表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三ツ星英雄譚 (十五年の歳月をかけて完成した作品、現在編集しながら投稿……)  作者: ノアキ光


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/45

44 祭壇へと続く正義



「泣いてるの?」


 うつむき、肩を震わせるデュオに、マリーはそっと声をかける。


「だって……マリーは……マリーは冒険者になれないし……コートは貧民街の人たちを救えないじゃないか……僕のせいだ。僕のせいだよ」


 そう言うデュオを見て、コートは髪を掻きむしりながら言う。


「デュオ……あのなあ」


 また次があるじゃん、と言いかけたコートがその口を閉じる。

 デュオに、次はないのだ。いや、それどころか、自分がデュオに会えるのも、今、この時だけなのだ。


「デュオ。……私は、満足してるわ。ありったけの力、ぶつけたし、ね。三年後は……今度は、必ず、セインにも勝ってみせる。だから……泣かないでよ……泣きたいのは、私だって……」


 そういって、マリーはうつむく。


「おいおい、お前まで、泣くなよ。俺だってそりゃ貧民街のやつらを救いたいとは思ったさ、でもそれはしょうがないんだ、まだまだ俺だって、俺だって修行が……足りなかったんだから」


 語尾が震えていた。次の瞬間コートは「あー」とか投げやりにつぶやくと、急ぐように天を仰いだ。


 誰のものかも最早わからない、ただ嗚咽だけが、その場に響いていた。





☆    ☆    ☆






 決勝戦が終わり、大会はチーム『アイーダ』の優勝に終わった。

 三人がでてきたディース神殿はすでに夕日で赤く染まっており、街中を祭りの後のような気だるい雰囲気が支配している。

 ふいに、デュオが、立ち止まった。


「今まで……ありがとう」


 マリーとコートが振り返る。

 予感していた、この瞬間。

 仲間との、別れのとき。


「デュオ、待って」


「駄目だよ。……もう、時間が無いんだ」


 柔らかい口調で、だがデュオの言葉には棘があった。


「デュオ!」


「デュオ君」


 声がして、デュオが後ろを振り向くと、バルムス・バルトーアが立っていた。


「そろそろ、時間のようだ。わかるね?」


「……てめえ……よくもノコノコと」


「もういいんだ、コート。これが僕の……『複製体』デュオ・ネーブルファインの、役目なんだから」


 初めてデュオの口からでた一紡ぎの、だがどこまでも重い言葉に、コートが息を呑む。

 目の前の少年の澄んだ瞳に、もはや悩みや迷いなどは全く現れていなかった。

 まるで、人であることを忘れてしまったかのように。

 残された二人のことなど、とうの昔に置き去りにしてきたように。


「……儀式を終えるのがあなたの役目なら、私たちは最後まで一緒にいる。最後まであなたを見守りたい」


 譲らないような眼差しをデュオに向けるマリー。


「そうだ、デュオ。俺たちも、一緒に行くぜ」


 コートもいつものように、笑いながら言う。


 デュオは一瞬困ったような顔をしたが、やがて


「マリー……コート……」


 微笑を浮かべる。


 二人はよし、と頷き合うと、デュオとバルムスの方へと歩み寄ろうとした。

 だが次の瞬間、どさりと大きな音が辺りに響いた。

二人が、その場に倒れたのだ。


「ごめんね」


 デュオが小さく言った。


 いつのまにかそこには、鎧を着た二人の騎士が立っており、倒れた二人を見下ろしていた。


「ご苦労だった。その子達を家へ運んでやってくれ」


 バルムスが簡潔に言う。

 二人の騎士は頷くと、片方がマリーを、もう片方がコートを担いで、街中へと消えていった。


「よかったのか? あれで」


 バルムスが問うた。


「……マリーも、コートも……それぞれの人生をおくる権利があるんです。だから、僕は、あの人たちを巻き込みたくはない。巻き込んではいけない。……僕は、あの人たちをこの手で守れる自分を、誇りに思っています」


 そういって下を向くデュオ。


「そうか」


 まるで言い聞かせるような含みがしたのは、気のせいだったか。

 その小さな体で、重すぎるほどの運命を背負っている。この少年の痛みが、バルムスには痛いほどよくわかっていた。



 神殿に入り、数十名の黄龍騎士団員と合流したバルムスは、デュオを連れてそのまま祭壇へ続く例の隠し階段へと足を運ぶ。

 なぜ、ここに黄龍騎士団が……。


「アルフィム」


 そう思った直後、前方から懐かしい声がかかった。


 ラスタバン・ネーブルファイン。

 アルフィム王子の祖父。そして、デュオ・ネーブルファインの製作者。


 生み出した『複製体』に、過去への慕情を抱いてしまった男。そのために、長いこと『鍵』という誘惑を使わず、自ら茨の道をあゆんできた男。


「おじいちゃん……」


 憎しみなど、微塵もなかった。

 いくら自分の境遇を嘆こうとも、バルムスを、ラスタバンを、アルフィム王子を憎むことだけは、したくなかった。

 何故自分を生んだのかと問いつめようと、帰ってくる答えは何もないのだから。彼らを磨耗させることにしかならないのだから。それがあの時の『正義』だったのだから。

 だから、デュオは、言った。


「長い間、お疲れ様でした」


 間をおいて、ラスタバンが言った。


「……私には、もう、せめて最後まで、お前を見届けることくらいしかできない。許しておくれ……アルフィム……いや、私の孫……デュオよ」


 デュオが頷く。

 そして、三人は、祭壇への扉がある大部屋へと入った。




 大きな扉の前では、デュオ達一行と向かい合うように、何十名もの騎士が整列していた。よく見ると後列には、その二倍とも呼べるような魔術師が控えている。

 すでに一個師団の規模を優に超える団体の先頭に、黒いローブを羽織った魔術師と、銀色の鎧を身に着けた中年の騎士が、まっすぐこちらを見つめながら立っていた。


 それは、魔術師ダナン・オーウェンと、黄龍騎士ライオネル・ガイリアだった。


 騎士庁と魔法庁における革新派の、それぞれの統率者なのだと、そうデュオは聞いていた。


「そこを、どいてもらおう」


 バルムスが言った。


「断る。……私たちには私たちの、正義がある。あなた達と同じように」


 ライオネルが胆のこもった声を出す。


「騎士としての使命を放り出した貴様が、正義などと笑わせるな」


「……この剣は、人を救うために振るうのだと、そう思っていました。……だがそれは違った。私たちは、守るために殺す。殺しは憎しみを生む。憎しみから守るために、また殺す。……私たち騎士は、この繰り返しを、飽きることなく何百年も続けてきた。なぜその愚かさに気がつかない」


「剣で人を殺すのが騎士の役目だ。全てを救おうなどと考えるのは、愚か者がだす結論だ」


 だがバルムスの言葉にひるむことなく、ライオネルが続ける。


「絶大な力こそが、強大な法こそが、誰も殺しあわない世界を作ることができる。……騎士のような、憎しみの産物など必要ない世界に。……『魔海』はそれを、可能にする」


「殺すのが、騎士の役目なら。その後を修復するのが、人間の役目だ。……騎士の宿命から目をそらし、人としての役目すらも放り投げようとする。……しばらく見ないうちに、随分と焼きが回ったものだな、ガレリア」


「もういい」


 ダナンが遮る様に言った。


「言葉で理解がしあえるのなら、とうの昔に結論はでていたよ。とにかく、この先へはいかせない」


 二つの軍団が、互いに譲らずに、にらみ合う。


「……待ってください」


 静かな声で、デュオが言った。


「こんな話はおかしすぎます。……何故国を守るべき人たちが、その守り方の違いでお互いを殺しあわなければならないのですか」


「正義の違いだよ……ならば、デュオ君。君はここでおとなしく引き下がってもらえるかな」


「じゃあ……じゃあ僕は、一体なんのために生まれてきたんですかっ!」


 悲痛なその叫びに、周りが静まる。


「……今『魔海』を封印しなければ国が滅びるかもしれない」


 泣きそうな声でデュオが言う。

 だがダナンはにべもなく返す。


「『魔海』は何者にも換えがたい力だ。我々はそれを悪用しようとしているのではない。人間全体の平和のために、活用するだけの話なのだ。……何がおかしい?」


 大陸一つ吹き飛ぶ強大な兵器を作成し、全世界がそれを持つことで、戦争はなくなる。

馬がいなくても主人の意のままに走る馬車があれば、足を失った子供も、老人も、行きたいところへ行ける。

 複製体の技術があれば、死んだ人間の復活もいつかは可能になる。愛する人を失った恋人は、再び最大の伴侶とともに人生を歩める。


「『魔海』は、この国の問題などでは決してないのだ。人間全体を、救うものなのだ。……君はそれを封印するのか」


「もし、『魔海』の封印が破れ、あの竜が復活したら、どうなりますか?」


「物事を果たす上で、リスクというのは常に付きまとう。通りをあるけば強盗にあうかもしれない。火を使えば火事になるかもしれない。だがそんなことを気にしては生活は成り立たないだろう。……それと同じことだ。そして我々は、そのリスクを最低限に抑える努力も惜しまなかった。結界を継続的に維持する装置もすでに開発されているし、万が一ファラが復活したときに使用できる兵器も作成した」


「……あなたの大切な人がその『リスク』で犠牲になっても、なおその考えを通すのですか?」


 一瞬、沈黙がよぎった。


「……君は『複製体』としての役目を果たさず、このまま平和にくらすこともできる……これは非常に魅力的な話だと思うが?」


 何気なくそらされた論点に、しかしデュオは気にも留めずにこたえた。


「犠牲は、もう僕一人で十分です。……そこをどいてください」


「……やはり時間の無駄だよ、アルフィム王子……『デュオ・ネーブルファイン』」


 ダナンの言葉に反応するかのように、ライオネルが叫ぶ。


「総員! 全力をもって保守派を破れ!!」


 それに答えて、バルムスが叫ぶ。


「総員! デュオを死守し、祭壇を目指せ!!」


 怒涛のような叫び声が沸き起こり、ついに二つの軍隊が衝突した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ