全知全能と強化されたレプリ
戦場を覆い尽くしていたのは、数千万にものぼる数のゴーレムだった。単体では強力な魔物に勝つことが難しい彼らだが、数体で合体することにより機能を向上させて戦うことが可能だった。
その結果、戦場には合体によって強化されたゴーレム……レプリ達が無数に跋扈し、ある程度の強さを持つ魔物とも戦うことが出来ていた。
「グガァァァアアアアッ!!」
「コココココォ……!」
だが、それでも強力な魔物を倒すことは出来ない。例えば、圧倒的な再生能力を持つリジリエントハイオーガ。例えば、闇に染まった強固な鱗を持つ大蛇のダークスケイルスネーク。
彼らには、戦闘用の合体個体であるパワーの殴打も、強者を討伐することに特化しているスレイヤーの斬撃でも殺すことは出来ず、レプリ達の圧倒的な数を以ってもただ抑え込むのみに留まっていた。
「……」
「……」
「……」
だが、雌伏の時は終わりを告げた。唐突に、突然に、レプリ達の間に繋がるネットワークのようなものの中を一つの術が駆け抜けていったのだ。伝播するように、次々とレプリ達にそれは到達していき、そして効果を発揮した。
「グ、ガ……ァ?」
リジリエントハイオーガ。丸太のように太い首が、スレイヤーの刃によって一太刀の下に断ち切られた。ごとりと地面に落ちた首を、周りの魔物達が戦慄したように見た。
「……」
だが、それでもリジリエントハイオーガの命は消えていない。ぶくぶくと泡立つような勢いで再生する首に、スレイヤーは再びその太刀の如き刃を振り下ろして……オーガの肉体は、真っ二つに断ち切られた。中の骨も、筋肉も、脂肪も何もかも関係ないと言わんばかりに。
「ギ、ギェェエエエエッ!!」
「ガギャッ、ガギャァッ!!」
周りの魔物達は驚き、恐怖し、逃げ出そうとするか或いは飛び掛かっていく。だが、スレイヤーは……いや、レプリ達は彼らを容易く捻じ伏せ、逃げる背を貫き、叩きのめしていく。
「ギャォアァアアアアアア!?」
「ピェィァアアアアアッ!!?」
「ガルルルル……ッ!」
急激な性能の向上。魔術による超強化。それにはからくりがあった。レプリ達とは、そもそも根本が同一の存在である。故に、効果の対象をレプリ専用に絞ることで術式を最適化し、またレプリのネットワークを利用することによって術式を全体に共有することを可能としていた。
「グギャアアアアアアアッッ!!」
そして、それだけではない。治の詠唱した術式は飽くまで起動の為のものであり、実際に稼働し続ける為の魔力はそれぞれレプリが収集した魔力を利用している。また、レプリの強化はブレインを利用して必要な個体に必要な分だけ発動するようになっている。
「……」
それらの魔力の動きを支えるのは、タンクと呼ばれる専用の合体形態だ。地下に潜伏しながら深くまで根を張って魔力を収集し、また膨大な魔力を蓄えながらも高い魔力隠蔽能力を持つ。術式はそのタンクから魔力を回収してネットワークを利用することで必要な個体に強化を施している。
「グギャアアアアアアアッ!!?」
「ッゴギャアアアッッ!!?」
強化されたレプリがゴブリンを次々と倒して行き、暗い色の鱗を纏った大蛇をその硬い鱗ごとパワーが握り潰した。
「……ふん、地上が押されているから一応行ってこいとは言われたが」
そこに、筋肉質な老人の魔族が現れて、ゴーレム達を見下ろした。両手から魔力を滲ませて、目の前のレプリへと手を伸ばす。
「死ね」
ぶちり、と抵抗も出来ずレプリが……強化されていないレプリが胴体を真っ二つに千切られた。
「やはり取るにも足らん。つまらん児戯だな」
男の魔族は腕を振るい、レプリを数体纏めて打ち砕き、そして目の前の一際大きなゴーレム……パワーの腹を貫こうと腕を突き出した。
「な、ぁ……?」
パワーは、魔族の腕を包み込むようにして受け止めていた。引き戻そうとしても、どういう訳か相手の力の方が勝っている。思わず見上げると、そこには先程までとは比べ物にならない魔力を内包する怪物が居た。
「馬鹿な、いつそんな魔力を……どうやった、のだ……? それに、如何ような術でその力を……ッ!!」
腕を掴まれたまま呆然と考え込んでいた魔族だったが、ぐちゅりとその腕が握り潰されようとするのに我を取り戻し、咄嗟に魔力を腕へと集中させて耐えた。
「『石の如き肉体』」
更に、自身の肉体を凄まじく硬化させることでパワーの握り潰しに耐え、そして片腕は掴まれたまま反対の腕をパワーの胴体へと振り抜き……その腕が、斬り落とされた。
「な、にが……」
振り向く視界に見えたのは、土の腕に肉付いた黒曜石のような黒い刃であった。咄嗟に魔力の何割かを障壁に変えて展開することでその一撃を防いだ、が……
「ぬぁはッ!?」
その役目を終えて、障壁はたったの一撃で砕け散ってしまった。黒い刃を持つ土のゴーレム……スレイヤーを見上げた老人の魔族は、恐怖に表情を痙攣させると、背を向けて逃げ出した。
「は、はぁッ、はぁ……ッ! あ、有り得ん! 有り得んぞあんなものは……ッ!」
言い訳がましく、何度も小さく呟き続けた魔族は、空を飛んで遠くまで離れたところで漸く息を吐き出した。
「この儂、が……ゴーレムから、に、逃げた、だと……?」
崇高な魔族である筈の自分が、誇り高きこの星の頂点である筈の自分たちが、ゴーレム等という土の傀儡なんかから逃げ出した。魂も無い、誇りも技も力も無い筈の、下らない存在を相手に、敗走した。
「……く、ッ……ッ!!」
歯を食いしばり、だが戻って戦いに行く勇気も無く、かと言って今更この空から魔術を撃ちおろすような真似をすることも惨めが過ぎて出来なかった。結局、老人の魔族は術者である魔力の少ない男のメイジを探すことで無聊を慰めていた。




