全知全能と二重の泥
地面から生え伸びた植物の群れ、それを泥に染め上げて押し流されてくるのを、僕は炎の波で焼き固めて呑み込まれないようにと堪えた。
「……え?」
しかし、その僕が見たのは炎の波の左右から迫る、二人のディーの姿であった。そんな機能、僕は付けた覚えもない。
「ッ!」
二人のディーのそれぞれの片腕がスラリと刃に変わる。それは僕が想定していた機能の一つである、変化の能力であった。
「つまり、どっちも……!」
「「本物、だ」」
左右、同時に振るわれる刃を、僕は地面に手をついて魔術で石畳をせり上がらせて壁にした。が、クロスするような斬撃によってその石畳の壁は容易く切り裂かれてしまった。
「……消、えた?」
が、その間に僕は闇に身を包み、気配を消してそこから逃れた。だが、直ぐにディーは僕を見つけてその鋭い視線を僕にぶつけた。
「小細工を、弄しようと……」
「全て、無駄なことだ」
二体のディーが、泥の濁流を操りながら、僕へと再び迫り来る。今度はどうする。どうやって凌ぐ。いや、何よりあの二体はどうやって? まさか、僕の記憶を引き継いでいるから、ワントウやレプリなんかの性能を一部再現したとでも言うのか? いや、それ以外には有り得ないだろう。
「泥の体……」
生体組織で満ち満ちた、混ぜて潰して圧縮して溶かしたような泥の肉体。竜や巨人、怪物を化け物を溶かし込んだその泥は、凄まじいパワーとあらゆる可能性を秘めている。それは僕も知っていた。
「想定以上だ」
僕は手をスラリと伸ばし、黄金色の魔法陣をそこに展開した。
「『斫爛金煌斧』」
身体強化の術を強めて、僕はその魔法陣から現れた稲妻を纏った黄金の両手斧を片手で掴み取った。その直後に迫った泥の濁流を後ろに跳んで避け、続けて飛び込んで来た二人のディーの刃を黄金の両手斧で受けた。
「ッ!!」
「「ッ!」」
瞬間、電撃の如く僕の手に走り抜けた衝撃に僕は目を見開く。想像よりも、ずっと重い。身体強化を重ねた僕は、身体能力だけの面ではレティシアと戦っていたあの魔族と同じくらいには強まっている筈なのに。
だが、衝撃を受けていたのは僕だけでは無い。二人のディーも、僕の両手斧から走った黄金色の稲妻にやられて動きを止めていた。
「ふっ!」
僕は今の内にと二人を斧で押し返して、まだ生きている魔術の植物の上に飛び乗って高くへと逃れた。
「『魔尖弾』」
鋭く先端の尖った錐体の魔力弾が、片方のディーへと迫った。が、ディーはその刃であっさりと魔力弾を弾いてこちらに跳んで来た。
「ちっッ!!」
「あぁ、性能試験は……必要だった、な。間違い、ない」
斧でディーの刃を受けようとする。が、ディーは斧を飛び越えてその刃を僕の頭に振り下ろした。だけど、僕は何とかそれを避けて……
「体の動かし方も、分かって来た頃合い、だ」
背後から突き出された刃を、僕はギリギリで躱そうとするも、腕をザシュッと切り裂いていってしまった。
「く、ッ……!」
痛い。凄く、痛い。けど、言ってる場合じゃない。ディーは甘い相手じゃない。断罪者だ。僕がそう創ったし、僕が弱さに甘えることはきっと許されない。
「『超感覚』」
こうなったら、こっちも様子を見るのは終わりだ。僕の、僕として身に付けた力の全てでそっちに勝ってやる。
「そう、か……」
ディーの動きが、ぐらりとブレた。瞬間、凄まじい速度でこちらへと迫っているのを僕は視界にとらえた。
「なら、ば。こちら、も……小手調べは、終わりだ、な?」
「ッ!」
僕は迷うことなく両手斧を目の前のディーへとぶん投げた。ディーは眉を顰め、刃を振るうのを止めてそれを避けたが、それで良かった。こんな武器、僕の身の丈に合っていない。扱えないものは、使うべきじゃない。
「だったら、まだ……素手の方が、マシだ」
突き出されるディーの刃を、僕はその目で捉えて魔力を纏った素手で受け流した。そこに背後から迫っているもう一人のディーに、僕は手を伸ばした。
「『風切雷刃』」
風と雷で形成された刃が凄まじい速度で空を駆け、轟音を響かせながらディーへと向かって行った。ディーはそれを刃で受けようとするが、刃を通り過ぎてその風雷はディーの胴を断ち切った。
「鱗で受けるべきだったね。それか、魔力を籠めて斬るか」
ただ刃を立てて受けても、そこを風と雷は通り過ぎるだけだ。風雷の刃に形を合わせるように斬るか、竜の鱗を肉体に再現して受けるか、そのどちらかにするのが正解だっただろう。
だが、僕の記憶を引き継いでるせいか、人間の常識に身を委ねている部分があるので発想が追い付かなかったのだろう。
「さぁ、一人はノックアウトってことで良いかな」
「……性能、試験だ。良しと、しよう……」
実際はあそこから復活することも容易であろうディーだが、僕のお願いを受け入れて残った方のディーは刃を構えて僕に向かい合った。




