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第10話 建国祭(フィナーレ)8

「二歳? そんなに近いの? 二つ下ならむしろちょうどいいじゃないの」

「……いや、二つ上。リリーラの方がね」

「そうなの……。って、え!? 待って。妹!? ではアンはもっと年上ってこと? 」

「そりゃあ、7人も子供がいるんだから。30は過ぎてるはずだよ」

「う、うそでしょぉおおお!? 私たちより軽く10以上も上の人を気安く呼んでいたってこと!? 私ったらなんて失礼なことを! それに、なんて美魔女! 」

「はは。魔女? 言われても信じるくらい不思議な人だね。いいんだよ。アンがそうしてくれっていたんだから。本音が聞きたかったんだと思うよ」

「でも、でも……」

「いいんだって。彼女が気にしているように見えるかい? 」

「いいえ」

「だろう? いいなって思うよ、彼女のそういうところ」

 ヴェルターが目を細めた。リティアはヴェルターがアンを褒めてももう平気だった。そうではないと知っているからだ。


「ええ、私も素敵だなって思う」

「うん。さて、とにかく叔父上もリリーラも大人だからね。きっとうまくやるさ。で、アンのところも、仲直りしたかな」

「ペールはいくつなの? 」

「叔父上と同い年」

「……うーん、どちらが大人に見えるのかはさておき、二人が同い年っていうのもピンとこないわね」

「はは、わかるよ」


 ヴェルターと笑い合いながら長い廊下を歩き、リティアはふと周りを確かめた。


「ヴェル、こっちは私の部屋ではない気がするのだけど……」

「うん。僕の部屋に行こうかと」

「ヴェルターの? なぜ」

「……なぜって“僕たちも、そろそろ二人になりたい”って言っただろう? 」

 ヴェルターは何を言っているんだ、とばかりに言った。


「え、それはあのリリーラとおじ様を二人にさせる口実でしょう? 」

「……いいや。本心だけど、君はそうじゃない? 」

「そ、そりゃあ……」

「うん。そりゃあ? 」

 ヴェルターはリティアを追い詰める様に顔を近づけ、にこにこ笑う。

「もう、ヴェルター。そうやって余裕ぶってからかうのね。何だか悔しいわ」

「からかってないさ。もう遠慮はしないって決めたんだ」


 こうなるとリティアも思い切って素直になるしかなかった。


 だって、二人きりになりたいのは事実なのだから。リティアは恥ずかしさと嬉しさの入り混じった気持ちだった。だけど、何て満たされた気持ちなのかしら。リティアが知らず、早足になっているのをヴェルターはくすぐったい気持ちでエスコートした。


 部屋の中に入るとヴェルターはリティアをソファに座らせ自ら給仕した。リティアが喉を潤したのを見計らって距離を詰めた。リティアは体を強張らせたが拒否はせずに受け入れた。だが、慣れない甘い雰囲気に耐え切れず喋り出す。


「どうしてヴェルターの部屋だったの? 私の泊まる客室でも良かったのに」

「君の部屋まで送って、ドアの前で“じゃ”なんて言われたら無理やり部屋にはいるわけにはいかないからね。僕の部屋なら僕から誘えるし、もし君が嫌だって言っても、ここからまた君の部屋まで送るまでは一緒にいられるじゃないか」

 ヴェルターの甘い策略にリティアは顔を赤くした。


「だって、せっかく誤解が解けたんだ。()()()()()()()()したいだろう」

 ヴェルターが言いながらリティアの頬に口づけ、リティアはますます体を強張らせ顔を赤くした。


「リティ」

「は、はい! 」

 ごくごく近い距離で目を合わせて来るヴェルターに、リティアは“こ、これは”とぎゅっと目を閉じた。


「リティ。目を開けて」

「え、目? 」

「うん」

 

 キスだと勘違いしたリティアは羞恥を咳払いでやり過ごした。ヴェルターはそっとリティアの手を取り、手の甲にキスを落とすとブレスレットを着けた。リティアは手首のひんやりとした感触に贈り物をされたのだと気づく。華奢な金の鎖に真珠が一粒輝いていた。

「いつか、君が僕の髪みたいだって言った真珠を、買っていたんだ。でもずっと渡せなくて。僕の髪色と同じ色の装飾品なんて、欲しくないだろうなって」

「ヴェル、嬉しいわ。ありがとう。とっても綺麗ね。欲しくないわけないじゃない」

「……君だってずっと、特に最近は僕によそよそしかったから。それで、シュベリー卿を好きなんだなって勘違いをしてしまったんだ」

「あ……」


 そうだった、とリティアはヴェルターに隠していたことを打ち明けることにした。これ以上誤解されたくはなかったし、不安にさせたくもなかった。


「ヴェルター、あなたに話したいことがあるの」

 ヴェルターは緊張の面持ちで姿勢を正す。ごくりと喉が動いた。


「……実は、忘却の魔法が解けたみたいなの。それで……それでね、私はずっとあなたから婚約破棄されるのだと思っていたの。何の記憶かわからないけれど、確信していた。今となってはひょっとしたらそんな物語が過去に流行っていたのかもしれないかと思う。あなたとお似合いの悪女が現れて、あなたは彼女に出会って本当の恋を知るの」

「……悪女。いや、そういえば君は時々理解できない言葉を口にすることがあった。そういうことか」

「あなたをその悪女に譲る準備をしていたの。自分が傷つかない準備を……。ごめんなさい、それであなたを傷つけることになった」

「ああ、腑に落ちた。そうか、そういうことか。リティ、それによって君の体調や気持ちに辛いことはなかった? 大丈夫かい? 」


 こんな時まで自分を心配するヴェルターにリティアはもう100回はこえてるだろう自己嫌悪に陥った。

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