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三ツ星英雄譚 (十五年の歳月をかけて完成した作品、現在編集しながら投稿……)  作者: ノアキ光


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41 デュオの決断

「バルムス!」


 その場の誰にも属さぬ声が響き渡る。

 後方に位置する扉が、いつのまにか開いており、一人の男が姿を現す。


「おじいちゃん……」


 それは、ラスタバン・ネーブルファインだった。

 ゆっくりと前進しながら、言う。


「……デュオ。確かにお前は複製体かもしれない。研究の結果生み出された、『鍵』の代行にすぎぬなのやもしれぬ。だが、お前は……断じて道具などではない! 私の……かけがえのない、孫だ!」


「そう……ラスタバン。アルフィム王子の祖父である、お前がいたな……。四年前から今まで、この少年の成長を見守り続けた結果、自らが行なった研究に罪悪感を抱きはじめ、『鍵の呪文』に代わる技術を模索した……」


「そうだ。デュオも……そして」


「……黙れ。お前の生ぬるい渇望が生み出した現実が、この結末だということにまだ気がつかないか。結界は破れ、封印は解け始め、革新派は色めきだっている。もう一度言う。国王の、御勅だ。

 アルフィムの幻影を追いかけて、デュオを苦しめているのは他ならぬお前だ!」


「バルムスさん……」


 怒号の中、小さな、優しい声が響いた。


 デュオの声だ。


 これも、アルフィム王子の複製された声なのだろうか。


「デュオ君」


 バルムスが、厳格な、だがどこか悲痛そうな声を上げる。


「全て、はっきりしました。僕が果たすべき役割も、わかりました」


「デュオ! 何言ってんだ!」


 コートが怒りを露わにして叫ぶ。


「こんな……勝手なことにつき合わされているほうがおかしい!! デュオ!」


 マリーが悲鳴を上げる。


 だが、それに首を横に振って答えると、デュオが静かに言った。


「僕は、今まで、作られた現実を生きてました」


 ラスタバンの顔が、歪んだ。


「作られた現実の中で、たまに泣いたり、たまに怒ったり、友達ができなくて、悩んだり」


 バルムスを見る。

 視線をまっすぐ、デュオに向けていた。


「でも、その偽りの現実の中で、マリーとコートに出会いました」


 語尾が震える。


「マリーは、気が強いけど、僕を弟みたいにかわいがって……かわいがってくれて……コートは、頼れるお兄さんのようで……三人で……大会を……勝ちっ……勝ち進んでっ」


 いけない。涙が溢れてきた。


 マリーも、コートも、もうぼやけて見えない。


 ちゃんと、言わなきゃいけないんだ。


 『かぎのじゅもん』とか。


 『ふくせいたい』とか。


 そんなものよりもっと、大切なことが、あるんだ。


 大切なことが、あるんだ。


 あの日見た、夕陽の色。


 丘を撫でるそよ風。


「明日は……明日の試合でっ……全てが決まるんです僕が……一人でも欠ければ……だっ……駄目なんですっ……まっ……まけてしまいます」


 嗚咽が聞こえる。多分僕のだろう。


「もういい、デュオ! もういい!」


 マリーが僕を抱きしめた。


 ああ、幸せ。


 暖かい。


 僕は、生きてる。


 ぽたりと、暖かい雫が頬に落ちた。


 でも、いわなきゃ。


 いわないと。


 三人が、支えあう。


 三人が、補い合う。


 スリースターズは、いつだって、そうだったもの。


「お前ら……お前ら……許せねえっ!」


 コートの声だ。


 そんなに怒ることないのに。


 いいんだ。僕は。


 ようやくわかった『やくめ』なんだ。


 コート、やめてよ。


 僕が……


 マリーの腕を振り解き、バルムスの前に立つ。


「……明日の試合が終わったら……呪文を、唱えます」


 柔らかな、だが確たる決意を秘めた声で、デュオが告げた。



 涙で濡れた、訣別の言葉だった。


 自分に相応しい役割だと思う。


 魔法一つも使えず、人から軽蔑され、それでも歯を食いしばって耐えてきた。

 いつか、こんな自分でもいつか、光り輝くような魔法が使えることを夢見て。

 そしていつか、すごいよと皆から尊敬の目で見つめられて。

 そんな日が来ると、思っていた。


 自分に相応しい運命だと思う。


 生きていることがつらくなることもあった。

 でも、それも明日で終止符を打てる。

 皆の命を救って。


 初めて自分が、魔法を使えない自分が、皆に必要とされている。


『複製体』に生まれ、『複製体』としてその命を終える。

 まったく道理にかなっていた。


 そして。


 こんなに悲惨な運命を背負うことになるのなら。


 ……生まれてこなければ、よかった。


 そう、自分は『複製体』。

 人間では、ない。


 歴史の中の、人間のために存在する、小さな、一駒。


 早く、『鍵の呪文』を唱えたかった。

 唱えて、この体から、この呪われた宿命から、自分を解き放ちたくなった。



 神様。


 僕は、あなたを、恨みません。


 でも、神様。


 僕が死んで、そしてもし、生まれ変わることができたなら。




 今度は人間に、ちゃんとした人間に、してください。




 ――デュオ・ネーブルファインでは、なくて。




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