全知全能と重要な共有
次の日、僕は御岳相談事務所に呼び出しを受けていた。何やら、重要な共有があるらしい。うん。まぁ、何となく内容は察してはいる。というか、それじゃなかったら何なんだってくらいだ。
「あ、どうも」
僕は開いた扉から事務所の中に入り、ぺこりと頭を下げた。
「よっ、ちょい久し振りか?」
「うん、ちょっと振りだね」
茜さんが気さくに声をかけて来てくれたので、僕も笑みを浮かべて頷いた。
「元気してるか? 学校ちゃんと行ってるな?」
「うん。まぁ、行ってるけど……」
推定学校行ってない茜さんに言われるのは何とも言えないけど。と、そこで背後の扉がこんこんと叩かれ、その後にインターホンが鳴り響いた。
「来たわよっ!」
「失礼致します」
「おや、私達が最後の様ですね。遅くなってしまいましたか」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ! 座って下さい、治さんも!」
僕の直ぐ後にやって来た紫苑ちゃん達。瑞樹さんが扉を開き、愛想良く出迎える。その言葉に従って、僕は漸く椅子に腰を下ろした。
「これで、全員……だな?」
その場には、先に待って居たユモンは勿論のこと、光ちゃんや弦義君まで座っていた。正に、勢揃いである。
「なら、話を始めるぞ。簡単に言えば、俺たち以外の勢力が居るかも知れないって言う話だ」
瑞樹さんがお茶を出したりしている中で、御岳さんが早々に始めた話は……やはり、僕が察していた通りのことだった。
「ディー、って名前の泥を操る魔術士が裏社会の組織を潰して回っているらしい。聞いたところだと、潰されている組織は丁度俺たちの敵である組織と被っても居るようだ」
御岳はぐるりと場を見回し、尋ねた。
「心当たりがある者が居たりは、しないか?」
訪れる沈黙。僕はちらりとユモンの表情を見てしまったが、何食わぬ顔で座っているままだった。
「……まぁ、居ないだろうな」
そして、その沈黙は御岳さんにとっては予想通りだったようで、小さく息を吐いて頷いた。
「ハッキリ言って、俺もこんな奴は聞いた覚えもない。どうやら、容姿は日本人らしくはなく、それに子供と見紛う程に若くはあったようだ。声も顔も中性的で、性別すらも分からんと……謎に包まれているという訳、だな」
御岳さんの言葉に、茜さんは眉を顰めた。
「聞けば聞く程に意味分かんねぇ話だな。そんな奴がなんで今いきなり現れて、悪人だけを狙ってんのか。そいつが良い奴なのかどうかすら分かんねぇ」
「流石に、悪い人だけを倒してるなら良い人ではあるんじゃないの? それに、殺しても居ないらしいし」
茜の言葉に瑞樹さんが反応した。事務所側では既に共有は済んでいるみたいだね。
「良い人、だと……思いたいです。話が出来たら、私達とも友達になってくれるかも、知れません、から」
「……大分、希望的観測じゃね? 厄介な同業他社だけ潰してるって可能性もあるし」
希望を籠めた光ちゃんの願いを、弦義君が否定した。光ちゃんは俯いてしまった。空気が読めない感じではあるかも知れないけど、言ってること自体は筋が通っていない訳でも無い。
「まぁ、有り得る話だ。俺たちの敵ばかりを潰しているというのも、全く偶然でも有り得るからな。何せ、この福岡近辺の闇組織は殆どが俺たちの敵に回っているだろうからな」
「おっそろしいですね……」
ていうか、福岡らへんってそんなにそういう組織多いんだ……暴力団が多いくらいのイメージは、あったけどさ。
「犯罪組織に倫理観なんて殆ど無いだろう。だったら、マズヴァイと手を組んで弱小の事務所如き潰すことに躊躇いは無いのが普通だ」
「弱小と言うには、かなり怪しいと思いますがね」
「フッ、まぁ、今でこそそうだな。中々に奇妙な場所になっちまったもんだ」
「いえ、貴方が在籍している時点で弱小は有り得ないという話ですよ」
一人で勝手に納得した御岳さんに安堂さんは眉を顰めたが、それに取り合う様子は無かった。
「……まぁ、兎にも角にも情報の無いアイツだが、幾つか可能性は考えておくべきだろう。それに合わせて、どう行動するかも決めておかないとだ」
戻された話に、皆が頷く。全部を知ってる立場で黙っているというのは、ちょっと心臓が痛い。
「一つは、完全な部外者。そして、俺たちが何の情報も持っていない類の人間という可能性だ。海外から来ただとか、どこかの闇組織が秘密裏に育てていたとかな。後者なら、復讐のように闇組織を滅ぼして回っているのも納得も出来はする」
確かに。そんな感じはするよね。
「でも、それで殺さずに済ませるなんて有り得るのかしら。組織の中で酷い目に遭って居たなら、全員殺してしまう方が自然なんじゃないの?」
「……同じ立場に落ちたくない、と思ったとかじゃ」
紫苑ちゃんの問いに、光ちゃんが口を挟む。考え込むように紫苑ちゃんは黙り、その場に沈黙が落ちた。
「……それで、二つ目の可能性だ。これは、正義側の組織から送られて来た刺客だって話だな。管理局はまぁ、有り得ないだろうが……殺しをしていないってところを見るに、何か倫理観やら善良さを持っている可能性はあるだろう」
「だとして、何で今更送って来たんだよ? それに、そんな組織があってこんな奴が居るなら、噂になってないのがおかしいぜ。何しろ、被害者は死なずに情報を持ったまま生きてるんだからな」
「そうだな。まぁ、初めての仕事だって話も無くは無いだろう。とは言え、可能性は低いだろうな」
「だと思うぜ」
茜さんは椅子に踏ん反り返るように座り直し、御岳さんは三本目の指を立てた。
「まぁ、三つ目が……あの、三嶌とか言う奴の仲間だという可能性だな。明らかに介入を狙っているような奴だ。素性も知れない。その仲間が介入を開始したって可能性は大いにあるだろう」
「……それにしてもディーって奴の噂が今までどこにも無かったのが不思議だが、三嶌とか言うのが気味悪すぎて、肯定したくなる説ではあんな」
真実を知っている僕だからこそ言えることだが、当然ディーは三嶌の仲間では無い。
……寧ろ、アイツは誰なんだよ!?
僕はその心中を表に出すことは出来ず、悶々と御岳さんの話を聞いているのであった。




