全知全能と大軍勢
空から戦場を見下ろし、僕はすらりと手を伸ばした。そこに、両手が翼となった鳥のような魔物が襲い掛かって来る。
「ハーピィ、とか言う奴だっけ……!」
「クケェエエエエエエッッ!!!」
人型だけど、不思議と人間っぽくは見えないのはなぜだろうか。魔族は人に見えるのに、ハーピィは魔物らしく見えている。知能の違い、だろうか?
「よ、っと!」
ハーピィの翼から無数の赤茶けた羽根が飛んでくるのを僕は避けて、すっとその首筋に触れた。
「さ、お帰り願おうかな」
僕が口にすると同時に、ハーピィの姿がその場から忽然と消え去った。魔大陸に帰したのだ。一応、生まれ育った故郷に転移するようにしているが、そこが既に生息不可の環境になっていたとかだと……もう、そこまでは責任を取れない。僕を襲ったんだから、そうなっていたら諦めて欲しい。
「……多いなぁ」
気付けば、既に僕はハーピィに囲まれていた。その数は、三十体程は居るだろうか。これから僕は、全方位から羽根を飛ばされるんだろう。
「うん……しょうがないね」
僕はぱちりと手を叩き、彼女らを転移させた。僕はここに至っても……いや、ここだからこそ人を殺す気はない。今の僕はオポッサムであって、治では無い。この力を隠す必要性も特に無い。
「どうやって消した? 我が配下共を……」
「魔力の気配などは感じなかったがな。如何なる術を使った?」
「見たところはしょうもない坊やにしか見えないのだけどねぇ……」
そして、彼女らを撥ね退けた僕らを次に囲んだのは……当然と言うか、魔族達であった。ていうか、しょうもない坊や言うなや。
「言っとくけど、君らは吹き飛ばすだけでは済ませないからね」
「ふん、随分と舐めた口を利くな。しかし、それを言うならば貴様は……死ぬだけでは済まさんぞ?」
おぉ、怖い怖い。少し見慣れて来たからか、それとも溢れ出る小物感を受けてか、僕はそこまで恐怖を抱いていなかった。それか、さっき全知全能の力を使ったことで全能感に溢れてるのかも知れないけど。
「やってみれば、良いじゃん?」
「ッ!! 貴様ァ!!」
叫んだ魔族の一体、高級そうな服に身を包んだ白髪に白髭の男が手を伸ばした。そこに魔法陣が一瞬にして走り、紫色の電撃が僕を襲った。
「危ないなぁ……」
超感覚によって、そして暗影纏いによって性能が向上した感覚機能と情報処理によって魔法陣を読み取った僕は電撃が来ることを事前に察知し、予め回避行動を取ることが可能であった。
「……でも、確かにこれなら」
ウィーが言っていた。超感覚を全兵士が使えるようになれば、きっと魔王軍にも勝てる筈である、と。
確かに、戦ってみて分かったが、ウィーやアシラがこの魔術を使えればそこらの魔族には勝ちを拾い得るだろう。
「妙な魔術を使っているわねぇ……全部、剥ぎ取ってあげるわぁ」
胸の大きなお姉さんの魔族が蝙蝠のような羽をはためかせながら手を伸ばすと、そこに小さな魔法陣が開いて……
「ッ!」
アレは不味い。僕は女の魔族に距離を詰めて、魔力を籠めた指先で魔法陣を切り裂いた。効果を失って崩れ去る魔法陣だったが、そこに槍を持った鱗の魔族が襲い掛かって来た。
「リザード、マン……?」
「死ねェッ! ニンゲンッ!!」
いや、彼は魔族なのだろうか。リザードマンとでも呼べるような、鱗を纏った蜥蜴人間のような魔物、若しくは魔族だった。
「君って、魔族?」
「アタリマエだろうがッ!! 誇り高き魔族の戦士を馬鹿にしたかッ!!?」
やっぱり、魔族なんだ。魔族って結構、多種多様に居るんだね。羽が生えて角が生えて、尻尾があってそれで魔族くらいに思ってたけど。
「ただ……」
彼らの相手をこのまましていても仕方ないし、先に僕がやろうとしていたことからやろう。
「という訳で、じゃあね」
「逃がすか、馬鹿めッ!」
僕を囲むように青い結界が生まれるが、僕はそんなものに関わらず転移によって地面に降り立った。そして、即座にその気配を隠匿する。暗影纏いの力もあって気配遮断に関してはかなりの利がある。
「さて、と……」
争い合う魔物達とレプリ達。合体形態である、戦闘力特化のパワーが多く見受けられ、そして偶に魔力に満ち溢れた長身にして細身のレプリであるスレイヤーが見られる。スレイヤーは前回の経験を経て合体形態に新しく登録された、継続的な活動能力の低さを代償に高い討伐能力を持った存在である。
詳しく言えば、防御力はパワーに若干だけ劣りつつも速度と攻撃力だけはパワーの五倍の性能を誇っている合体形態だ。片腕は刃と化していて、魔力を纏って好きなだけ敵を切り裂いていく。
「『空に根差し、枝は広がり、大地の傀儡』」
これは、元々ある魔術を僕が全知全能の力を僅かに借りつつも改良した魔術だ。
「『吹き抜ける風は虚ろの炎を黄金に燃やし、枝の果てまで輝きを灯す』」
ハッキリ言って、僕以外の魔術士に使える魔術では無い。というか、使う機会のあるような魔術では無い。
「『見えざる脈を束ね、一つの力の下に息吹を与えんとす』」
何故ならば、これはゴーレムの為の魔術だからだ。いや、もっと言えばレプリの為の魔術として僕が改良した。いつかは、これをレプリの機能の一部として盛り込む為に。
「『群根励起』」
風が吹き抜けていったかのように、レプリ達のネットワークの中にその魔術が浸透していった。




