全知全能とテーブル席
という訳で、警察にお世話になった僕は事情説明を終えて漸く家に帰れるということになったのだった。家族には連絡したので、ご飯は大丈夫と先に断ってはいるのだが……その理由は、これである。
「よしっ、いただきます」
「ん、いただきます」
打ち上げという訳でも無いのだが、善斗と二人でラーメンを食いに来ていた。色々と話したいこともあるらしく、テーブル席である。
「美味い……!」
やっぱり、福岡とはラーメンかも知れない。滅茶苦茶美味しいね。そこそこの有名店なだけはあって、やはり美味い。並ぶのは嫌いな僕だけど、珍しく数人程度だから今日は並んでしまったのだ。
「美味いな」
「ね、美味しい」
とんこつラーメンと餃子を頼んだ僕だが、善斗はそれに加えて炒飯まで頼んでいる。流石である。そんなに体格が良いって感じじゃないのに、よくそんなに食べれるよね。
「並んだ甲斐があったね……」
「だな。俺は何回か食ったこともあるが」
白濁したスープには旨味と深いコクがあり、濃厚だけどまろやかな口当たりで最高である。そして、アクセントで入っている揚げ玉がカリカリと美味しい。味変なんかは初心者の僕には手を出しづらいが、それに頼らずとも十分以上に美味い。
因みに、善斗の方はある程度食べ進めるとおろしニンニクやラー油などに手を伸ばして居た。
「んっ、餃子も……美味しいね」
餃子を呑み込み、そう言った僕に善斗も頷く。
「しかし、まぁ……今日は災難だったな」
「ん、そうだねぇ」
もぐもぐと食べながら、僕はうんうんと頷く。
「まさか、あんな不良達に襲われるなんてな……」
「ねぇ、恐ろしい体験だったよ。善斗に助けて貰えて本当に良かった」
「お前、何かあるんじゃないのか?」
「……何かって、何さ」
問い返した僕に、善斗はラーメンをずずっと啜って呑み込み、箸を置いた。
「この前からも、不良に絡まれてどうこうって話があるだろ。寅嶋に呼び出されただとか、黒崎に少し話も聞いたんだが、何か厄介なことに手を出そうとしたりしてないだろうな……?」
「してないよ。全然大丈夫」
黒崎さんとも話したんだ。そこまでちゃんと調べてるとは、思っていなかった。
「俺たちは、友達だろ。何かあるなら、話せ。言っとくが、俺は調べるからな。お前の話したくないことを無理に聞き出すようなことは趣味じゃないが、こうして実際に襲われたりしてる以上はその限りじゃない」
「……そう、だね」
どうしたものか。どこまで話そうか。正直に全ての真実を話すとして、果たしてそれが正しいことなのか。きっと、違う。善斗をこっちの世界に巻き込んでしまうことは正しいことじゃないと思う。僕の気持ちが楽になったとしても、その分だけ善斗に危険が押し寄せて来てしまうというだけだ。
「黒崎さんを狙ってる人が居て、それで……僕は黒崎さんと最近良く話してたから、それで忠告を受けたんだよ。だけど、それでも話し続けてたから……襲われたり、したこともあるってだけ」
「だけ、じゃないだろ。そんな話は」
「別に、少しだけ痛い目を見たりもしたけど……後遺症が残るような怪我も無いし、寧ろこっちも反撃を食らわせてやったから。でも、そのお陰で……今もこうやって、狙われたりしてるのかもだけどね」
「……なるほどな。それが、白山か?」
僕は水を飲み、こくりと頷いた。ラーメンを啜って、その美味しさで頭の中の混乱や焦燥みたいなものを無くそうとしたけれど、上手くいかなかった。
「だが、それにしても……少し、気になったことがあるんだが」
「ん、何かな?」
僕が尋ねると、善斗はその三白眼を真っ直ぐ僕に向けたまま話し始めた。
「あの不良達……さっき捕まった奴らだ。警察から聞いた話によると、誰かから指示を受けてってことだったろ」
「うん、そうだね。僕を狙って、ボコボコにした後に財布抜いて来いみたいな……」
「今までにも襲われたことがあるんだろ? だったら、態々他の不良に隠す必要があるのか? それに、白山と言えばここら辺でも不良としては知ってる奴は知ってるくらいの奴だろう。そんな奴が、態々素性を隠して指示を出すってのも不自然な気もする。まぁ、素性は隠すに越したことは無いかも知れないが、自分の名と顔を使った方が確実に指示は達成されるだろうし、終わった後にも恐怖から口を噤ませるくらいは出来てもおかしくはない」
「まぁ、そこは別に隠してたっておかしくは無いんじゃないかな?」
僕が言うと、善斗はあっさりと頷いてくれた。
「そうだな。だが、何となく違和感があるって程度の話だ。そして、そういう違和感ってのはこれだけの話じゃない。白山が態々他の奴に頼った違和感、襲われた筈のお前が大してビビっても無く毎日登校してくる違和感、他にも探せば色々あるだろうな……」
善斗は餃子をぱくりと口の中に放り込み、幾らか咀嚼して呑み込んだ。
「……違和感が一つだけなら、ただの違和感だろう」
だが、と善斗は続ける。
「幾つもあれば、それは確かな疑念に昇華させるべきじゃないかと、俺は思う」
目つきの悪い三白眼が、僕の目をじっと確かめるように見ていた。




