全知全能と管理局の女
僕を追いかけ、追いついて来た少女。というか、僕と同じ年頃に見える女の子は……前に、攫われそうになった柚乃を取り戻す時に介入してきた管理局の人だった。絵空と話してたから、所謂腐ってる側の管理局員ではないと思いたい、けど。
「取り敢えず、こっちに来てください」
「……捕まえないよね?」
「話を聞くだけです」
キッと鋭い目線で睨んで来た女の子に、僕は仕方なくついて行くことにした。路地裏に入り、人には聞かれないであろうというところに連れ込まれた僕だったが、ここを誰かに見られれば寧ろ僕が警察のお世話になりそうだと震えるのであった。
「……貴方は、あの時の黒い靄ですね?」
「お」
言い直してくれた。そうとも、影では無く靄なのである。
「何のことか分からないけど、だとしたらどうする?」
「……当然、ここで拘束する……と、言いたい所ですが」
明言は避けながらも話した僕に、女の子は悩まし気な視線を向けて来た。
「理由も無く他人を助けていた貴方を、捕まえたくはありません。それが、正しいことなのかも……分かりませんから」
「……それは、どうも?」
僕が困惑気味に返すと、女の子は溜息を吐いた。
「南 芽唯です。貴方の名前も聞いて良いですか?」
「ん、宇尾根治だよ」
今の僕は顔も出てるし、制服も着たままだしね。どうせ、誤魔化しも効かないだろう。それに、今は管理局の監視も無いみたいだから、信用できる相手なら話しても問題は無い。
「……あの時、何故女の子を攫って行ったんですか?」
「何のことだか一切分からないけれど、攫われた子を助けに来たって説もあるんじゃないかな? というか、攫われた子がどこの誰だかって調査はしなかったの?」
「されたかと思いますが、こちらの管轄では無いということになりましたので」
「なるほどね」
僕は思わず溜息を吐いた。根っこまで腐りきっている管理局には、怒りを通り越して呆れしか湧いてこない。管理局が浄化される日は来るのだろうか。いや、いつか絵空なんかの善良な若者がトップに立った時にはマシになるだろう。
というか、腐っているのはここの支部だけ……? なのかな、詳しくは分からないけど、本部は別に腐っている訳では無いって話だったから、それを信じるなら早期に改善する可能性もあるかも知れない。
「……やはり、魔術管理局は」
「ん」
俯きながらの芽唯さんの呟きに僕が首を傾げると、芽唯さんはこちらに視線を向けて来た。
「魔術管理局は、腐敗していますか?」
「あはっ」
僕が笑うと、芽唯さんは怒ったように睨んで来た。
「なんで笑うんですか」
「そんなの僕に聞いたところで信頼出来るのか、って思ってさ」
「……それは。でも、一考の余地には入れます」
「そっか。じゃあ、腐ってるよ。魔術だの管理局だのなんのことか一切分からないけど、うん。どう考えても腐ってると思うよ」
もう殆ど意味のないくらいの誤魔化しだが、明言を避けることに……いや、ここまで来たらあんまり意味も無いよね。
「絵空を頼りなよ。絵空は、僕の友達なんだ。僕と通じてる、って思うと怪しく思えるかもしれないけど、信頼出来るから……」
「それは分かってます。絵空さんは、凄く信用していますし、信頼しています」
「あ、そう……なの?」
そう語る目線には、声色には、何か力強いものが込められている気がした。
「はい。確かに、普段はふざけてるような部分もありますが……でも、いざという時には頼りになる、先輩ですから」
「へぇ……」
これって、そういう感じなのかな。もしかして、ねぇ?
「……何をニヤニヤとしているんですか。不快です」
「あはは、いやいや……絵空も、そっかぁ。って、ねぇ?」
「ッ! 何がですか……!?」
「あはははっ!」
顔を赤くして怒り始めた芽唯さん。これは、つまりそういうことだよねぇ……絵空にも、春が来たってことかな。それも、色んな事情を知っていて汲んでくれる、管理局内部の人だって言うなら後ろめたい隠し事も必要なくて良いじゃないか。
「……はぁ」
「今度は何で落ち込んでるんですか……」
いや、だって冷静に考えたら置いて行かれたなぁって。僕なんて……可愛い女の子は結構周りに居るけど、居るだけである。僕のこと好きなのかも知れないのは、殆ど僕が生み出したと言っても相違ない神樹のソラくらいである。いや、ソラは好きかもじゃなくて流石に好きだと思って……くれてる、筈だ。
「なんか、自信無くなって来たな……」
「……何なんですか、貴方は」
ジト目でこちらを見て来る芽唯さんからは視線を逸らし、少し考えた。
「いや」
そもそも、僕は誰が好きなんだ? 人を好きになったことなんて無いから、分からないよ。
「ま、今はそれどころじゃないよね」
「何の話をされていますか……?」
芽唯さんにも申し訳ないし、本題に戻ることにしよう。……絵空、そっかぁ。




