「やはりな、結婚というものは、王家に生まれたからには自由にはならず責任や義務だと、私にも気持ちはよくわかる。だが、君に我慢はして欲しくない。意見は言ったって構わない。君たちは仲の良い姉妹ではないか」


 アデルモが必死にリリーラを慰める様子に、……こんなに鈍い人だとは……と、この場にいる者すべての顔が同じになった頃、アンが口を開いた。


「……私たちはこれから話さないといけないことがありますので先に失礼いたしますわ。行きましょう、ペール」

 ペールは怒られた大型犬のようにしょぼくれたまま一礼してアンと出て行った。


「……叔父上、僕たちも、そろそろ二人になりたいんだ。いい? 」

「あ、ああ。構わない」


 ヴェルターはリティアを促し、リリーラとアデルモを二人残して部屋を出た。


「リリーラ、君も明日帰るのだからもう休んだ方がいい」

 部屋の中からアデルモの声が聞こえてきて、ヴェルターはわざとらしく肩をすくめた。


「まさか、叔父上があんなに鈍感だと思わなかった」

「……私も。まさか、本当にリリーラをこのまま寝かせるつもりかしら」

「明日帰るのに」

「明日帰るのに」


 二人はどうすることも出来ず、後はリリーラに任せるしかなかった。どうやら、今回の訪問でリリーラに相応しい令息を見繕うつもりが、彼女がアデルモしか見えなくなってしまったようだ。


「お似合い……よね。すごく。でも、おじさまは年齢差に抵抗があるのかしら」

 リティアがいうとヴェルターはいち、に、と指折り数えた。

「二歳差、だね」

「え……? 」

 リティアは驚いて足を止めた。

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