責任転嫁
ここスイストリアは様々な問題を抱えている。
他国に追いつかない産業。
強すぎる封建制度。
他にも多々ある問題を未解決のままにしてずるずると時を重ねてきた。
だが、当面一番の問題はマテリア平原での敗戦である。
同盟関係にあるファーナリス法王国と呼応する事無く、単独でジルベルク帝国に戦を仕掛けて完敗したのだ。当然の如く問責責任になる。槍玉にあがったのは総指揮官である騎士団長のアモンデス=ヘルバーニだ。
同盟を重んじる法王国派の重臣達はこの機に独立派を一掃しようとした。そこでまず、騎士団長の位の剥奪を謀った。
だが、ここで待ったがかかった。
宰相、宮廷魔術師、なにより国王が反対を示したのだ。
代わりになるものが居ないと嘯<うそぶ>いたのだ
では、誰が責任を取るのかと詰め寄れば、戦は時の運、勝つこともあれば負けることもある。たった一度の敗北で責められようか。と、言いのたまう。
ならば報奨を受け取るなと言いたい。
「このように責任転嫁の言い争いに発展しております。」
情報収集の達人としての腕を遺憾なく発揮したファニスの報告をジーク達は聞いていた。マテリア平原での戦で再度、後方の予備軍に追いやられたときに壊走の兆しを見逃さず即行で退却してきたのだ。そのためロッツフォード騎士隊の被害は皆無であった。
報告を受けてジークはファニスとカティアに軍事機密を除いて戦の詳細をありのまま市井に流すように指示した。
これにファニスが疑問をはさむ。
「ありのままの情報を流す事に意味があるのですか? こちらに都合がいいように捏造すべきでは?」
「この国ってな情報を歪めてのうのうとする連中が居るんだよ。王家の連中とか、王家の連中とか、あと王家の連中とか。そいつらに振り回される前にこちらにとって都合の良いありのままの情報を流して欲しいんだよ。」
以前、移民希望を募る為に出かけた王都で情報操作により伯爵が穀潰しのように扱われていたことをジークは許してなどいなかったのだ。何せこれにより人材発掘が出来なかったのだから。
「つまらぬ事を申しました。お下知に従います。」
こうしてファニスはカティアを伴い退室していった。
ジークとロッツフォードの騎士隊が立て直しの為の退却時に殿の務めを果さなかったからこのような壊走になった。
言い訳としては苦しいが今回はこれで乗り切ろう。
アモンデス=ヘルバーニは保身の為の情報操作をしていた。
だが、アモンデスは知らなかった。
このときすでに市井には正確な情報が流れているということを。
スイストリア王国宰相ベリガン=ヨルバーニ。
スイストリア王国宮廷魔術師ガンド=ヘルバーニ。
この両名はアモンデスを呼び出していた。
アモンデスは宰相と兄に呼び出され厳しく叱責を受けている。
情報操作によって責任の矛先はジークとロッツフォード騎士隊に向いているはずなのに・・・。
アモンデスは理解できないでいた。
「市井にはどういう訳か戦の内情が細部にわたり知れ渡っておる! お得意の情報操作はどうした!!」
「この馬鹿者が! 愚民共はお前の事を無能となじっているのだぞ!」
「戦に私情を持ち込むな! おかげで機を逃し壊走する羽目になったではないか!」
「今、下々ではジークという冒険者ごときを騎士団長にすべきだという者までいるのだぞ!」
数々の罵詈雑言を受けていた。
「・・・・・・。」
「何とか言ったらどうなのだ!」
「では、私にどうしろと!?」
「「・・・・・・」」
「・・・ほおら! 言えない! 今、私を処罰すれば法王国派が細部に至るまで私の落ち度を探すでしょう! そうなれば今まで一緒に甘い汁を吸ってきたことがばれてしまう! お二人はどれだけの金を懐に入れましたか? 残された道は二つ! 私と一緒に破滅するか、私を助けるか! どちらかなのですよ!」
こうして三人は責任の転嫁先を考えるのだった。
「ジーク様大変です!」
早朝、ファニスによって叩き起こされた。
「スイストリアがトンでもない事を発表しました!」
この言葉にジークの眠気は吹き飛んだ。
「何ぼ何でもこれは無茶だろ・・・。」
「いくらなんでもねぇ・・・。」
ジークと伯爵は共に唸った。
スイストリア王国が発表した内容は次のとおりである。
・北部未開拓地の開拓に費用がかかり過ぎてるために戦の物資に影響が出た。
王家は一切開拓費を出していない。
・ロッツフォード領が初年度以降税を納めていない。
次年度も命令書どおりに適正額を納めている。
・ロッツフォードが変な兵糧を準備した。
ちゃんと食べられる兵糧である。そもそも食す機会がなかった。
・ロッツフォード騎士隊が働かなかった。
予備軍に入れられた為に働く機会すらなかった。
・ロッツフォード騎士隊が殿の務めを果さなかったので壊走した。
そんな命令など受けていない。
とにかく言い掛かりといえる内容なのだ。
ソルバテス=ロッツフォードはジークを筆頭に、スィーリア、エドワード、アクアーリィ、等々たくさんの人間を呼んで事の真意を探ろうと頭を捻らせていた。
そんな中ポツリとジークが呟いた。
「・・・ひょっとして・・・。」
これに皆の視線が集まる。慎重に言葉を選びながら説明を始める。
「今、スイストリアでまともな領地運営が行われてるのはここ、ロッツフォード領とお隣のグリズール領、そしてディナス領ぐらいだ。この言い掛かりがロッツフォードを狙い打ちにしてるのは家がファーナリス法王国との同盟を重んじる法王国派だからだ。他の二つの領地は独立派だからな。ここまではいいか?」
皆頷く。
「それでだ、何故こんなことをするかというと、欲求不満の捌け口に使おうとしているんだろう・・・。」
「欲求不満? 捌け口?」
「あぁ。産業の後発や今の時代に合わない古すぎる封建制度。これが国民に負担をかけているのいる。そこに敗戦の報だ。怒りは王家に向く。重い税を課して何たる様だってな。当然暴動になる。そこでロッツフォードに白羽の矢を立てた。」
「迷惑なはなしだねぇ。でもなんでだい?」
「ロッツフォードに暴徒が集まるようになれば暴徒鎮圧という大義名分のもと堂々と侵攻することが出来る。そうしてロッツフォード領を直轄領にする。いくつもの金のなる木を手に入れることが出来るという寸歩だろ。国民の不満のぶつける先を作ることが出来、産業という金のなる木も手に入れられる。これが狙いだろう。」
最初は可能性という意味で意見を述べていたが説明している内に確信に変わった。
スイストリア王国は長年の課題であった産業開発を手に入れるため。国民を暴徒化させ今まで溜め込まれた鬱憤を晴らす場所として、そしてこれによる今の封建制度を廃して新しい制度をしくための犠牲にする為にロッツフォードを選んだのだと。




