28 スリースターズの快進撃
「はー」
選手用の観客席に座り、デュオはひじをつきながらため息を吐いた。
目の前では、マリーが戦っていた。
相手の剣を受け止めて、流す。
その隙をついてマリーが一太刀浴びせようと剣を振りかざす。
相手はよけようとして剣先を動かすが、その判断は間違いだった。
至極単純なフェイントにだまされていたことに気づく間もなく、相手のわき腹にマリーの剣が食い込んだ。
三人の審判員が、三人とも片手を上げる。
「五点、五点、五点……よし、マリーの勝ちだ。またお前の出番はなかったな、デュオ」
傍に座って休憩していたコートが、はつらつとした表情を浮かべて言った。
大会が始まってからもうすでに二試合を消化していたスリースターズであったが、デュオの出番は未だになかった。というのも、どの試合でもコートとマリーが必ず勝ってしまっていたからだ。
三対三のチーム戦だから、前の二人が勝ってしまうとその時点でチームの勝利が確定する、というのがルールだった。
一試合目のコートの相手は魔術師だったが、コートの前にあっさりと破れていった。魔術師が詠唱を開始した瞬間、コートはものすごいスピードで魔術師のほうへ駆け、蹴りの一撃で相手を昏倒させていたのだ。
魔法ってそんなに怖がるもんでもなさそうだな、というのが、初陣を勝利で飾った彼のコメントだ。同じ魔術師として(魔法は使えないけれども)デュオがちょっと不甲斐なさを覚えたのも事実だった。
続いてマリーの前に現れた無骨な戦士も、強靭なパワーでマリーを圧倒するかと思いきや、逆にその力を利用されて、自らの木刀を弾かれてしまった。
試合において獲物を手放すことは、すなわち負けと見なされる。この調子でコートもマリーも順当に勝ち進んでいたのであった。
「ふう、これで三試合が終わったわね」
帰ってきたマリーが、まるで今しがた軽い運動をしてきたかのような口調で、言った。
ちなみに先ほどの試合場では、もうすでに次のチームが戦う準備をしている。
「で? 次はどこと戦うのかしら」
「四試合目は……あ、『ディースの剣』だって。マリーの友達のチームだね」
聞いて、マリーはふーむ、と唸った。
「ま、とにかく次が第一の関門ってとこかしらね」
デュオも、内心で期待していた。次こそ、出番が来るかもしれない、と。
刹那、会場内に歓声が沸き起こった。
何なに? と三人が顔を見合わせると、声は別の試合場を中心として上がっていた。
デュオが目を向けた先には、自分の身長くらいの長さはあるくらいの長剣を持つ戦士と、数本の小さな曲刀を宙に浮かべた男が、対峙していた。
「剣が浮いてる」
感嘆の声を漏らしたのはデュオだった。
剣が浮いている……紛れもない、魔法だ。
一瞥して、風属性の呪文『偽翔の双対』をアレンジしたものだろうと推測する。
不規則に舞ういくつもの曲刀をその身に纏い、魔法剣士がじりじりと戦士に近づく。
戦士は長剣を持つ手を横顔にひきつけ、果敢にも立ち向かう構えを見せた。
お互いの距離が徐々に縮まり、戦士が持つ長剣のリーチが、魔法剣士を捕らえた瞬間。
戦士は素早く長剣を下ろした。
だが。
収束された気合と共に、ものすごい速度で振り下ろされたその剣閃は、しかし魔法剣士を捕らえはしなかった。
驚愕の眼差しを戦士が向ける。
頼りなさそうな二本の曲刀が、魔法剣士の顔の寸前で交差し、だが確実に長剣の進入を拒んでいたのである。
その瞬間、残りの二本の曲刀が同時に戦士の腹部を突いた。
ぐっ、とくぐもった声を出し、戦士がその場に倒れる。
周りにいた選手達がまたしても歓声を上げた。
ちなみに、予選の段階では、まだ観客は招待されない。いま、この場にいるのは、予選を勝ち抜くために集まった選手達だけである。
「すごい」
コートが驚きの声を上げた。魔法剣士は何事もなかったかのように背を向け、試合場から出ようとしている。
審判員達は、どれも手を上げ五本の指を見せていた。15点。満点である。
マリーがつぶやく。
「呪文の詠唱を許さなきゃ、ああまではなっていなかったはずよ。やられたほうの男、武器は大振りタイプの長剣だったようね。それが災いしたのよ」
「小回りが利かない?」
不意に、聞きなれぬ声が、後ろのほうで聞こえた。
三人が振り返ると、そこにはカレンがいた。
気にした素振りもなく、マリーが言う。
「そうよ」
一撃の威力が魅力の武器は、概して隙が大きい。このことが、対魔法使い戦では大きな足かせになる。
詠唱をやめさせようとして攻撃をしても、攻撃が当たらなければ、体勢を立て直さなければならない。それはつまり、相手に詠唱時間を与えることになる。
これが、世間一般の論理だった。
しかしカレンは髪の毛をかき上げ、うっすらと微笑を見せながら言った。
「あの程度の相手、少なくとも私なら詠唱をさせずに倒せるわ」
そういってカレンは脇に提げた大剣をなでた。
マリーもそれを認めた。要するに、『一撃をはずさなければ』、万事うまく収まる問題なのだ。……そのことが、相当な技術を要するとしても。
そして、カレンの実力は、マリーが大いに知るところでもある。
「冗談言わないでよ。呪文の詠唱くらい防げないで大剣なんぞ振るうなって、師匠の口癖じゃない。そんなことはできて当たり前よ」
「言うじゃない。次の対戦相手よね? ハッシュのチーム」
マリーが頷く。
カレンは面白そうに三人を見回した。
「ハッシュもそうだけど、レンやルシアも相当の練習をしてきたみたいよ。……師匠に一目置かれているからって、調子に乗らないことね」
マリーはそのセリフを特に神妙に受け止めるでもなく、
「平気よ。……そっちこそ、スリースターズなめてもらっちゃ困るわよ」
不敵に言った。
カレンはうっすらと笑ったが、その目の奥には、なんとも形容しがたい凄みが感じられた。




