全知全能と彼方からのメッセージ
ルーシェが見つけた何体ものゴーレム。突然口を閉ざした彼女のその視線の先を確かめて、他の者達もそれに気付いた。
「蒼剣殿……アレは」
「いえ、私も知りません、が……」
先陣を切ってゴーレム達の方へと踏み出して行くのはルーシェ。鞘に収められた剣の柄に手を添えながらも、躊躇い無く近付いて行く。
「ッ!」
瞬間、地面が蠢いて立ち上がった。いや、砂埃が落ちていった後には、宙に浮かぶ不規則な土の線だけが残されていた。
「……これは」
ルーシェが目を細める。宙に浮かぶ土の線。良く見るまでも無く、それは、文字だった。
「【皆の為のゴーレムだから、好きに使ってね。メイジが居れば、操れると思うよ。素材を色々持って帰ってしまったことの、お詫びです。勝手にしちゃって、ごめんね】とのことですが」
「……オポッサム」
残していったメッセージを読んで、小さく呟いたルーシェ。
「ふむ。しかし……これで、証明されたか。オポッサムなる、異様極まりなきメイジがここに居たことが」
調査団のリーダーである虎の獣人が口にした。疑う気持ちを持っていたアシェームや、調査団の面々も、それを見ては頷くしか無かった。
「リガート隊長。それで、このメッセージについてですが……」
「まぁ、つまり島の民の為のゴーレムということであろうな。その性能は俺には正確に測れんが、手に入れようなどとは思うなよ。話に聞いた実力が本当であれば、その者の恨みを買えば寧ろ損しかせんぞ」
リガート隊長、そう呼ばれた虎の獣人が言うと、その指摘通りの甘い考えを抱いていた調査団の者は視線を逸らした。
「まぁまぁ、何よりも先ずは調べて見てからだろ。このゴーレムの性能も、実際に俺たちが使えるのかってのも調べて見なきゃ分からねぇ」
アシェームが言うとリガートは頷き、そして仲間達の方に振り返った。
「調べさせて貰っても構わんな?」
「勿論、それがアンタ達の仕事だってのは分かってますんでね。ただ、俺も手伝わせては貰ぇますよ」
そう言ってゴーレム達に近付いて行くアシェームに、ルーシェは後ろに退いた。調査団の者達の一部もゴーレム達を調べ始め、島の調査よりも先にゴーレムの調査が始まることになった。
そして、十秒と経たずに驚愕の声が上がることになった。
「なんだ、これは……接続が、こんなにも簡単に可能に……罠じゃ、ないよな?」
「ッ、オポッサムがそんなことを……」
愕然と声を上げたアシェームに、ルーシェが反論しようとするが……リガートが止めた。
「まぁ待て、罠の可能性が無いとは言えない。そのオポッサムなるメイジを信用するとしても、だ」
「……どういう意味ですか?」
「俺も今考えたんだがな、このゴーレム達を用意したのがオポッサムであると断言はできない。魔族どもが用意した罠であるって可能性もある訳だ。だから、実際にオポッサムに会った唯一の人物であるアンタに確認させてくれ。アレは、本当にオポッサムの作ったゴーレムか?」
リガートに尋ねられると、念の為にともう一度ゴーレムに近付いて、その巨大な岩のように見えるゴーレムに触れて確かめた。
「……えぇ、間違いありません。オポッサムの作ったゴーレムです。彼の気配を確かに感じますから」
「そうか。疑って悪かったな」
「いえ、私のことではありませんから……謝罪は不要です」
「ならば、確認して頂けて助かった。これで良かろう」
リガートの言葉に、ルーシェは小さく頷いた。
「まぁ、要はこれで殆ど安全ってことで良いんだな? 繋がっちまうからな、俺。一応、全員警戒しといてくれよ?」
ルーシェからのお墨付きを得たアシェームが、遂にそのゴーレムへと接続する。まるで、メモ通りに四桁のパスワードを打ち込むくらいに、いとも簡単に……繋がった。
「ッ、これは……マジ、か? そういう、ことか……? 有り得ない、いや、これは本当に……有り得ない、だろ……!?」
頭を抱えて呻き出し、そして目を見開いて叫びと、明らかに様子もおかしくなったアシェームに皆が警戒を強めるが、武器を構えようとしたリガートに、アシェームは止めるように手を伸ばした。
「待て、大丈夫だ。俺は大丈夫だ。ただ、少し混乱したってだけで……信じられないものを、頭の奥まで焼き付けられたってだけだ」
「それは、大丈夫なので……」
「大丈夫だって言ってんだろ。それより、ここを要塞化するぞ。アンタらも、この島には賭けた方が良い。それと、ゴーレムの術者なんてのが居れば呼んだ方が良いな。こいつらを学ばせてやるだけで、ちぃっとは人の犠牲ってのも減るもんだと思いますよ、俺はな」
大言壮語。そうとしか思えない言葉だが、アシェームの目はまるで冗談を言っているようには見えなかった。
「このゴーレムの軍隊は、想像以上だ」
アシェームの言葉に、皆は眉を顰めた。それは、僅か数体しか居ないように見えるそれらが、軍隊と形容されたからだ。




