49 終わりの呪文をもう一度
「マジかよ……!」
デュオの呪文が完結した瞬間、ファラが大きく唸りをあげた。だがまぶしい光が静まると、そこにあったのは片方の翼を失ったが、いまだに生きて荒い息を上げているファラと、その場に倒れこんでいたデュオだった。
叫びながら走りよろうとするマリーを羽交い絞めにして止め、バルムスが張った結界のなかで何を思ったのか祭壇の天井を突き破ってファラが大きく上に飛び去ったのを見ていた。
儀式は失敗に終わったのだ。
倒れているデュオにラスタバンが近づき、その生死を確認した。
どうやら生きているらしかった。そしてバルムスはダナンとライオネルをつれて、ファラの後を追った。
闘技場まで上がっていったファラをこれ以上外界に出すとなると、問題はもはや王都だけの話ではなくなってしまう。
そして自分はマリーとともに、天井から瓦礫やら何やらが落ちてくる神殿を走りまわっていた。もうすぐで長い、螺旋階段を走り終わる。
この後、王都は一体どうなってしまうのだろう。
後ろを必死の形相で追いかけてくるマリーの無事を確認しながら、いらないことを考える。
デュオは、どうなるのだろう。『鍵の呪文』をもう一度、唱えるのだろうか。
考えて、どちらにしろ役に立たない自分に腹が立った。
親友だとか、何だとかほざいておきながら、結局何もできやしない。違うか。
いつのまにか螺旋階段の出口である扉の前についていた。
扉を開ける。だがそこでコートが見たものは、まさに瓦礫の山だった。
神殿の壁はもはや存在しておらず、コートが出たところから街中が一望できた(幸い街はまだ無傷のようだった)。
後ろを振り向けば、神殿などというものはもう影も形も存在せず、満天の星空。
山々のほうでは夜明けを告げる太陽が見え隠れしていた。
いたるところで燃え盛る炎と瓦礫。
そして天にも届きそうなほど巨大な、片翼の竜が目の前で唸りを上げている。
「これは……」
一面の瓦礫の中、マリーがつぶやく。
その前を、魔術師の団体が走って行った。
その姿に我に返るコート。彼の目の前で、ファラを取り囲むようにして何百という魔法庁直属の魔術師団が呪文を詠唱していた。
遠くを見やれば、集まってくるモンスターと抗戦する騎士たちの姿もうかがえる。
「なんてこった……」
コートが毒づいた。
事態は最悪の展開を迎えていた。
「デュオは!?」
マリーの叫び声にコートがはっとして目を凝らす。
と、さほど離れていないところにあいた大きな穴から……あの下に祭壇があったに違いない……何かが飛び出してきたのが目に入る。
一人はラスタバンだ。そして彼に抱えられているのは……デュオだった。
どうやらまた呪文を唱えようとしているらしい。
周りを見渡すと、まだモンスターの姿がちらほらしている。自警団も騎士もいつのまにか入り乱れて戦っているが、それでも数はこちらのほうが多い。
モンスターが全滅するのも時間の問題のように思えた。
「コート、デュオを見つけたわ!」
マリーが叫ぶ。
まるで糸の切れた操り人形のようにうなだれるデュオが、すぐ近くにいた。
自分たちの持ち場が精一杯なのだろう。周りの魔術師たちはほとんどがその存在に気づいていない。
マリーが走り出す。続く形でコートがその後を追う。
少し先では、ラスタバンが結界を張ったのを機に、デュオがなんとか詠唱を開始していた。
その次の瞬間には、まばゆい光がデュオを包み込んだ。
「デュオ!!」
だがあともう少しというところで、マリーとコートは行く手を阻まれる。
「なんだよっ!?」見ると数名の魔術師が、二人の腕をつかんでいた。
「今の彼に近づくのは大変危険だ! 高圧の魔力場が周りを取り囲んでいる!!」
あーそういえばとコートは記憶を探って考えた。詠唱中は結界に似た効果がデュオの周りに起こるのだった。
さらに追い討ちをかけるように魔術師が言う。
「近寄っただけで体がバラバラにはじけるぞ! ここは我々に任せて、黙って避難しなさい!」
「避難しなさい、だって?」
ふふっと笑う青年を見て、魔術師たちは困惑の表情を浮かべた。
「おい、マリー。体バラバラになるってさ、どうするよ?」
問われた少女のほうも、口元に不敵な笑いをつくっていた。
「さあて、ね。私よりも、あんた大丈夫なの? びびってんじゃない?」
少年が笑う。あっけらかんと言い放った。
「スリースターズ、だぜ?」
「だね!」
次の瞬間、魔術師たちは一掃されていた。
コートが回し蹴りを放ち、マリーが剣の峰を振るう。
そして二人は、輝く光の中へと飛び込んだ。




