全知全能と誤認
黒い刃を避けて、僕は魔力を籠めた一撃を男の腹部に叩き込んだ。
「ぐ、はッ……!」
今度の一撃は、結構全力だ。それでも、一撃で倒れてすらくれないのはこの男が近接専門の……所謂、強化型とでも呼ぶべき相手だからだろうか。
「『暗生鈍』」
男が仰け反りながらも剣先を僕の足元に向けると、暗い闇が生じて僕の足へと鎖になって絡み付く。が、その動きも見えていた僕はそれを跳びこえるように避けながら距離を詰め、再び拳を……
「ッ!」
「避けた、か……!」
赤い光弾が、僕の眼前を通り抜けて行った。狙撃位置を変えて、また僕を狙いに来たか。
「『魔尖――――」
黒刃を構えている男の腕を狙って魔術を放とうとしたが、やはり妨害されてしまった。だが、今ので分かった。超感覚の中に居る僕なら、その妨害の起点を見破ることくらい簡単だ。
「よっ、と!」
僕は地を蹴り、魔術の妨害をしている気配のする方へと思い切り飛び込んだ。すると、マンションの下、駐車場のようになっている建物の影からゆらりと姿を現した。
「ッ!」
人間。その手をこちらに向けた、その相手――――地面が盛り上がり、鋭利な突起となって僕の体を突き刺そうとする。
「あ、っぶない……ねっ」
幻影だった。現れた人は幻影で、僕を大地の棘で突き刺して殺そうとしていた。しかし、こんなことされたら、コンクリートの地面がぐちゃぐちゃだ。僕が、気を遣って戦ってるって言うのに。
「幻影には……かかってやらない」
幻影は、飽くまで一元的なものだ。恐らくは視界、それに訴えかけて錯覚させている。それが、辻褄を合わせるように他の感覚にも影響しているに過ぎない。
だったら、逆のことをしてやれば良いだけだ。聴覚に、嗅覚に、触覚に。それに頼って視覚を補完する。普通ならそんなこと出来ないけど、超感覚の中に居る僕なら出来る。
「見えた」
視覚への依存を減らし、魔力を察知する感覚がより研ぎ澄まされたからか……僕は、隠密用の結界に隠れていたそれらを偶然にも、若しくは必然的に見つけ出すことに成功した。
そこに居たのは、同じような服装をした男が三人。二人は特徴が無い顔立ちに見えるが、恐らく一人は外国の人間だろう。
「これは、凄く……新鮮だ」
今の僕は、今までよりも更に感覚的に優れているようだった。目が見えない人は他の感覚が磨かれる、なんて話はよく聞くけど、それに近いんだろう。超感覚による五感の制御、それによって僕は視界を弱化することで逆に全てを見ることが出来ていた。
欠点としては、違和感があるのと少し気持ち悪い。それに、見えているように補完されているだけで本当の意味で見えてはいないから、視覚だけでしか捉えられないものには弱くなってしまうことだろうか。
「見られていル、ぞ……気付かれて、イる……」
「牙、やれ!」
「わがってるッ!」
僕が見ていることに気付いた彼らは、焦ったように攻撃を再開する。足元から突き出される大地の牙、背後から放たれる赤色の光弾、頭上に現れる黒刃。それらの全てを、僕は冷静に全て捉えて対処した。
「な、ッ……!?」
牙を飛び越え、身を捩って光弾を避け、黒刃を魔力を纏った手で逸らし、そのまま男の首根っこを引っ掴んだ。
そのまま地面に叩き付けてやろうとした僕だが、男の体は転移で逃れて消えた。しかし、これで次の転移まで一瞬のラグがある筈だ。
「先に、君たちだ」
「はがァッ!?」
地面を操る術を用いていたらしい男の腹を膝で蹴りつけ、浮かんだところに拳を叩き落とした。地面に倒れた男は気を失い、起き上がって来ることは無いように思えた。
「鉄火ッ!! やれぇッ!!」
一人の男が叫ぶと、その合図をまるで待っていたかのように……若しくは、言われずともそうするつもりであったのか、飛来した拳大の炎球が僕らの中心でその輝きを強めて……その場の全員を巻き込むような形で、勢いよく爆発した。
「ッ、これは……」
咄嗟に魔術で防御を展開し、自分を守った僕だったが……その威力は殺し切れはせずに、体には僅かに焼けたような跡が出来てしまっていた。だけど、さっきの体の内側を燃やされた感覚よりはずっとマシだ。
問題は、今の爆発で僕以外の三人は思い切り吹っ飛んでしまい、気を失っていて……更に、ビルの足元、駐車場となっているその場所で爆ぜてしまったことで、思い切りビルの支柱の一つを吹き飛ばしてしまっていたことであった。
「まさか、アレを生き残るとはな……ッ!!」
「ッ、今そんな場合じゃないんだって!」
そこに、飛び込んで来た黒い刃の男。もう、この男だけなら対処は容易だ。後は、狙撃手が一人残っているくらいな筈だ。五人のうち、残すは二人……待てよ、五人。
「もしかして、前に話してた五人組の襲撃者って……」
ここに倒れている三人に、黒刃使いの男。そして、狙撃手。合計五人である。茜さん達が前に襲われたと言っていた、五人組なんじゃないのか、こいつらは。
「そうだ、俺たちは五縁廻し……その名を知る者は、依頼主以外には残らないがな!」
やっぱり、そうだったのか。だけど、態々話さなければ名が残るリスクはもっと減ったんじゃないかな!
「ッ!」
頬の横を通り抜けて行った炎弾に息を呑み、そこに斬りかかって来た男に……僕は手を伸ばした。
「『魔尖弾』」
男の腕を貫き、男は驚愕に目を見開いて黒刃を取り落とす。恐らく、妨害役の敵は仲間の攻撃で気絶したんだ。今なら、無詠唱以外の魔術も使える筈だ。
「と、取り合えずこっちを……!」
残すは狙撃手のみ。となれば、距離は遠いから先に柱の修復を行っておきたい。この支柱を失っただけで倒れるかは分からないけど、下手すれば、ビルが崩れて沢山死んでしまう可能性だってあるからね。
僕は、狙撃手の攻撃に気を配りながらも、魔術によって柱を修復しようと手を伸ばし……そこに現れた、小柄な女の手が僕の体に触れようとしていることに気付いた。
「ッ!!?」
その手に浮かぶ魔法陣。それを見て目を見開いた僕は、咄嗟に肘の辺りを蹴り上げて、そこに続く赤い光弾を回避し、小柄の女の襟首を掴んで向こうの壁辺りまで投げ飛ばした。
「ぐ、ぇぇ……ッ」
「怖い、なぁ……ホントに!」
五人、では無かったらしい。幻の六人目の手に浮かんでいた魔法陣を読み解けば、それは体内から組織を崩壊させる最悪の魔術。食らっていれば、普通ならひとたまりも無いだろう。
「……だけど」
僕は地を蹴り、そしてそう遠くない建物の影からこちらを見ていた赤髪の男を蹴り付け、気絶させた。
「ふぅ、はぁ……」
辛勝、ここに極まれりと言ったところだろうか。何なら、負けてたといっても過言ではない。実際、一アウト食らったしね。
「一朝一夕で、本当の戦いが出来るようには……ならないって、ことかなぁ」
本気を出す練習、なんてものをしたにも関わらず、嫌らしい戦法でそれを封じて来た相手には感嘆すらあるくらいだ。若しくは、僕の未熟さに溜息が出るか、である。




