全知全能とラーメン屋
疑念。違和感の集まって生まれたそれは、確かにただの偶然で済ませるには難しいものがあった。けれど、ここから先を話すということは……つまり、善斗をこちらの世界に引きずり込むことになりかねない訳だ。
「……確かに、善斗の言ってることはもっともだよ」
「つまり、何かそれだけじゃない事情があるってことだな?」
「うん。まぁ、そういうことになるね」
やっぱりそうか、と善斗は小さく呟いた。
「じゃあ、それを教えてくれ」
「……それは、出来ないよ」
「どうしてだ?」
「僕が話すことで、善斗に危険が及ぶ可能性がある」
善斗は僕の言葉に眉を顰め、頷いた。
「そうか。それなら問題無い。話してくれ」
「問題あるってば!」
僕はちょっと大きい声を出してしまったことに咳払いを一つ入れて、監視の目が無いかを確かめた。どうやら、店の外に一人居るみたいだ。だけど、会話までは聞いていないらしい。僕は念の為に魔術は使わずに全知全能の力によって話が周りに漏れないように細工し、善斗に向き合った。
「……それに、危険が及ぶ可能性があるのは善斗だけじゃない。善斗の周りの人……家族なんかにも、火の粉が降りかかるかも知れないんだ」
「ッ、それは……」
「そこまでは僕も手を伸ばせない。だから、君に話せるのは君には話せないってことまでだ」
「……そう、か」
善斗は深い息を吐き、最後の餃子を口の中に放り込んだ。
「どうしてくれるんだよ。不味くなったぞ」
「聞いて来たのはそっちだし」
僕はそう言って笑い、同じように餃子を食べてみた。味は、確かにちょっとしなかった気がする。気のせいかもだけど。
「……まぁ、僕にも色々あるんだよ。今はちょっと話せないけど、もしかしたらいつか話せるかも知れないから」
大人になって、オジサンになって、おじいさんになって、その時までも話していないなんて想像できない。だから、きっと僕はいつか善斗に話す筈だ。それまでも、ずっと友達かどうかなんて分からないけど。でも、きっとそうだろう。
「今はそういうことで、納得しといておこう。けど、いつまでもそれで誤魔化されてやるかは分からないからな?」
「あは、そうだね。うん、覚悟しておくよ」
「それに、お前が死ぬような目に遭ってなんか居たら……俺は、必ずお前を助けようとする。それだけは、言っとくぞ」
「……死ぬような目になんか、遭わないよ。僕はこれでも結構やれる方なんだ」
僕が言うと、善斗はふっと笑った。
「そうかよ。なら、そんな目には遭わないように気を付けろよ。もし、俺がお前を助けた時はお前が上手くやれよ。そっちの事情は何も知らないからな」
「大丈夫だよ。そんな心配は無いから」
そうか、と善斗は一息吐いた。
「治、もしかしてお前は強かったりするか?」
「僕の身体能力に関する話をしてるんなら、君の想像した範疇から大きく外れてないと思うよ」
「だが、不良に襲われても跳ね返せるくらいの何かがあるんだろう?」
「そうだね……強さって言っても、色々あるからなぁ」
善斗がどんなものを想像しているのか知らないが、想像出来ても僕が凄く強い武術の達人だったりするのか、若しくは傭兵みたく誰かをボディガードに連れ回してるくらいだろう。まさか、僕が魔術とかを使えたり……あまつさえ、全知全能の力を扱えるだなんて想像する余地もない。
「詳しく話し過ぎると、隠したいことまで話してるのと変わらなくなりそうだし……この話は、こんくらいにしとこうか」
「ふむ……」
考え込む善斗。しかし、答えが出たのか出ていないのか、少なくともその思考に区切りをつけたように頷いた。
「分かった。この件について詮索することはしないでおく。だが、あまり心配はかけるなよ? 何回も言っちゃってるが」
「うん、分かってるよ。大丈夫、僕は全然大丈夫だ」
「ま、それが嘘にならないことだけを願っておこうか」
善斗はそう言うと、箸をラーメンに伸ばして、ずずっと啜った。
「そういえばさ、善斗も強かったよね。強いで言えばさ」
「……露骨に話題を俺に変えたな」
風向きを自分に向けられたことに気付いた善斗はラーメンを箸で挟んだまま眉を顰めた。
「だって、あんな不良四人も相手に大立ち回りでバッタバッタってさ」
「まぁ、弱者を囲んで殴ることしかしてこなかったような奴らだったんだろう。まともな殴り方も知らない奴らにちゃんと鍛錬も積んでる俺が負ける訳もない」
「いや、そうは言っても四対一だよ……?」
「アレは四対一じゃなかった。俺だって、よーいドンで四人から一斉に襲われてたらどうなってたか分からない」
善斗の言葉に、僕は首を傾げた。
「どういうこと?」
「俺が介入した時には既に呼吸が乱れていた。息は全くあってないし、一対一を四人とやってるような状態だったって話だ。武術の中では好戦的じゃない合気道と言っても、素人と一対一で負けることは無いな」
そう言い切った善斗からは、達人のような雰囲気が滲み出しているような気がした。




