全知全能と有用なるものは
青と黒の混じり合う神秘的な輝きの宿ったルーシェさん。星天の加護の効果を受けたその身体は、中心に近い部分から空と宇宙が混ざり合ったような美しい光に透けていた。
「すっごいなぁ……」
僕の炎の鎖の影響で更に動きに磨きがかかったのか、さっきよりも幾分か速いような気がするくらいの速度でルーシェさんは敵を殲滅していく。その殲滅速度は、強化されたレプリ達が敵を倒す速度を超えていた。全く以って、単身の戦闘能力とは思えない。
「……もう、終わっちゃった」
三分と経たずに、敵の軍勢は殆ど壊滅していた。後はレプリ達がしらみつぶしに見つけ出して倒してくれることだろう。魔族は何人かゲートを通って逃げていたので、恐らくはもう残っていないだろうね。
「凄い……なぁ」
小学生並みの感想しか、僕は吐けなかった。確かに強力な魔物の素材を望んだ僕であったが、こんなことになるとは思っていない。だが、全知全能がこの場所を選んだお陰でルーシェさんが死ななかったんなら喜ばしいことである。
実際、ルーシェさんは人類の中でも相当に強い……冒険者の中でも最上位の称号を得ているだけあって、化け物クラスの強さを誇っていた。二十魔将がなんぼのもんか僕は知らないけれど、魔王軍で上から三十番以内に入るような実力者と言うならば相当のものだろう。
そんな相手に、正面から……しかも不利な状況で戦えていたし、タイマンだったら勝ちそうなくらいだったんだから、人類の中ではずば抜けた強さを誇っていることは間違いないだろう。
「……本当に、助けられてよかったなぁ」
強さで命の貴賤を図るようなことをしている訳じゃないが、ルーシェさんが生き残ることはそのまま沢山の人間が救われることに繋がるだろう。そんな人を、ここで救えたのは……ちょっと強引なやり方でも、やっぱり良かったと思う。
「オポッサム、終わりましたよ」
「あ、うん。大丈夫?」
僕が黄金色の炎の鎖をもたげて言うと、ルーシェさんは首を振った。
「いえ、特に傷は負っておりません……それに、この状態であれば多少の傷など一瞬にして完治してしまう筈ですから」
「ま、それもそうか……」
星天の加護の効果はかなりヤバい。生物としての格が三段階くらい上がる感じである。当然、治癒能力も爆上がりしており、並大抵の怪我ならば一瞬で治してしまうのだ。
そんなバフを受けていた僕を相手に余裕で勝ちを得たイシは、やはりというか規格外だ。
「……それで、です」
「ん? どうしたの?」
改まった感じで言ってきたルーシェさん。大体察しは付いているが、何を言って来るんだろうか。
「貴方は、一体何者なのですか。ハッキリ言って、貴方のようなメイジは聞いたこともありません」
そっちか。
「まぁ、この通り正体は隠させて貰ってるからね」
「……オポッサムも偽名、ということですか?」
「うん、そうだね」
「そう、ですか……」
何故か残念そうに俯いたルーシェさん。そんなに愛着でもあったかな。
「正体を伏せているというのは、分かりました。そうなれば、この提案も受けて貰えないと思いますが……」
「うん」
「私と、パーティを組んで頂けませんか?」
あ、そっちも来たか。パーティを組むとまで言われるとは思わなかったけど、手を貸して欲しいくらいは言われるだろうと予想してはいた。
「残念だけど、出来ないね」
「……やはり、そうですか」
素性を隠した謎のメイジ、そんな相手をパーティに誘ったところで受けて貰える訳も無いというのは分かっていたのだろう。ルーシェさんは少し残念そうにはしていたが、僕の答えを予想していたのかあっさりと頷いた。
「でも、僕から……少しだけ、応援させて貰うよ」
「応援、ですか?」
僕は頷き、そして懐からソレを取り出した。とは言っても、今作り出したものなんだけど。
「はいこれ、どうぞ」
「……首飾り、ですか?」
大した魔力も感じないであろうそれに、ルーシェさんは怪訝そうに首を傾げた。
「あ、別にそういう贈り物じゃないよ。ただ、君の冒険を手助けしてくれるアイテムだと思ってくれたら良いよ」
「手助けしてくれるもの、ですか」
指輪の方が小さくて嵩張らないとは思ったけど、首飾りの方が戦闘中に邪魔にならないかなと思ったからだ。指輪は剣を握る職業だと、ちょっと邪魔そうかなって。
「うん。簡単に言うと、精神攻撃とかをブロックしてくれるのと、敵の魔力攻撃をある程度吸収してくれるのと、後はルーシェさんの命が危ない時に守ってくれるんだ」
「なるほど、魔道具であるとは分かりましたが……かなり優秀な類のものの様ですね」
レティシアにちょっと怒られた反省を踏まえて、絶対に壊れない特性は付けていない。ただ、めっちゃくちゃ硬くはあるから、多分大丈夫だろう。それに、レティシアの矢とは違ってちゃんとした魔術的な機構を元に動いている。ただ、流石にそれを作ったのは僕では無く全知全能だ。僕に、そこまでの魔道具製作知識は備わってない。
「ですが……こんな高価なもの、よろしいのですか?」
「あぁ、うん。全然構わないよ。君の……役に立つもの、だと思うし」
君の為に作った、なんて言ったら意味分からないからね。それに、ルーシェさんの役に立つことは間違いない筈だ。ルーシェさんの弱点は、どちらかと言えば搦め手の筈だから。そこら辺を対策したこの首飾りは、きっと有用だろう。
「それじゃあ……頑張ってね」
「……行くのですか?」
僅かに不安げな問いに、僕はこくりと頷いた。
「分かりました。また、いつか会えることを……心より、願っています」
「そうだね。いつかまた、会うと思うよ」
きっと、ね。僕は手を振って、煙のようにそこから消え去った。……あ、素材回収するの忘れてた。




