全知全能と突然の心配
結局、ラーメンを食べてから別れた僕は家に帰り、色々と家族に事情を説明することになった。当たり前ながら滅茶苦茶心配されてしまった僕だったが、何とか誤魔化し誤魔化し頑張って部屋の中まで逃げ込んだのだった。
「ふぅ……これで、漸く」
「お兄ちゃん、入っていい?」
「ぃひぅ!?」
にやりと笑みを浮かべて異世界へと旅立とうとしていた僕に、扉を叩いた妹の声がかかる。思わず飛び上がり、呼吸を乱してしまった僕だったが、何とか冷静さを取り戻して扉を開いた。
「あ、あはっ、何かな……?」
「なんでそんなに挙動不審……? いや、それは良いんだけど、その……ちょっとだけ、話を聞きたくって」
「話って、さっきの?」
「そう。その、不良に襲われたとかって……」
僕は頷き、ベッドにどさっと座り込み、椅子の方を顎で示した。
「それがどうしたの?」
「いや、その……ちょっと、気になって」
「……うん、気になるって?」
何故か椅子では無く僕の隣に座り込んで来た柚乃に、僕は突っ込むか迷いながらも取り敢えず聞き返した。
「もしかしたら、私のせいで……その、襲われたり、したんじゃないかなって」
「へ? いや、全然関係無いけど?」
「……本当に?」
「本当だお」
ふざけて答えると、柚乃はじとっと睨むように見て来た。
「真面目に話してるんだけど?」
「あ、あはっ、分かってるって……うん、ホントだよ。別にアレはただの不良で、前に色々あった件とは何にも関係ないよ」
「……うそじゃ、ないよね?」
「うん」
僕は平然とした顔で頷いた。実際、柚乃を含んだアレコレでってよりも、管理局側の手の筈だ。だから、柚乃のせいって訳では全然ない。魔術を扱っていた以上、柚乃が攫われるって事件が発生しなくてもこういうことになるのは遅かれ早かれ起こっていてもおかしく無かった訳だし。
「……それなら良かった、とはならないけど。でも、ちょっと安心したかも」
「それなら良かった。ほら、お部屋におかえりなさい」
「なんか、露骨に追い出そうとしてない……?」
「してないよ。ほら、ゲームしたいなってだけ」
僕が言うと、柚乃はむすっと睨んで来た。
「それ、やっぱり追い出そうとしてんじゃん」
「してないってば」
「してるじゃん」
「してないてば」
言い合い、暫く沈黙が下りると……柚乃はふっと笑い出した。それに、僕も同じタイミングで笑ってしまっていた。
「もう……でも、思ってたくらい危ないことじゃなくて良かったよ。けど、気を付けてね? もしかしたら、その……今度は、お兄ちゃんがああいう目に遭うこともあるかもだから」
「あはは、僕みたいな一般人に興味ないって。誰も」
「興味とかじゃないから、知られた以上消さずには居られん……みたいな人も居るかもじゃんか!」
渋い声を作って言ってきた柚乃に、僕はにやっと笑いながら頷いた。
「確かに、それはそうかもね」
「でしょ」
「でも、それは柚乃だって同じことじゃん。柚乃もそんなに気を付けてるって訳じゃないでしょ?」
「ぅ……まぁ、それはそうかもだけど」
この前も誘拐されそうになってたし……いや、アレは完全に僕のせいって感じなんだけど。
「安心して……とは、別に言い切れないけどさ。でも、そんな僕だけ特別危険なことになったりはしないって」
「うん……」
「そういう訳だから、ね」
僕が言うと、柚乃はまた目を細めて僕を見た。
「やっぱり、追い出そうとしてるー……仕方なく、追い出されてあげるけど」
「あ、あはは、ゲームの約束があってさ……」
そういうことにしておこう。うん。正直、ちょっとゴーレム作りに手をつけたくて落ち着かない感じなんだ。異世界の素材から裏世界の技術までふんだんに使った、自重しないゴーレム……最終的にどんな出来栄えになるのか、楽しみなのである。
けど、心配してくれた柚乃にはちょっと申し訳ないね。
「心配してくれてありがとね。でも、全然僕は大丈夫だから」
「別に、兄貴を心配したっていうか、私のせいじゃないかって思っただけだけど……」
ツンデレかな? と言いそうになったけど、流石に怒られそうなので口を噤んでおくことにした。
「……じゃ」
「うん、じゃあ」
軽く手を上げると、柚乃はベッドから立ち上がり、扉を開けて外に出た。
「ゲームだけじゃなくて、勉強もしなさいよ」
「お母さんみたいなこと言わないで……」
にやりと柚乃は笑うと、扉をバタッと閉めて自分の部屋に戻って行った。




