↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/8

第3話 絶縁状じゃないか

「……キリオス。もう一度聞くぞ。本当にお前がやったのか?」


「あぁ。俺がやった」


「妹を庇うために嘘をついているのではないだろうな?」


「違う。答案用紙を改竄したのも、クリスタの部屋に隠したのも俺だ」


 ……。


 なんだこの問答は。


 俺が犯人だと自白しているのに、目の前の教師は眉間に皺を寄せ、何度も同じ質問を繰り返している。


 そりゃあ、妹を庇うために嘘をついていると思われても仕方がないか。


 だが、こちらとしても譲るわけにはいかない。


「ケビンの答案用紙を入手したのは俺だ。書き換えた際についたインクの染みが、右下にあるはずだぞ」


「……何?」


「それに、クリスタの部屋に答案用紙を隠したのも俺だ。必要なら詳しく説明するが?」


 これはゲームのサブストーリーで明らかになる情報だ。


 まさか、自分の犯罪を立証するために攻略知識を使う日が来るとは思わなかった。


 人生、何が役に立つかわからないものである。


「……お兄ちゃん」


 背後から、小さな声が聞こえた。


 振り返ると、クリスタがこちらを見つめていた。


 相変わらず無表情だが、わずかに眉が寄っている。


「……どうして?」


「ん?」


「どうして、そんなことを?」


 ……。


 そりゃあ、そうだよな。


 実の兄に陥れられたと知れば、誰だってショックを受けるだろう。


「すまなかった。お前は何も悪くない」


「……」


 クリスタは何も答えなかった。


 ……当然か。


 そんな簡単に許してもらえるようなことではないからな。


「とにかく、処分するなら俺だけにしてくれ。クリスタには何の責任もない」


「……わかった。事実関係を改めて調査する。それまで二人とも、この部屋から出ることを禁ずる!」


 教師たちが慌ただしく動き始める。


 ……。


 よし。


 これでひとまず、クリスタの追放は回避できそうだな。


◇


 それから数時間。俺は教師たちに囲まれ、延々と事情を聴かれていた。


 答案用紙をどこから持ち出したのか。どうやって書き換えたのか。なぜクリスタの部屋に隠したのか。


 聞かれることは山ほどあったが、幸いにも攻略サイトを作るために調べ尽くした事件である。


 犯行の経緯は、すべて頭に入っていたんだが……動機については少々困った。


「妹の才能に嫉妬した、と?」


「あぁ。それと、平民のケビンが優秀なのも気に食わなかったらしい」


「……らしい?」


「いや、気に食わなかったんだ」


 危ない危ない。


 つい第三者目線で答えてしまった。


「……お前、本当にキリオスか?」


「どういう意味だ?」


「いや……」


 教師は何か言いたげだったが、小さく首を振って黙り込んだ。


 ……。


 まあいい。


 さて、俺はこれからどうなるのだろうか。


 ゲームのキリオスは、最終的にアカデミーを追放されるのだが……。


 ただし、それはこの事件の後もケビンに嫌がらせを続けた結果であり、今回の不正事件だけでどういう処分を受けるのかは、詳しく描かれていなかった。


 ……。


 まさか、牢屋に放り込まれたりしないよな?


 そうなると、さすがに困るぞ。


◇


 翌日。


 俺はアカデミーの一室に呼び出され、正式な処分を言い渡されることになった。


「キリオス・マクレイン。今回の行為は、アカデミーの公正さを著しく損なうものだ」


「はい」


「本来であれば退学処分も検討すべきところだが、お前は一年次から真面目に学業に励み、生徒会の職務にも尽力してきた」


 ……ほう?


「また、自ら罪を認め、調査に全面的に協力したことも考慮する。よって、退学処分は見送る」


 ……え?


「ただし、生徒会書記の任を解き、学生寮からの退去を命ずる。加えて、一定期間の謹慎処分とする」


「……はい?」


「なんだ。不服があるのか?」


「いえ、ありません」


 退学じゃないのか。


 ……。


 困ったな。


 普通に考えれば喜ぶべきところなんだろう。しかし、俺としてはアカデミーから離れて悠々自適に暮らすつもりだったのだ。


 学生寮から追い出されるだけでは、ただの家なき学生じゃないか。


「それから、もう一つ」


 教師が一通の封書を取り出した。


「マクレイン公爵家から、お前宛てに届いている」


「……父から?」


「あぁ。内容は自分で確認しなさい」


 受け取って封を切ると、中には短い手紙が一枚だけ入っていた。


 どれどれ。


 『公爵家の名誉を著しく傷つけたことは許し難く、今後一切マクレイン家の者として扱わない。生活費の援助も打ち切る。家名を利用することも許さない。シルベスター・マクレイン』


 ……。


 なるほど、絶縁状じゃないか。


 さぞかし仕事ができる男なのだろう……随分と判断の早いお父様だ。


 いや、まあ、実際にやらかしたことを考えれば当然か。


 嫉妬に狂って妹を陥れ、平民の答案用紙まで改竄したのだから、公爵家としてはさっさと切り捨てたいところだろう。


 それは理解できる。


 理解できるのだが……。


 生活費まで打ち切られるのは困りものだな。


◇


「……お兄ちゃん」


 処分を言い渡された部屋から出ると、廊下にクリスタが立っていた。


 銀色の髪を背中に流し、壁際で静かに佇んでいる。


「クリスタか。もう疑いは晴れたんだろう?」


「……うん」


「それはよかった」


 うむ。


 これでひとまず、第四章のボス化は回避できるかもしれない。


 あとはケビンと仲良くさせて、適切なタイミングで強力な装備を入手させればいい。


 将来的に災厄竜のメテオを防げるほどの魔法使いになるのだから、育成さえ間違えなければ間違いなく最強候補の一人になる。


「……お兄ちゃん」


「ん?」


「退学には、ならなかった?」


「あぁ。寮は追い出されたけどな」


「……そう」


 クリスタは小さく頷いた。


 そして、俺の制服の袖をそっと掴んだ。


「……ありがとう」


「ん?」


「私のために、全部……」


 ……。


 どういうことだ?


「いや、別にお前のためというか……」


「……わかってる」


 顔を上げたクリスタの表情は、相変わらずほとんど変わらない。


 だが、妙に真剣な目をしている。


「お兄ちゃんが、あんなことをするはずがない」


「……はい?」


「ずっと、知ってるから」


 ……。


 何を?


「お兄ちゃんは昔から真面目だった。いつも勉強して、生徒会の仕事も頑張っていた」


「……そうなのか?」


「……?」


「あぁ、いや。そうだったな」


 おっと、やらかすところだった。


 仕方がないじゃないか。


 キリオスがゲームで登場するのは、嫉妬に狂って嫌味な貴族になった後の姿ばかりだったから、元のこいつがどんな学生生活を送っていたのか、俺が知るわけないのだから。


「だから、わかる」


 クリスタが俺の袖を掴む手に、少しだけ力を込めた。


「私を庇って、嘘をついたんでしょう?」


 ……。


 ん?


「いや、違うぞ。犯人は俺だ」


「……もういい」


「いや、本当に……」


「もう、嘘をつかなくていい」


 ……。


 おいおい。


 どういうことだ?


 真実を話しているのに、嘘をつくなと言われている。


 まさか、こいつ……。


「クリスタ。お前、俺が身代わりになったと思っているのか?」


「……うん」


 ……。


 困ったな。


「だがな、俺は……」


「お兄ちゃん」


「……なんだ?」


「……」


 クリスタが静かに俺を見上げる。


「今度は、私が……守ってあげる」


 ……。


 それは頼もしいな。


 ゲーム自体はかなりやりこんだ俺だが、実際にこの世界で生活するとなると、安全だとは言い切れない。


 なにせ、このキリオス・マクレインは一章の途中で学園を追放された後、どのエンディングにも現れたことのないキャラなのだから……。


 どう考えても強くはないはずだ。


 最強候補の妹が守ってくれるというのであれば、それに越したことはない。


「……だから」


「ん?」


「私も、一緒に暮らす」


「……は?」


 はて。


 妹は俺と一緒に暮らすというが、どうするつもりなのだ。


 俺は金も住処も無いわけだから、これからしばらくは、野宿をすることになるのだが……。


 年頃の女の子が……ついてこれるのだろうか。


 トイレすら無いのだぞ。


「クリスタ。お前には寮があるだろう?」


「……ある」


「なら、そこで暮らせばいいじゃないか」


「……嫌」


 ……。


 おい。


「お兄ちゃんを、一人にはしない」


 そう言って、クリスタは俺の袖を掴んだまま離さなかった。


 ……。


 ふむ。


 俺は妹を救ったあとはケビンに任せて、悠々自適なスローライフを送る予定だったのだが。


 どうしてこうなった?


 ……。


 なるほど。


 俺の完璧な計画は、開始早々に破綻してしまったらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。