Battle.05 「食べてるだけでエロいとか言いがかりだから!」
無言で食べて、どうぞ。
拝啓。観測者様御一行。
先日の大型流星群や、植物図鑑の抜粋に関しましては、当方の不手際ではございませんので、悪しからず。
つきましては、今後とも消滅権限を持つ上層部への報告はお控え頂けますように、お願い申し上げます。敬具。
「なぁ。そんな先っぽばっかちまちまやってねぇで、もっとガッつけよ……」
「うるさいなぁ。どんな風に食べようが、僕の勝手だろ……!」
……さて。丁重なるご挨拶(命乞い)を無為にしそうなボケナスたちではあるが。
ナスビたちの会話の主役について、誤解のないようにしっかりと焦点を当てていかなければなるまい。
「なんかこう、ムズムズすんだよ。ほら、こう……もっと一気にさぁ……!」
「ちょっと、押し付けようとしないでよ……! そんなに大きいの、口に入るわけないんだから……!」
「そんなんじゃちゃんと味わえねぇだろ……? 口んなかパンパンになるくらい頬張っちまえよ」
ブレイドがイージスの小さな口にねじ込もうとしたものは、まごうことなき飲食物の類いである。
腸詰め、ソーセージ、など色んな呼称のあるソレを串に刺して香ばしく火で炙ったもの――
いわゆるフランクフルトでしかなく、それ以上でも以下でもないのだ。
「んぅ……っ、ん…………ふぅ……。どお? これれもんくないれしょ……?」
「それで限界かあ。ちっせえ口だなあ……」
露店での買い食いをここまでアレな感じに出来るのは、もはやいっそ、ある種の才能だと言っていい。
速やかにフランクフルトを平らげて、とっとと『初めてのデート』とやらを堪能すればよいと、誰かは思うことだろう。
「んむ……っ、ふぅ……あつい……。けど、おいひい……♡」
美味しいものを食べると、幸せな気分になりますね。
熱さに頬を染めながら、うっとりと瞳を潤ませるイージスは、きっと人気の食レポ担当になれることでしょう。
「お前、肉あんま食わねぇくせに、コレは好きなんだな?」
「まぁ、ね。なんかカリッとして、ジュワッとくるの、すごく好きなんだ」
「ふっ……なにそれ? ガキみてえ。可愛い……」
早々に食べ終えた串をくずカゴに入れ、指に付いた肉汁をぺろりと舐め取って、ブレイドが笑った。
愛着を毛ほども隠そうとしないその瞳が、穏やかなのに熱い火をくゆらせながら細められる。
イージスはその眼差しに耐えかねて、一際大きく喉を鳴らして最後の一口を飲み込んだ。
「き…………キミにだけは、子供みたいだなんて、言われたくないな……!」
どうしてか敬語になってしまった地の文など、所詮は世界に生きるナスビたちには視認しようもないので。
お構いなしに突然バカップルのような甘ったるい空気を醸し出した赤ナスと緑ナスなのであった。
「だってよお。肉への感想が可愛すぎんだよ。あと、ここ。付いてんぞ?」
「えっ……。わっ……!?」
賑わう露店通り。
噴水の水をつつく愛らしい小鳥に視線をやるのは、果たして心の純粋な者達だけなのだろうか。
画角の隅で、誰かが大型犬に口元を舐められていたような気配もするが、瑠璃色の羽根を震わせる小さな天使が飛び立つさまほど気にかかるものではあるまい。
袖口でしきりに口元を拭うイージスは、なにゆえ真夏の日差しを浴びたかのように火照り散らかしているのか。
鳥を愛でていた我々には、知りうる術もない。
「なあ。甘いもん食いたくねえ?」
「ん? う〜ん……そうだなぁ。甘くて冷たいものがいいかな?」
「よっしゃ。じゃあアレだな!」
「アレって……?」
「見てのお楽しみってことで、ついてこいよ」
甘くて冷たいものと聞いて嫌な予感がしたのは、世界の観測者様御一行だけだった。
「もしかして、あの店? なんだか行列ができてるみたいだけど……」
「……マジか。うん、あのソフトクリームってやつ。最近はやってんだって」
どうしてファンタジーな世界観にソフトクリームがあるのかって?
気にしてはいけません、禁則事項に抵触します。
境界を越えかねない言葉は捨て置いて、映せる瞬間は――ムダに容姿だけは整ったデカいのと細いのの顔面力で数字を取りにいかねばならない"地の文"の悲哀に思いを馳せて頂こう。
「流行りとか興味あるの? 意外なんだけど」
きょとんと瞬いたヒスイの瞳からわずかに顔を背け、ブレイドは赤くなった耳たぶをもてあそびながら、彼にしては控えめな声量で呟いた。
「いや……。実はさ、騎士団のヤツが……婚約者と食って美味かったって自慢してて……」
「うらやましかったんだ……?」
口ごもるブレイドに、心のまんなかを射抜かれたような気持ちになったイージスは、優しく甘やかな声音で問いかけた。
「ん……」
素直に首を頷かせたブレイドは。
王宮でも期待をかけられている精悍な騎士というよりも、不器用なりに恋に一途な、どこにでもいるただの青年のひとりにしか見えなかった。
覚悟していたよりも早く列が捌けていき、あまり長くはなかった待ち時間を、ふたりはこっそりと手を繋いで言葉少なに過ごした。
予想外のエモをお届けできたものの、魅惑のスイーツを受け取ってしまった審議発生機とチョロインの前では、そろそろ地の文も『知性よりも根性』を見せつける時が来たというものだろう。
「近くで見ると……思ったより、おっきい、ね……?」
「そうだな。ジョンのやつが言ってたよりかは、ちっせえけど」
注文を任せきりにしていたイージスは、通常のものよりも大きい『シェア前提』のサイズが人気の店だということには気が付かなかった。
「おっきいって知ってたから、ひとつしか頼まなかったの?」
「まあそうだな。いけるんなら一人で食ってもいいけど、お前それ食い切れねーだろ?」
ブレイドにとっては余裕で一人前として通るが、これをイージスに一人で食せというにはいささか無理があるだろう。
「そう……なんだ。えっ!? 待って、一緒に食べるの……!?」
「当たり前だろ? これ、すぐ溶けちまうらしいし。ほら。早く舐めねえと垂れてきちまうぞ」
「わっ……わ、うそ……! そんなにいきなり……? ゆっくりじゃ、ダメなの……?」
コーンを持つイージスの手に自身のそれを重ね、ブレイドが横から大口を開けてかぶりつくと、先端の三割ほどが一気に削り取られた。
「わぁ…………。おっきなくち……」
「ん。うま! ホントに美味いなこれ。あとは余りそうだったら食うから、とりあえずイージスが好きなだけ食えよ」
「う、うん……」
普段の言動は星(★彡)まみれのくせに、今日に限ってやたらとイケメンムーブをかましてくる赤ナスに、緑ナスがトゥンクした。
緑はおずおずと舌先を伸ばし、一度食べたら忘れられない禁断の果実……ではなくソフトクリームをぺろりと舐め取った。
「ふゎっ…………冷たい! あまぁい! おいしいぃぃ……」
語彙が幼児のソレだが、如何わしい疑惑になるよりは万倍マシであろう。
一部だけ作画コストが上がりそうなほどに瞳を輝かせているイージスに、ブレイドがこれまた作画コストを爆上げしそうな花でも背負っていそうな愛に満ちた微笑みを向ける。
「なっ? 美味いだろ? 気の済むまで食えよぉ〜♡」
「っ……!」
少しずつゆるみ始めたアイスよりも溶けきった声に、イージスは瞬間的に火照った顔の熱をごまかすようにして、無心で冷たいクリームを舌で掬い続けた。
「んっ……ほんとにすごい♡ こんなの初めて……♡」
観測者様御一行。
どうやら雲行きが変わって参りましたので、傘のご準備をオススメイタシマス。
「なんだろう……。喉越しがこっくりしてて、濃厚で……」
緑のナスビが、上級文官の知性をもってして、限界に挑むような語彙でソフトクリームの魅力を語り始めた。
そんなことよりも、チロチロとのぞく舌先を赤いナスビが食い入るように見つめていることに、早く気がつくと良いのだが。
「……っ、ミルクがとっても濃い………………って! な、なに……!? じっと見られると、恥ずかしいんだけど……?」
「いやぁ……。ちっせえ舌で必死にぺろぺろやってんの、すげぇ可愛くて……」
「ばっ、ばか! 変なとこ見るな……! 変な感想も言うなぁあっ!」
変な感想に関して言えば、特大のブーメランが後頭部に刺さりそうなものだが。
なにはともあれ『限界食レポ♡チキンレース』が終わりそうで、中断させたブレイドの評価が、どこか遠いところでほんの少しだけ上がったりなんかするのかもしれない。
「なんで"可愛い"が変になるんだよ……? つーか、垂れてきてんぞ。もったいねえ……」
「ひぇ……! むり! むり、だめ……! それはやっちゃいけないこと!」
……おや?
先ほどの赤ナスビの発言も大概なものだったのではないだろうか……?
世界を消滅から守り抜くための"地の文"ともあろうものが、どうしたことか。
「あぁ? 倫理? っつーなら、食べモン粗末にするほうがひっかかるんじゃねえのか……?」
「そ、そうなのかも? …………って、待って! ホントにダメだから、もう残りはブレイドが食べて……!」
「おう。任せろ」
そういえば、最近"地の文"にあるまじき自我のようなもの生まれていたような。
これはいけない。
緊急メンテナンスのため、観測を一時中断します。
メンテ中の地の文の代理、かみながです。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
全10話構成(予定)の折り返し地点まで、
無事に到達することが出来ました。
これからも暴走する剣盾コンビと
胃を痛めていそうな"地の文"ちゃんを
よろしくお願いいたします☆
__




