全知全能と観察処分
制服を着た、目つきの悪い尖った髪の男が、四人の不良の攻撃を受け流し、突き、投げ飛ばしていく。それを繰り返していく内に、四人の不良は次第に動けなくなり、遂に地面に倒れ伏した。
「……気の気配、か」
それを遠い場所から観察していた男が小さく息を吐いた。
「エーテル体の解放のみ、か? アストラル体まではまだ至っていない……魔術士、には見えないな」
「それに、見たところ合気の使い手だろー? ま、気までなら勝手に目覚めてもおかしかねぇわなぁ」
険しい表情をしていた男の隣に、別の男が現れる。オレンジ色のメッシュが一本だけ入った黒髪の若い男だった。
「夕部、居たのか」
「そら、急がないとヤバめの案件だろ? 流石に確かめに来るってもんよ。監視にしても丹代一人に任せるにゃ荷が重いだろよ」
「丹代さん、だ」
「へぇへぇ、丹代先輩」
二人が言い合っている間に、駆け寄って来た警察達が不良達を捕まえている。目つきの悪い男から溢れていた気は収まり、元の少し近寄りがたいだけの雰囲気に戻る。隣に居る男……宇尾根 治は、ただの普通の高校生のようにわたわたとしているだけだった。
「……結局、尻尾は出さなかったな」
「な~、あっちの目つきの悪い男も変だが、まぁ奴らの仲間って感じでは無さそうだしな……一応、調査は入れとく?」
「あの男の調査か。必要な……いや、奴に頼むように伝えておこう」
「奴ってのは?」
夕部が首を傾げると、丹代は陰湿な笑みを浮かべて答える。
「絵空だよ。能地絵空、奴にあの男の調査を任せることにしよう。上に掛け合えば、直ぐに指令を下して貰えるだろう」
「あ~、確かになぁ。知らない奴の中でも、アイツは明らかに向こう寄りで面倒臭ぇしな……それで、隔離しとくってのは悪かねぇわなぁ」
「そういう話だ。期待していた収穫は無かったが……まぁ、ゼロという訳ではなくなったか」
「そだなぁ。でも、別のやり方を考えないといけなくなったなこりゃ」
その言葉に、丹代はふむと頷いた。
「魔術士や裏社会の連中を使うとリスクも高まるからな……本当は避けたいところなんだが」
「そろそろ、なんかヤバいのも帰って来るんだろぉ?」
「あぁ、何が起きたか知らんが、病床に伏していたところから奇跡の復帰を果たしたようでな……学会の教授でも無ければ、治せないような類いのものだと聞いていたんだが」
「んだそりゃ? 病床に伏してるくらいなら、そっち系のエキスパートでも呼べば学会じゃなくとも何とかなんだろうよ」
夕部の言葉に、丹代は呆れたように首を振る。
「病床に伏しているというのは比喩だ。いや、ある意味比喩でも無いが……様々な呪いが複合した特殊な呪詛を受けて、その結果として肉体も弱り果て、無数の病に苛まれていたというのが事実だろう。俺も、詳しく関わっていた訳では無いがな」
「あぁ、そういう……そこまでやったなら、殺しちゃえば良かったんじゃねーの?」
「事はそう単純じゃない。殺してしまえば色々と問題も起きるし、事を動かす切っ掛けにされる可能性もある。それに、あの特別病院は能地家に関わりが深いからな……殺すにしても、簡単ではない」
「ふーん、頼まれたら俺がやって来ても良かったんだが。サクッと入り込んで、眠ってるだけの女殺すくらいのこったろ?」
「……そう、単純でも簡単でも無いって話だ」
丹代は少し疲れたような声でそう返し、そして現場に背を向けた。
「撤退するぞ。絵空にでも見つかって問い詰められれば少しは面倒にもなり得る」
「ビビり過ぎだろー、丹代先輩」
「黙れ、お前は少しは頭を使うことを覚えろ」
「リスクに怯えて縮こまることが頭を使うことだとは、俺にゃ思えねぇけどなぁ」
丹代は夕部を睨み付けるが、夕部はにやりと笑って無防備に両手を広げるだけだ。
「利益の為にアレを弾き出した上の判断には賛同するが、その上でお前のような人間を招き入れた判断には賛同しかねるな」
「おいおい、酷いんじゃねぇの? 言い方キツいなぁ」
「口を閉じろ、犯罪者め」
「今は犯罪者じゃねぇっての。トクベツに恩赦頂いたってんだからなぁ? それに、似たようなもんだろ……俺も、お前も」
にやりと笑みを浮かべる夕部に、丹代は嫌悪と苛立ちの表情を返した。
「一緒にするな。俺はお前のような……犯罪者じゃない」
「ハハッ、照れんなっての~。同じだって、同じ同じ」
二人はそうして言い合いながらも、誰にも見られることも聞かれることもなく、その場から姿を消していった。




