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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と敵の敵は

 退屈な授業を乗り越えて、しかし何とか真面目にノートに写した僕は、学業から心が完全に離れていることに気付いて溜息を吐いた。


「夏休みは、ちょっとは勉強しないとだよね」


 全知全能で宿題を一秒で終わらせることだって出来るんだぜー、みたいなこと考えていた僕だが、当然そんなやり方に頼る訳にもいかず、それにテストのことを考えればそれとは別に勉強も必要だろう。

 僕も、大学受験がいずれ控えている学生の身分である。憂鬱なことこの上ないが、他の皆と比べればずっとマシではあるだろう。飽くまで、僕が大学受験に臨まなければならないのは、僕が普通の生き方を求めているからというだけだ。最悪、僕はどうとでも出来てしまうから。


「……よし」


 だからこそ、戒めとして勉強をするべきだろう。他人と同じ重みを持てないのならば、同量の努力はして然るべきだろう。夏休みは、頑張るぞ。ていうか、色々片付いたら頑張ろう。うん。


「帰るか」


 放課後、机にうなだれたままボーっとしていた僕だが、そろそろ周りの生徒も減り始めている頃合いだ。そろそろ、帰るとしよう。引き出しの中の教材をサッと通学用リュックサックに入れて、教室を後にした。




 教室を出て、階段を下り、校門をくぐり、いつも通りの道を歩いていた僕は……そこが、人払いされていることに気付いた。


「……ッ!」


 さっきまでは、人も居た筈だ。つまり、人払いが完了したのは殆ど今この瞬間と思って良い。結界の展開も、今された。

 前に抜けるか、後ろに下がるか。相手をしても良いけど、一旦安全に逃げられるならそれに越したことは無い。前回のような精鋭が来る可能性も……いや、アレで失敗した以上、それを超えるような敵が来ている可能性の方が高いからだ。


「……忘れ物、っと」


 僕は踵を返して、走り出した。結界の外まで出て、逃げ切れればそれで良い。下校路ってことは、管理局の奴らに見られてる可能性も十二分にあるから、出来るだけ魔術の使用はしないでおきたい。


「おいおい、待てよぉ」


 背後から、にやけたような声が聞こえる。だけど、無視だ。僕はそのまま走り……背後から迫った魔力の気配に、咄嗟に横に跳ぼうとして……


「ぇ」


 正面から、飛び込んで来た人に目を見開いた。



「――――魔術管理局だ。規定外の魔術行使を確認した、直ちに全ての行動を停止しろ」



 能地絵空。人払いの結界の内側に飛び込んで来たのは、僕の数少ない親友の一人だった。


「速やかに魔力の操作を停止し、地面に膝を突いて手を頭の後ろに回せ。抵抗するなら、強引にでも制圧することになる」


「なんだ、テメェ……舐めてっと、潰すぜ?」


 ガラの悪い男が魔力を滾らせて、両の拳に纏わせた。その操作は巧いものとは言えず、言ってしまえば拙かった。


「……忠告はした、ぜ?」


 絵空の姿が、一瞬にして掻き消える。かと思えば、男の腹部にその拳を叩き込んでいた。目を見開き、くの字に体を曲げた男。


「ぐ、ぉ……ッ!」


「残念、外れだ」


 それでも、食らいつくように絵空に拳を振るおうとする男。無慈悲にも絵空はその拳を見切り、顔だけを横に逸らして避けると、そのまま前に踏み込んで止めのアッパーを顎に食らわせ、男の意識を吹き飛ばした。


「凄いね……」


 僕が小さく呟いていると、絵空は倒れた男から視線を外して振り返った。


「さて、と。一般人の方が見ちまったってことで記憶処理させて頂きますから、俺に付いて来てもらって良いですかね?」


「び、びっくり……だー。まさか、絵空が魔法使いだなんてー……!」


 一応驚いているポーズを取った僕を見て、呆れたような顔をした絵空は僕の手を引いてその場から離れようとした。


「ちょ、ちょっと!」


 男の声がして、振り返るとそこには中年の男が立っていた。


「ま、待ちなさい。記憶処理はこちらで実行しますので……」


「いやいや、それには及びませんよ。野見島(のみしま)さん。基本、処理は直接事に当たった人間が担当するのが当然でしょう? ご心配なく、デバイスはちゃんと持ってますんでね」


「丁度、我々も来ているから……」


「ん、我々とは? 具体的に誰と誰と誰がいらっしゃるんですか? ここは俺の担当ですが、こんなところに一体何の用で……」


 中年の男がうっ、と声を上げて言葉を詰まらせた。


「あ、でしたらそこに倒れてる人を任せても良いですかね? それとも、俺がそこの人から色々聞いた方が良かったり、しますかね?」


「そ、それは……ッ! その、聴取までは君の担当とは言えない、だろう? だから、だね……」


 二人の話を聞いていて、僕も漸く察した。これは、管理局側の策略であった訳だ。辛抱堪らず、魔術士の刺客を送り込んで……僕が抵抗したところを、違法な魔術士として捕まえるつもりだったのだろう。


「いや、そうだよ。どちらも我々が処理を……!」


「だから、我々ってのは誰が来てるんですかね? 貴方の権限ではデバイスも所持していない筈ですし、単独での記憶処理には当たれない筈ですから……念の為に、他の方も確認しておきたいんですが。そもそも、何でまだ姿すら現しちゃくれないんですかね?」


 嫌疑の目を向けて来た絵空に、中年の男は不安そうに目を彷徨わせた。


「取り敢えず、こっちの人は俺が記憶処理しておきますんで」


「はッ!? 待ちなさい……!」


「それでは、失礼します」


 絵空は頭を下げると、呆けて見ているだけな感じを装っていた僕の腕を取ってその場から走り去っていくのだった。

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