全知全能と黒と蒼
黒い魔力が稲妻となって空を割る。雲は淀んで崩れていき、月の下でバルティカーは邪悪に笑っている。
「アハハハッ!! 最高だ、僕の力でもここまで強くなれたことは初めてかも知れないよォ!!」
怪物だ。アレこそ、人類の敵だ。人間の本能が、アレは敵だと叫び続けている。
「さァ、ヒトを滅ぼしてしまおうか……このまま、全ての命を吸い尽くして大陸まで飛べば、強化を維持し続けられるかも知れないしさァ!?」
「そうは、させません……!」
バルティカーから伸びる翼も爪も尾も、瘴魔に覆われて巨大化し、溢れ出す魔力はさっきまでの十倍以上だ。それでも立ち向かおうとするルーシェさんだが、流石に彼女と言えど……
「……こうなれば」
そう考えた僕の思考を超えて来るように、ルーシェさんから魔気が溢れ出していた。蒼く輝くような魔力が、暗く淀んだ夜を照らしていくように。
「『蒼魔回路、超過起動』」
更に、その蒼い光が一際強く輝いたかと思えば、ルーシェさんはバルティカーへとその刃を突き立てていた。
「アハッ、あっははっ!」
しかし、バルティカーの胸には黒い穴が開いていて、そこを刃が貫いていただけであった。バルティカーは哄笑すると、後ろに跳んで無傷の体に戻り、そしてルーシェさんを見下ろした。
「漸く、本気を出してくれたみたいで……何よりだよ」
「……」
「だって、そうじゃなきゃ意味がない。本気のキミを殺せてやっと……僕は、六魔臣に手をかけることが出来るんだからさァ!」
「そうですか」
小さく呟いたルーシェさんの姿が、僅かにブレた。かと思えば、バルティカー以外の魔族達が一人残らず切り裂かれていた。目を見開き、空から落ちて行く魔族達を見てもバルティカーはその笑みを消すことはない。
「さぁて、いよいよ出し惜しみは無しにしようか……無駄な木っ端も散っていったところで、そろそろ僕の軍勢の真の力を見せて上げるよ」
愉快気に喋るバルティカーへと、ルーシェさんは躊躇いなく斬りかかった。しかし、バルティカーはその爪でルーシェさんの刃を受け止めて……眉を顰める。
「……思った以上、だよ。あァ、一対一なら負けるかも知れないや。クソッ」
「是非、そのまま死んで下さい」
黒魔の爪を押し弾いたルーシェさんは、体勢を崩すバルティカーへと刃を走らせる……が、バルティカーの姿が忽然と消え去った。
「そう簡単に死んでやるわけないだろう? 僕は魔人の中でも優秀な……メイジでもあるんだからさァ」
そう口にしたバルティカーの背後、巨大な黒い渦が開く。それを見たルーシェさんが、剣を構えてその渦を切り裂こうと動くが……バルティカーの黒い爪が、それを受け止めている。
「その力、厄介だなァ……僕と打ち合えば、普通はただじゃ済まないのにねェ」
「……今度は、小手調べの戦力では無いようですね」
黒い爪から滲み出す瘴魔を、ルーシェさんの蒼い魔気が受け止めている。その間に、開いてしまった黒いゲートから飛び出してきたのは、何人かの魔族……そして、巨大な翼を広げた黒緑色の竜だった。
「ッ!」
「二十魔将だけに、強い魔族が居るという訳ではない」
そして、その竜に目を取られていた内に、魔族の一人が距離を詰めてその手に持った剣をルーシェさんに振るっていた。自身の剣によってそれを防いだルーシェさんだが、その刃を簡単に弾けないことに歯噛みした。敵は、バルティカーだけではない。
「……どうしようか」
ルーシェさんの覚醒を見て、このまま勝ち切れるんじゃないかとも思った僕だが、どうやら戦況はやや不利と言ったところであった。多勢に無勢、というには数では勝り過ぎているこちらだが、あの空での戦いに介入できるレプリというのはまだ開発できていなかった。これは、レプリの大きな弱点だろう。
「そんなことより、助けないと……」
とは言え、炎の鎖は敵を拘束する能力がとても低い。出来ることと言えば、脅しと燃やしだけである。あとは、癒しも出来るけど今は必要じゃない。それに、それでこっちが注意を引けば僕を守ろうとして寧ろルーシェさんが不利を背負う可能性もある。
「まさか、味方の死を利用するなんて」
瘴気のような何かを利用して、自己強化を図ったバルティカー。黒魔の名に相応しい、恐ろしい強化方法だった。
……いや、そうだ。強化が出来るのは向こうだけじゃない。ルーシェさんが強すぎて、逆に頭に浮かばなかったけれど。
「『星よ、空よ。誰もが祈る光の狭間よ』」
「『星よ、天よ。誰もが跪く闇の狭間よ』」
「『星よ、宙よ。誰もが生ずる混沌の狭間よ』」
三重詠唱。目を瞑って集中状態に入った僕は、三つの言葉を声送りによって同時に唱え始めた。
「くッ、数が……!」
「僕以外は大したことも無いと思ってたかなァ? 一対一に限れば優秀な奴は意外と居るんだよねェ」
「意外ととは失礼なことだな、黒魔の」
「アハハ、もう直ぐ六魔臣になる僕なんだ。寧ろ光栄に思って欲しいくらいだねェ」
「ふッ!!」
「ぐぁァッ!!?」
「これで、先ずは一人……!」
「アッハハ、やるねェ! だけど、追加はまだ居るよォ?」
良し、出来た。
「『星天の加護』」
星空の彼方から、宇宙の力を降ろした。




