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三ツ星英雄譚 (十五年の歳月をかけて完成した作品、現在編集しながら投稿……)  作者: ノアキ光


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27 仕組まれた幕開けと黒幕の微笑

「やー、三年ぶりに来たわねーっ!」


 うーん、と両手を伸ばしてマリーが言った。


 ディース神殿の入り口で参加確認を済ませた三人は、神殿のすべてとも言っていい、巨大な試合場に出てきていた。

 試合場を観客席から見下ろすと、大きな円形の試合場が、そのちょうど半分を境目にして縦と横とに線が引かれているのがわかる。


 これによって一つの試合場は、円を縦横に四分割した、すなわち扇形の形をとっている。

 そのスペースの中一杯に正方形が描かれ、東西南北あわせて四つの試合場ができていた。

 四分割、といってもどれも十分な広さで、試合をするにあたって不足はない。


 コートが思い出したように言った。


「肝心なことを忘れてた」


 木刀――試合では真剣の使用は禁止されている――を抜いて、素振りをしようとしていたマリーが、怪訝そうな顔をして応えた。


「何?」


「審判の制度についてまだ教わってないぞ。勝敗はどうやって決めるんだよ」


 おお、それはまだ説明してなっかったっけ、とマリーは眉を上げてつぶやいた。


「審判はね、ひとつのコートに6人いるの」


 6人、とデュオが言った。どうでもいいが、試合場がだんだん混んできている。


「そのうち三人が、普通の審判。攻撃が相手に十分な効果を与えられたと見なすと、審判は手を上げるわ。そのとき、一人の審判につき5点まで、その攻撃に対しての点数を与える」


「というと?」


「もし、あなたのキックが相手のお腹に当たったとする。でも、ばっちり決まったときと、相手が何とか体をかわすことで威力を抑えたりすることだってあるわ。そのときの判断って、微妙でしょ?」


「まあ、そりゃそうだね」


「そこで、得点制なのよ。最終的にある攻撃に対して、三人の審判が上げた点数の合計が13点を超えれば、その攻撃は合格。その時点で相手の負けが確定する。予戦はね。本戦は、ちょっと違う」


「まあ、本戦の場合はおいおい聞くとして……要するに、クリーンヒットを狙えばいいわけだな?」


「そ。ただし、頭は狙ってはいけない。その辺は開会式の時に説明されると思うけど……」


「ほかの三人は?」


「うん、ほかの三人は……ホラ、魔術師よ」


 ああ、とデュオは手を打った。


「その三人が、魔法が効果的な威力を与えたかどうかの判定をするんだ」


「そうよ。攻撃魔法っていうのは……もちろん物理攻撃にも当てはまることだけど……中には直接食らったら致命傷になる時だってある。そういう攻撃に対してのみ、魔法に限らず、審判は結界を張って対象者を守ることが義務付けられている。……だから審判の際は、『もしその攻撃が当たったら』を想定して、判定を行うわけよ」


 ちょうど良いタイミングで、大きなラッパの音が会場内に広がった。

 マリーは音の中心を見やる。


「開会式だわ。デュオ、コート、整列しましょう」


 オッケー、とコート。

 デュオもこくりと頷いた。




☆   ☆   ☆





 一人の老人が、静かな視線を目の前に座る男に合わせていた。


「お前は本当によく動いてくれたな。その働き、きっとファラ様も見届けていようぞ」


 老人が揚々と言った。


「お前が魔法庁出身だということを聞いたときは、さすがに入教の許可を出すには迷ったが……あのときの判断は正解だったようだ。わざわざこんな土産まで持ってくるのだ。裏切りなどは絶対にありえないと、私は確信した。今から思えば、お前がいなければ、計画は四年前に頓挫していただろうよ」


 彼の言った『土産』を指しているのだろう、一冊の古びた分厚い本を手にした教祖を前にして、男は薄く笑った。

 それを皮肉なものとも気づかずにいる教祖は、ますます気をよくした。


「教団の最終目的もようやく果たされる」


「いや、それはないでしょう」


「何?」


 次の瞬間。

 まばゆく、しかし鋭い光が教祖の喉本に突きつけられた。


 老人は、おそらくしばらくの間、自分に一体何が起こったのかを把握できなかっただろう。


「どういうことだ」


 年老いた教祖はうめくように、ようやくそう言った。


「どうもこうもありません。ご覧のとおりですよ、教祖様」


 その手には、細身の剣が突きつけられていた。

 切っ先は美しく光り、教祖に向いている。

 

「貴様、この期に及んでやはり魔法庁に加担するか!」


「勘違いしないでいただきたい。私は魔法庁の研究を進めたいだけです。今までよく動いてくれました。あなたの役目はこれで終わりですよ」


「なんと……では四年前もすべて」


「実際、『革新派』も困っていたのですよ。いくら研究が進んでも、『鍵』を使って『魔海』に再度ちゃんとした封印が掛けられてしまえば、すべて終わりだ。そこであなた方の出番だったというわけです」


「は……はかったのか!」


「そうです。魔法庁に保管されている古文書、『スレイプニル』を手土産に入団を申し出た私を、あなたは実によく信用してくれた。そして期待通りに動いてくださった。四年前、『鍵』の魔法を継承した王族の乗る馬車を事故に見せかけて破壊し、今回に至っては自ら保守派が張った結界まで壊してくれた。……『魔海』から溢れる魔力は、さらにその勢いを増した。研究材料の提供をたっぷりしてくれたわけです。おまけに、魔法庁や騎士庁の視線は、今やあなたに釘付けだ」


「そ、そんな」


「革新派もこれでしばらくは活動を進められる。……というわけだ。悪いが、死んでもらおう」

 

「こ、このままですむと思うなよ! ファラは必ず復活する! 結局、再封印を施さないのならば!」


 勝ち誇って言う老人を前に、男はどこか冷めた視線をやって、剣を振り上げた。


「万が一の時に備えた兵器は、もうすでに革新派が発明した。神を滅ぼすその時を、お前は地獄で見守っていろ」


 そして、老人の視界が赤く染まった。


 無様に転がった死人を見下ろして、哀愁もなく、罪悪すら感じることなく。


 今はもう一人となった部屋の窓からは、あの神殿が見える。


 いつもよりまして賑やかな神殿を見て、男は、




 ――ダナン・オーウェンは、小さく、笑った。



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