全知全能と助けの手
翌日、帰ってからゴーレムを作りに行くことを楽しみに歩いていた僕だが、目の前の曲がり角から現れて来た四人の男に足を止めた。全員が、どう見ても不良と言った感じでガラが悪く、怖い感じだ。
「おいおい、ちょっと待てよ」
「そんなに急いで帰らなくてもよぉ、俺らと遊んでこうぜぇ?」
「ほら、あっち行ってお話しようぜ? 一緒によぉ」
「言うこと聞かなかったら、どうなるかは……分かるよなぁ?」
敵だ。僕は即座にふわふわした頭を戦闘態勢に切り替えたが……そこで気付いた。人払いもされていなければ、魔力の気配も感じない。どころか、今は武器すら構えていない。
「……あの、誰ですか? 貴方達は」
「あァ? テメェに答える必要ねぇだろうがよォ!?」
眉間に皺を寄せて凄んで来る男。僕はその圧で後ろに一歩引くが、それを躊躇う必要は無い。
「何が、目的なんですか? お金ですか?」
「そこら辺は向こうでじーっくり話そうねぇ……ところで、付いて来る気はないってことで良いのかなァ?」
言いながら、手を伸ばしてきた男。僕は更に後ろに下がり、そのまま背を向けた。
「ちょッ、おいっ! 逃げんなやァッ!!」
「こらッ、待てコラッ!!」
駆け出した僕を追いかけて来る四人の不良達。足の速さだと負けている。けど、手を伸ばされる度に僕はそれを振り返ることもせずに気配だけで避けていく。
「誰かっ、助けてぇーっ!!」
「おいコラ、テメェッ!!」
当たり前じゃん! 人払いもされてなくて、一般人相手ならこれが一番良いに決まってる! 特に、今は管理局の監視があるかも知れない状況だし……いや、待てよ?
「……そういう、ことか」
なんで何の力も無い不良達がいきなり僕を狙って絡んで来るのかなぁって思ったけど……この人たちは、管理局によって雇われてるんだ。いや、雇われてるなんて上等なやり方じゃないだろうけど、少なくとも管理局の手によって僕を襲うよう指示されていることは間違いないだろう。
僕がこの不良達に抵抗する為に魔術を行使すれば、偶然通りがかった管理局が僕を捕まえてしまうって筋書きだろうか。
「そうはいかないよ」
僕は伸ばされた手を躱し、チカチカと鳴る青信号の横断歩道を駆け抜けた。ちょっとルール違反かもだけど、僕を監視してるのは警察じゃなくて魔術管理局だろうからセーフだ。
「待てよおいッ!」
「ッ、ちょっとま……」
先頭の二人は急いで渡って来たが、後ろ側に居た二人は動き出した車の波に足を止めてしまった。僕が半分くらい渡った頃には既に赤信号になってしまっていたし、仕方ない。というか、それが狙いだったから狙い通りだ。
「助けてぇッ!!」
「まだ言うかよテメェッ!」
周りに人は居はするけど、直接助けてくれる人は居ない。一応、警察に通報してくれてそうな人は居るけど……現代なんて、所詮その程度である。
ただ、学校側まで戻れればその限りでは無い筈だ。先生たちには、生徒を助ける責任感の備わった人間も少なくない。それに、学校は僕のホームだ。向こうからすれば踏み込んで来ることも躊躇するだろう。
「待てよッ、オラッ!」
「ッ、いって……!」
石を投げられた。咄嗟に避けようとしたけど、何の強化も施していないこの状態では全く間に合わなかった。結果として、投げられた石は僕のふくらはぎを打ち付け、痛みを走らせることになる。
「しゃあっ、捕ま……」
「る訳、ないだろ」
僕は伸ばされた腕を捕まえて、その勢いを利用して前に受け流す。だけど、その間にもう一人の不良が僕に足を……蹴りかよ!
「ぐッ」
「オラァッ! まだまだ行くぜェ!?」
咄嗟に手で受けた僕だったが、既に状況は二対一で囲まれている。それどころか、もう二人も遅れて合流してくることだろう。今の身体能力で、ここから学校まで逃げ出すのはちょっと難し……ぃ?
「お前ら、止まれッ!」
飛び込んで来た声。振り向くまでも無く、それは僕の友達……善斗だった。
「治、下がってろ」
「善斗、でも……」
向こうは明らかに大学生くらいの体格に見える。幾ら合気道を習ってる善斗と言えど、体格でかなり負けてる奴らを二人相手にするのは難しい筈だ。
「警察は呼ばれてるらしいから、時間を稼げば良いだけだろ。大丈夫だ、合気道はそういう所が一番得意だからな。耐えるだけなら簡単だ」
「はッ、合気道? 普通に鍛えた方がマシだろ馬鹿がッ!」
腕を伸ばし、構えた善斗に対して思い切り踏み込んで殴り掛かって来る男。善斗はその拳を冷静に捉え、避けながら、伸ばした手を相手の胸に当てた。
「ぐぇッ!?」
飛び込んで来た相手の余分な力を足へと受け流しながら、善斗は伸ばした手で相手の胸へと強い衝撃を与えた。目を見開き、体勢を崩した相手に善斗は透かさず踏み込み、地面へと投げ飛ばして叩き付けた。
「てっめッ!!」
「ふぅ……」
飛び込むような勢いで蹴りを突き出してきた男。善斗はその足を取って上にあげるように動かすと、男は耐え切れず仰向けに転んでしまった。
「な、簡単だろ」
そう声を掛けた善斗の体の内側からは、じわじわと威圧感が……気が溢れ出していた。




