全知全能とコスモパワー
その時、ルーシェの体に宙より光が降りて来た。それは雫の如く、その体に馴染むと、一瞬にして全身へと駆け巡った。
「な、ッ……ぁ?」
初めに声を上げたのは、ルーシェ自身だった。体の内で起きているのは、明らかなる異常。だが、それは不快であるどころか、寧ろ心地よく……宇宙が自分と一体化でもしたような全能感が込み上げて来ていた。
「……これ、は」
強化魔術だ。と、今更になってルーシェは気付いた。目の前で焦燥と驚愕の混じったような表情を浮かべて、黒い瘴魔の爪を突き出して来るバルティカーの、その動きの緩慢さに。
「オポッサム」
ルーシェはその黒い爪を弾き、そして地表からこちらを見上げている仮面のメイジを見下ろした。
「貴方は、何者なのですか?」
目を見開くバルティカー。その首を、誰に妨害されるよりも速くルーシェは刎ね飛ばしていた。
「な、ッ、馬鹿、な……っ」
「私も、未だに信じられてなどいませんよ」
失意すら抱けずに命を失ったバルティカーにルーシェは僅かだけの同情を浮かべながらも、必死になって自分に襲い掛かって来ている残りの魔族と魔物達に視線を向けた。
どうやら、バルティカーの口にしていた軍勢の真の力というのは嘘でも無かったらしい。
「竜に、巨人に……一体、魔大陸にはどれだけの戦力が居るのでしょうね」
だが、今更それに怯むようなルーシェではない。寧ろ、今は尚更である。
「ここで相手の戦力の僅かでも削げるのであれば、それで僥倖ですが」
ルーシェが刃を振るった。放たれた蒼い魔気の刃が、ゲートより現れた百メートルを超える巨人の胴体からを真っ二つに切り裂いた。次いでに、その奥に飛んでいた中型の竜までも散らして。
「……ん」
ルーシェはここで覚えた気配の一つが近付いているのに僅かに視線を向けた。そこには、左右に炎の鎖を携えた仮面にローブの怪し気な男の姿があった。
「ルーシェさんッ! 有り得ないくらい強いねッ!?」
「……オポッサム。貴方には、後で話したいことが山ほどあります」
ルーシェはそう言って、一息を吐いた。
「ですが、この場では一先ず感謝を。本当に助かりました、ありがとうございます」
「ルーシェさん、まだ終わってないよ?」
「そうでしたね。私としたことが……少し、力を得て浮ついてしまいました」
「あはは、そりゃ仕方ないよ」
そう言いながらも、オポッサムは……治は、僅かに戦慄していた。星天の加護、宇宙の力を僅かに借り受けるその魔術は、治に使ってもバルティカーに接近戦で勝ち得る程の魔術だ。
それをルーシェに使えば、治の比ではない能力になることは察していたが……それにしても、ここまでになるとは治も予想出来ていなかった。
「……今ならば、あの月も斬ってしまえるかも知れませんね」
「ルーシェさん、早速浮ついてない?」
「っ、失礼しました」
「それに、月も宇宙の一部だから一応は力の一部っていうか、恩を仇で返すみたいな感じっていうか……あ、もう行っちゃった」
どこに消えたかと治がルーシェを目で追えば、そこかしこで蒼い爆発が巻き起こっていて、ルーシェの姿を捉えること自体は超感覚によって強化された治にすら難しかった。
「今ならば、今ならば……」
ルーシェは尋常ならざる力で跳びながら、斬りながら、譫言のように呟いた。
「魔大陸も、魔族も、魔王も……ワタシが、真の勇者すら超えられる」
振るわれた刃は、巨大な黒緑色の竜を切り裂いた。最初の黒龍よりも数倍上の力を持っていた筈のその竜すらも、今のルーシェの前には一太刀で十分であった。
「今ならば、あぁ……きっと、今ならば」
繰り返し、繰り返し、そして霞んだ視界を黄金色の炎が横切った。
「…………」
足を止めたルーシェは、その炎が、巨大な黄金色の鎖が山のような怪物を貫いているのをボーっと眺めていた。
「あれ、ルーシェさん? 大丈夫――――」
気付けば、ルーシェはその手を黄金色の炎に伸ばしていた。驚いて声も呑み込んだ治だったが、咄嗟にその炎の標的をルーシェから意識的に逸らすことで……いや、その炎は元より燃やすべきものだけを燃やす炎であった為に、ルーシェの手は、体は燃えることも無く黄金色の炎に包まれていった。
「あ、えっと? 確かに、一応回復機能とかはあるんだけど、それに気付いてとか……?」
未だに困惑を浮かべる治を前に、ルーシェは黄金色の炎の中で漸く目を覚まし、我に返って跳び退いた。
「申し訳ございません。何だか、とても暖かそうで……つい」
「つい、じゃないけど!? 炎ってのは大体危ないんだよ……?」
「でも、大丈夫な炎でしたので」
「……あんまり無いよぉ、世の中に大丈夫な炎って」
圧倒的な正の波動を持つ炎。黄金色のそれは、確かにルーシェへとそのエネルギーを分け与えることで活力を取り戻させ、そして不浄なるものを燃やし尽くした。




