第2話 というか、犯人は俺だ
……どうやら、見間違いではないらしい。
大きな窓、壁に掲げられたアカデミーの紋章。中央に長机を据えた部屋で、教師たちが銀髪の少女を取り囲んでいる。
「私がケビンの答案用紙を盗んでどうなるの? そんなことをして、私に何の得が?」
「それはこちらが聞きたい! お前の部屋から、書き換えられた答案用紙が発見されたのだぞ!」
……間違いない。
これは、ゲーム開始直後に発生する断罪イベントだ。
悪役令嬢クリスタ・マクレインが、アカデミーを追放される原因となった事件。
主人公ケビンの入学試験の答案用紙が何者かによって書き換えられ、それがクリスタの寮の部屋から発見される。
その結果、クリスタは不正行為によってライバルを蹴落とそうとした悪女として、アカデミーを追放されるのだ。
ところが、真犯人は別にいる。
キリオス・マクレイン。
クリスタの実の兄であり、アカデミー二年生。生徒会の書記を務める公爵家の長男だ。
魔法の才能に恵まれた妹への嫉妬。
平民のくせに成績優秀なケビンへの苛立ち。
その二つをこじらせた挙句、妹とケビンをまとめて陥れようとした最低な男である。
もっとも、この事件の真相が明らかになるのは、ずっと後のサブストーリーなのだが。
……それはともかく。
なんで俺は、このイベントをこんなところから見ているんだ?
ゲームの画面ではなく、目の前で人が動いているし、声も聞こえる。
しかも、やけに生々しい。
恐る恐る自分の手を見下ろす。
白い手袋に紺色の制服、胸元には……アカデミー生徒会の徽章。
まさか……。
長机の横に置かれた大きな鏡へと目を向けると、そこには、見覚えのある金髪の青年が映っていた。
キリオス・マクレイン。
ゲームでは嫌味な貴族として登場し、悪事を重ねた末にアカデミーを追われる脇役。
プレイアブルキャラクターでもなければ、仲間にすることもできない。
そんな男が、鏡の中で俺と同じ動きをしていた。
……なるほど。
どうやら、俺は『マケドニアの聖騎士』の世界に入り込んでしまったらしい。
しかも、よりによってキリオスとして。
……解せぬ。
主人公のケビンでもなければ、魔法剣士のテリエスでもない……。
よりにもよって、妹を陥れたクソ野郎に乗り移ってしまったようだ。
はて、困ったな。
どうしたものか。
「クリスタ・マクレイン! これ以上の弁明は無用だ! お前にはアカデミーからの追放を言い渡す!」
「……やってない」
……まずいな。
このままではクリスタが追放されてしまう。
ここで追放された彼女は、第四章でボスとなって主人公たちの前に立ちはだかるのだが、ほとんどのルートでは命を落とすことになる。
だが、あの巨大な竜と戦ったとき、最後まで仲間たちを守ろうとしていたのは彼女だったことを俺は知っている。
あれほどの力を持つ魔法使いを、ここで失うわけにはいかない。
あの竜を倒すためにも、彼女を失うわけにはいかない。
五年間も追い求めたトゥルーエンドの手掛かりを掴んだというのに、こんなところで諦めてたまるか。
幸い、俺にはゲームの知識があるし、この事件の真相も知っている。
となれば、やることは一つだ。
「あのー、ちょっとよろしいでしょうか」
俺は静かに手を挙げた。
「なんだ、キリオス」
「妹は、犯人ではありません」
——ざわざわ
室内がざわめき、クリスタが驚いた顔でこちらを見ている。
「何!? お前、妹だからといって庇っても損だぞ。証拠はあるのか?」
「はい。証拠も何も、犯人は俺です」
「ええ!?」
部屋中に驚きの声が響いた。
教師たちも、クリスタも、口を開けたまま固まっている。
……そんなに驚くことなのか?
本当に犯人は俺だというのに。
この体の持ち主がやったことなのだから、言い逃れなどできない。
とにかく、これでクリスタの冤罪は晴れるだろう。
代わりに俺が追放されたとしても、彼女がケビンの仲間キャラとなり、アカデミーで健全に能力を高めて、あの竜を倒して貰えばいい。
俺は学園から離れて、スローライフでも楽しみながら、エンディングだけ見にくればいい。そのほうが安全だ。
うむ。
完璧な計画だ。




