43 まさかの敗退
自分の体がこらえ切れないように震えている。
そのことにデュオは気付いた。
ああ、死ぬ前に、皆と戦えてよかった。
汗を流しながら、マリーが肩をぽんとたたく。
「あとは、任せたわ」
デュオが頷く。
「ま、気楽に、な!」
コートが、いつもの調子で笑った。
デュオも、笑い返す。
そして、会場に目をやった。
黒髪の騎士が、こちらを見据えていた。
一歩、前へでる。
「デュオ」
後ろから、マリーの声がした。
振り返る。
「……三人が、お互いを、支えあう。それが、スリースターズよ。……あなたは、独りじゃない」
長い間をおいて、デュオが頷く。そして、微笑む。
デュオ・ネーブルファインとしての、最後の、舞台。
『鍵』ではなく、『デュオ』と呼んでくれる人たちの前での、最後の、ひと時。
まさかこういう形になるとは思いもよらなかったが、デュオは、それでも、幸せだった。
戦って、デュオ・ネーブルファインを終えることができるのだから。
「構えて」
審判員が、声をかける。
デュオの魔力は、この空間においては、もうすでに解放されていた。
ためらうことなく、魔法を使うつもりでいた。
セリアが長剣を構える。
例えれば、水のような、隙の無い構えだった。黄龍騎士団というのも、頷ける。
「はじめ!!」
素早くデュオが詠唱した。
「たゆたう光 冥途の希望にして迷妄の呼び子たる汝に請う」
序句を言う。だが驚くことに、同じ詠唱をセリアも始めた。
「清き力を手に添えし」
「汝の白を我に貸せ」
「そは光輝増したりて すべての悪を照らしたり」
「そは光の掟を放たれて 闇の衣をまといたり」
「瞑目の光明――フラッシュフラッド」
「無明の蝕――インビジブルエア」
同時に呪文が発動した。
突如として、デュオの周りが一瞬まばゆいばかりの光に包まれる。
「くっ」
『瞑目の光明』。本来ならば炎から発せられる光を媒体に、強力な明かりを生み、松明の光を数倍にも強める呪文である。今のはそれをアレンジしたもので、デュオはめくらましの効果を期待したのだが、その効果はどうやら抜群だったようだ。
一瞬の強烈な光に、セリアは一時的な盲目状態に陥っている。
仕掛けるならば今だ。
だが、デュオはセリアの姿に何か違和感を感じた。
剣を持っていない。
いや、あたかもそこに剣があるかのように、彼女は目を閉じたまま、構えている。
一瞬考えて、先ほどのセリアの呪文は、光の屈折を魔法の干渉によって変え、物体を見えなくしているのだと推測する。
だとすれば、今仕掛けるのは危ない。
そんなことを考えているうちに、セリアの視界が回復してきたようだった。
デュオが舌打ちをする。
回復が、やたらに早い。
そして、セリアが飛び掛った。
見えない長剣をなんと片手で操り、デュオに向けて振りかぶる。
手の動きと同時に、風がデュオの顔を掠めていった。
リーチが思った以上に長い!
マリーやハッシュと戦ったときの間合いよりも、もっと長い間合いというものを、これまでデュオは経験したことがなかった。
あの長剣が、これほどまでに遠い距離から打てる代物だったとは。
さらに追撃を加えられるデュオ。
右手を振り上げ横に薙ぐセリア。長剣が見えないので、間合いが正確にわからない。
結果、ぎりぎりでかわすという戦法が通用しない。
薙いだ剣を跳ね返りよろしく再び右手で振り下ろすセリア。
ここだ!
振り下ろした瞬間を狙って、デュオは剣を構えると、セリアとの間合いを詰めた。
だが。
次の瞬間、セリアの左手が、振り下ろされた。
馬鹿な!
そちらは何も持っていないはず!
と、驚愕したデュオを待っていたのは、しかし肩口にかかる鋭い衝撃だった。
見えない剣を、右手から左手に持ち替えていたのだ……!
剣が肩に食い込み、一瞬遅れて激痛が肩から全身へとほとばしった。
そのまま肩をおさえて倒れるデュオ。
悔しい。だめだった……。
何故、ダミーの右手で剣を振り下ろされるときの風圧に気がつかなかったのか。剣が見えないことにだけ注意が行き過ぎて、微妙な違和感に気が回らなかったのだ。
「勝者、セリア・デルウィング!!」
審判員の声が響き渡る。
その瞬間、『スリースターズ』の敗北が、決定付けられた。




