全知全能と頼れる相棒
僕が自分の世界に入り過ぎてしまったせいで、困惑し始めた芽唯さん。僕はちょっと反省し、話を本筋に戻してあげることにした。
「さて、本題に戻ろうか」
「貴方が言うのは図々しいと思いませんか……?」
「そういう意見もあるよね」
「……貴方の人間性が、少しずつ分かって来た気がします」
多分、あんまり良くない意味であるとは察しつつも僕は微笑むことで誤魔化した。
「そのちょっと笑うの、イラっとするのでやめて貰っても良いですか?」
「微笑みだよ」
「やめて貰って良いですか?」
「……うん」
流石の僕もちょっと傷付いたよ。同年代くらいの女の子に、こんなに冷めた目で見られたことは無い。いや、無いことも無いけど。
「それで、だよ。結局僕は捕まえられるのか、そうじゃないのか。まだ聞きたい話があったり、話したいことがあるのか……どうかな?」
「捕まえる気は、もう無いです……聞きたいことは、正直山ほどありますけど」
「え、例えば?」
「……一番聞きたいことは、貴方は何者かってことですが」
芽唯さんの問いに、僕は片手を上向けに広げ、そこに魔力の灯火を宿した。
「魔術士」
「どうやってやったんですか、それ……」
え、これ出来ないの。結構簡単……でも無いか。最初の頃の僕に出来たかと言うと、絶対に出来なかったことではある。
「ただの魔術士、では無いですよね?」
「ごめんけど、ただの魔術士って何か分からないよ。魔術を使える人は魔術士で、それ以上でも以下でも無いと思うんだけど」
あ、でも固有の魔術を作れる人は魔術師、だったりするか。それ以上はあったね。
「そこら辺に居る、普遍的な魔術士では……というか、もっと根本的に何か違うような気もしますが」
「何言ってるか良く分かんないけど。でも、何を以って普遍的な魔術士って言えるか基準が無いなら何も言えないね。僕は、ただの魔術士だよ」
魔術士としては、僕より凄い奴なんて沢山居る。御岳さんなんて凄く強いし、別に固有魔術を何か使える訳でも無い。つまり、そういうことである。確かに色んな魔術を使えるし、結構強い方ではあるけど……別に、その程度のものだ。魔術士としてはね。
「そう、ですか」
「そうだよ。他に、聞きたいことはある?」
「魔術士、という言葉以外で何者かを現すならば……何ですか?」
「学生。子供。男の子、一般人、高校生。うん。そのくらいかな」
聞きたいことはそういう意味じゃないだろうけど、僕から返せる答えはこのくらいのものである。予想通りに不満げな顔をした芽唯さんに、僕は誤魔化すように笑った。
「あ、でも調べたら分かるだろうし……助けてくれた恩を返す訳じゃないけど、このくらいは言っておくよ」
「……なん、ですか」
「とある、魔術士の組織の一員だ。一応言っておくけど、悪い組織では無いヨ。悪い奴に狙われてる組織ではあるけどね」
「それが、つまり……」
考え込むように俯いた芽唯さんに、僕は少し待ってから声を掛けた。
「……聞きたいことは、それだけで良いかな?」
「少し、待ってください。貴方は、私に……絵空さんに、頼ってはくれませんか?」
「それで言うと、絵空には既にお世話になっちゃってるから聞いてみたらどうかな? あんまり、管理局側の人に頼りたくは無いんだけど……何せ、体制側というか権力を持ってる側が腐ってるからね。その中で立場が弱い人に頼っても辛いだろうから、あんまり頼るべきじゃないなって気持ちはあるよ」
「それでも、相談して頂ければ……力になれることも、あると思います」
キリッと視線を向けて言った芽唯さんに、僕は微笑んだ。
「あはは……そっか。うん、困ったときには頼らせて貰うかも」
「……はい」
僕が本心の言葉を吐いた訳では無いことを察したのか、芽唯さんは僅かに表情を曇らせたが、それでも何か言及してくることは無かった。
「また、会った時には……彼の隣に立つに相応しい、局員になっている予定ですので」
「へぇ、良いじゃん」
「なので、覚悟しておいてくださいね。今度は、あんな簡単にはやられてやりません」
「あはは、じゃあ楽しみにしとくよ」
今は、きっと絵空からの信頼も厚いという訳では無いのだろう。でなければ、芽唯さんの持っている情報は少なすぎるからだ。この感じを見るに、多分腐敗した側であると疑われていたというよりも……情報を知ってしまうことで、危険に襲われること自体を恐れたって感じだろうね。
「一つ、助言しても良いかな?」
「……なんですか?」
絵空の頼れる相棒、それを目指すには……まだ、力が足りな過ぎるだろう。力が足りないのに横に立とうとすれば、いつか絵空の重荷になることも有り得る筈だ。
「君はあの指輪に頼り切りな今を省みて、素の魔術の修練に勤しんでるみたいだけど」
「ッ!? 何で分かるんですか……?」
「実戦に結び付かない練習は、君の成長の妨げになってる。どうせ実戦ではデバイスしか使えないんだ。今は寧ろ、純粋な魔力の扱いを磨いてデバイスの使い方を鍛えた方が良い。それを経てから、魔術の練習にかかった方が君にとっては効率的だよ」
芽唯さんが目を見開き、震える口で言葉を漏らす。
「何で、そんなこと……」
「絵空の為に決まってる」
「ッ、そうじゃなくて」
そっちは勿論、頼れる相棒の力だ。芽唯さんには秘密だけどね。僕は手を振り、颯爽と裏路地から去って行った。




