全知全能と火傷
僕は彼らを魔術によって縛り上げた後、紫苑ちゃんに連絡を入れてそこら辺で暫く待機し、やって来た安堂さんと入れ替わるようにして逃げ出した。
それにしても、彼らは結構な精鋭だったように思える。もしかしたら、知っている情報も今までの他の敵より重要なものを握っているかも知れない。
いや、もう情報なんてどうでも良かった。僕は疲れた。終わってからだけど、少し寒気がしている。多分、熱が出ているだろう。帰ったら測ってみよう。あぁ、なんか体が怠い気がする。というか、確実にそうだ。今日の予定は全てキャンセルしたいくらいな気分だ。
今まで、割と簡単に苦境を押し退けて来た僕だ。襲撃に遭うことも多々あったけど、その度に何とか乗り越えて来た。今回も、そうだと言えばそうなんだけど……正直、ここまで完封されるとは思わなかったからショックはある。
「……はぁ」
大体、何だよあの魔術を封じて来る奴。僕だって、近接戦闘において魔法陣を崩壊させる技術は会得しているが、あんな遠距離から大きな痕跡も見せずにやって来るのはプロの所業が過ぎる。多分、そういう所の技術では異世界より上なんじゃないかなぁ。
都市の中での隠密戦闘、姿を隠しながらの戦闘なんてのは、異世界だとあまり想定する必要性は高くないシチュエーションだ。勿論、そういう時だって有りはするけど、異世界での魔術戦ってのはつまり戦争みたいな大規模戦闘のケースが多いだろうからね。隠密して敵の魔術を遠距離からジャミングするような技は、異世界だとそう使う機会も無いだろう。
「あんなの、どうすれば……」
恐らく、原理自体は魔力によって魔法陣を崩すそれである筈だ。問題は、洗練されたそれは弾丸のように、あるいは波動のように一瞬で遠距離からこちらに到達して魔法陣を崩してしまうことである。それを防ぐには、うーん……魔力で魔法陣そのものを覆うようにして保護すれば行けるか?
まぁ、だとしても、何だったとしても、僕が死ぬ程苦労させられたのは事実である。アレは、どうすれば良かったんだろう?
コンクリートやらアスファルトやらが抉れて大変なことになるのも躊躇わずにインスタントでゴーレムを作り出してみるべきだったか? それをすると、レプリみたいに復元機能を入れてないから道やら地面やらがぐちゃぐちゃのままになって大迷惑になってしまう。
ただ、あの赤い光弾は完璧に防いでおくべきだった。魔力を多少浪費すれば防げていたダメージではあったから。掠る程度なら、そう思って魔力をケチってしまったことが原因だ。アレは、絶対に防いでおくべきだった。そうしていれば、あんな苦しい思いをすることも無かったのに。
でも、アレも一つの経験にはなった。そう思わないとやってけないってのもあるけど、敵の攻撃を軽視して不用意に受けるような真似はするべきじゃないだろう。少なくとも、相手の攻撃の性質を完全に看破した後で無ければね。
「……強かったなぁ」
思い返しても、強かった。ごえんまわしだのなんだのと名乗っていたけど、それが本当の組織名かすらも分からない。多分、アレは僕に五人組だと誤認させる為の罠だったからだ。そこら辺の駆け引きも含めて、狡猾で老獪な相手だった。僕如きの素人同然の魔術士が相手出来る奴じゃなかった。
けど、それと一応は勝負が出来ていたんだ。これも経験として、更に強くなろう。本気の出し方なんて練習したけど、やはりそこら辺は一朝一夕では出来ないのだ。慣れて自然にやれるようになるまで、実戦あるのみと言ったところである。
「良し、帰ろう」
帰って、寝よう。既に帰る途中ではあった僕だが、更に早足になって家を目指すのだった。
♢
家に帰った僕だが、やはりというかなんというか熱は出ていた。本当は裏世界に行ってラクリオの手伝いをしたりしておきたかった訳だが、そこら辺は後日にしよう。全知全能で治すことだって勿論出来るけれど、このくらいの熱やキツさに使っていたら、いつか何でも頼ってしまうことになりそうだ。
「……取り敢えず、明日だ」
僕はベッドに仰向けに寝転がって、真っ直ぐに天井を見上げながら呟いた。諸々やることは、明日にしよう。いや、ディーに関しては今日に動かしておくべきかな? こんな襲撃があった以上、向こうが既に強気に動き出していることは間違いない。
「そう考えると、やっぱり幸運だった」
相手の全力の襲撃が起きるとして、その時にあの五人組……いや、六人だったか。彼らが居たら、事故が起きる可能性もあったと思う。彼らを、ここで倒しておくことが出来たのは幸運だったと思っておこう。そうじゃないと、僕があんなに苦しい思いをした甲斐も無い。いや、本当に苦しかった。今ですら熱が出て苦しいのに、あの時はこの百倍くらい最悪な思いだった。
「……戒めってことに、しておこう」
目を瞑ったら、眠ってしまいそうだ。まだ、ディーに仕事を任せてから……寝るのは、その後にしないとね。




