全知全能と再造の泥
次の日、僕は泥のゴーレムの本格的な製作に入っていた。一応、天界だ。裏世界の地球に行っても良かったんだけど、一先ずは自分の力でやってみたかった。アドバイスや知識は十分に受け取ったからね。
「こんなもの、かな」
僕の目の前に起き上がる、影のような生き物。黒く染まり切った泥は、僕をじっと見つめていた。
「どうかな? 気分は」
見た目が漆黒に堕ちた泥で無ければ、それは人間に見えただろう。何故なら、その泥のゴーレムは完全な人型をしているからだ。今は、目の前の僕を模倣して僕と同じ造形を取っている。しかし、泥のその体は如何なる姿にもその身を変えられるようになっている。
「色も何も、真似て良いよ」
「……」
泥のその身が、黒から僕の色に染まっていく。ベージュの肌に、黒い髪。目も黒く、地味でパッとしない顔が、同じ顔をした僕を見ている。
「……本当に僕だ」
分かってはいたけど、ここまで完璧に真似られると、ちょっとだけゾッとする。自分で作ったんだから、文句は言わないけどさ。
「こんにちは」
僕が声を掛けるも、その泥は声を上げなかった。
「えっと、あの……喋れるかな?」
「……ぁ」
何度か口をパクパクと動かした後、泥は喉の奥から絞るような声を上げた。
「大丈夫? もしかして、喉がカラカラとか……」
「あ、ああ。あ。あぁ、問題、ない」
「……大丈夫なん、だよね?」
泥には僕の持つ記憶を一部コピーして転写している。人の真似をして、それなりに人間らしい立ち振る舞いをする必要があるからだ。
「あ、ぁ。慣れた」
「う、うん。それなら良かったよ」
ヒトの体に慣れて来たのか、短く言葉を吐いた泥に僕は頷いた。
「でも、どうしようかな……名前も、考えないといけないよね」
「別に、何でも……構わ、ない」
何でも良いが一番困るっていうか……凄い、アレだね。まるで、人と話してるみたいだ。本当に。本質的にはAIなんかに近い筈だけど、やっぱり人の記憶を持ってるから人に近くなってるのかな?
「泥でも、黒でも、人擬きでも、好きにすれば良い、んじゃないか?」
うーん、それにしてはやっぱり、喋り方が僕に近くない感じもするんだよなぁ。少し喋り自体がぎこちないのは仕方ないにしろ、そもそもが僕っぽくないよね。まぁ、僕っぽくしようと思って作ったつもりも無いんだけどさ。
「ディー、とか……」
「泥の読み方か、ら取った、のか? 随分と安直、だな」
うん、そうだよね! やっぱり、安直だよね! もうちょっとちゃんと考えましょうか!
「どうしようかな……人の名前つけるのって、難しいなぁ」
「別に、ディー……で、構わない。元々、何の名前でも、どうでも良かった、からな」
「そ、そう? なんか、申し訳ない気持ちも湧いて来てるとこだけど……」
「良い」
まぁ、良いって言うなら良いよね……それに、魂も込めてる訳じゃないし、感情も無い筈だ。なんか、凄く不思議な感じだけどさ。
「じゃあ、ディー……その、性能試験とかしたいんだけど、どう?」
「構わ、ない」
「い、いやじゃない……よね?」
「嫌では、な……い」
大丈夫、なんだよね。なんか、言い方がぎこちなくて怖いけど。ていうか、僕と同じ声ではあるけど、発声の仕方が少し低いんだよね。お陰で、あんまり僕っぽくない。
「えと、その……僕の記憶を引き継いでるから分かると思うけど、実際に活動するときは僕の見た目使わないように、お願いね?」
「……どんな、姿が……望ましい?」
「ん、そうだね……普通に、人の見た目なら何でも」
「年齢は」
別にどのくらいでも良いんだけど、子供過ぎたり老人過ぎるとちょっと不自然かな。悪人を裁く断罪者ってテーマでやって貰うつもりではあるけど、歳を取り過ぎてるとアレだからね。
「まぁ、若めくらいじゃない? キビキビ動いても違和感ないくらいっていうか、そんな感じ」
「……随分と、曖昧だ、な。まぁ、良いが……」
そう言うと、ディーの姿がゆっくりと変化していく。肌が漆黒に染まり、泥のように融けて、形が歪み、変わっていく。
「……これで、良いか?」
僅かに流暢になったような声。その声質も変化し、少し低めの中性的な声となっていた。黒い短髪に鋭い目、見た目も同じく中性的であり、服装はさっきまでの僕を真似たものから変わって、黒塗りのローブのようなものを身に纏っている。フードの下から覗く漆黒の瞳は、僕の心の奥底までを見透かしているように深かった。
「うん、バッチリだ」
「そうか」
小さく頷いたディー。年齢は、僕よりは上というくらいか。どうにも人にしか見えない泥のゴーレムに、僕は悩ましく唸った。




