全知全能と登校路
目を覚ますと報告があって、ディーが残りの敵対組織を含める複数の犯罪組織を潰してくれたらしい。これで、暫くは向こうも強気には出られない筈だ。ただ、ユモンから聞いた事務所の人達の話によれば、『閃影』って言う京都の方の魔術士も来ていたらしくて、それで外部から腕利きの人達を呼ぼうとし始めてるんじゃないかってことらしい。
「ふぁぁ……」
通学用のリュックを背負ったままあくび、そのまま背伸びをした僕だが、今日は別に寝不足という訳では無い。ストレスとかでも出るって聞くから、最近色々あるせいかも知れないね。
「よう、治」
「ん、絵空じゃん」
学校も近くなって来たという頃合いで絵空が現れて軽く手を上げて来た。僕も手を上げ返し、歩く速度を僅かに落とす。
「最近、調子はどうだよ?」
「えー? 調子かぁ……ボチボチ、だねぇ。良い感じだけど疲れる、って感じ」
「ま、良いことじゃねぇかよ。忙しいのも暇よりもちったぁマシだぜ」
「どうかな、それは」
僕は小さく溜息を吐き、首を振った。これは恐らく、事務所関連の話を……というか、僕の裏事情について聞いている質問だろう。一応は世間話を装ってるってところだろうけど。
「俺はどっちかっていうと暇だぜ。バイトも、あんまり仕事が無くてよ」
「へぇ……」
「やっぱ、暇よりは忙しい方がマシだと思うぜ? くだらねぇ、クソの役にも立たない雑務なんかさせられても、家で寝てる方がマシだってんだよ」
「そうかもねぇ」
管理局側でも正義側の思考を持つ絵空は、それに僕の友人である絵空は向こうからすると都合が悪い存在なんだろう。だから、御岳相談事務所とは関係の無い雑務に縛り付けて、関与させないようにしている、っていうところだろう。
「でも、まぁ……忙しいのは忙しいので、大変だよ?」
「それもそうだろうな。手伝ってやろうか?」
「え゛」
にやりと笑って聞いて来た絵空に、僕は喉を締め上げられたような声を出すことしか出来なかった。
「い、いや、大丈夫……だよ」
「そうかぁ?」
タチ悪いよ絵空、見られてたらどうするつもりなんだ。僕、そういうアドリブは利かないタイプなんだから。
「ま、なんにしろ……夏休み入るのが、楽しみだな!」
「あ、うん。そうだね。そういえば、もう……」
そんな時期だった、か。夏休みになったらどうしようかな。ゴーレムも作り放題である。今まで妄想するだけしてきた、夏休みの宿題をもう一人の僕にやらせるみたいなことも一応出来るのだ。まぁ、絶対やらないけどさ。
「楽しみにするにはちと速いかもだが……色々遊べるのを、楽しみにしとくぜ?」
「うん、僕もね」
この色々なごたごたが片付いて、平和になったら……やっと、まともに絵空や善斗と遊べる余裕も出て来るだろう。今は、沢山の出来事が目白押しで身動きが取りづらいんだ。その上、学校も毎日行かないといけないしね。
「ほいじゃ、またな」
「あいあい」
学校に着いた僕らは、手を振ってお互いに別れを告げ、僕は憂鬱な授業の始まりに小さく息を吐き出した。
♦
仕掛けられていたカメラの映像を確認し、男は溜息を吐いた。そこに映っていたのは、校門をくぐっていく絵空と治だ。
「……面倒だな」
宇尾根治。それは、御岳相談事務所の件に深く関わっていると見られている男子高校生だ。一般家庭の生まれであり、調査によってもその経歴はやはり一般人のものであった。
そして、能地絵空。魔術管理局の一員であり、能地家という優秀な管理局員の血を引く、やはり優秀な局員であった。
が、しかし……その優秀さは、今は魔術管理局にとって不利なものであった。マズヴァイPLCの犬と化し、御岳相談事務所と敵対する管理局にとって、強い正義感を持つ能地家は、能地絵空は邪魔でしかないのだ。
しかも、今回に限ってはその治と絵空が友人関係にあると来ている。未だ、互いの素性を悟っているとは知れないが、それでも事実が全て露呈した時に絵空が治側で動こうとするのは明白だろう。
「やはり、急がなければ……」
絵空が治側で動くと言うことは、つまり何故か急速に完治している絵空の姉も管理局に敵対する形で、マズヴァイの敵として動くと言うことだ。そうなれば、厄介なことになるのは……どころか、本部からの制裁によって積み上げたキャリアが失われる可能性は相当高くなるのは、明らかだろう。
「覚悟していろよ、宇尾根治」
強く握り締めた拳を開き、男は立ち上がった。




