全知全能と生体素材
あの後、皆で幾つかの改良を考えた後に僕はやはり異世界に行く必要があると考えていた。その理由は、素材を求めてのことである。泥のゴーレムは無数の生体素材を掛け合わせて土の中でごちゃ混ぜにして作り上げたモノである。土自体はソラの下辺りの土ということで三つの世界で見ても最高峰なのは間違いないと思うけど、肝心の生体素材の方はそこまで格の高い素材というものは混ざっていない。
「治」
そうして、夕食の為に戻る直前であった僕は背後からかけられた声に振り向いた。
「ソラ」
「愛おしい貴方が、新たなゴーレムを作ろうとしていると耳にした。その素材に、動物や植物を利用しているとも」
「あ、うん。駄目だったりした?」
「貴方のすることに否は無い」
マスコットのような姿でも毅然と首を振ったソラは、ちっこくて丸っこい手をこちらに伸ばした。
「これを、使って欲しい」
その手の上には神聖な雰囲気の漂う枝が一本と葉が三枚乗っていて、僕に差し出されていた。
「私の周りに生えている草木を使っていたの、だろう? それならば、私を使った方が絶対良い」
「まぁ、そうかもだけど……やっぱり、友達に君の体を素材として使わせてくれなんて言えないよね」
「気にしなくて良い。木人達も私の体を素材にすることはある。それは、私達が共生関係にあるからだ。お互いがお互いを利用することは、不健全なことではないと思う」
「……わかった。ありがたく使わせて貰うよ」
僕は言いながら、神樹の枝と葉を受け取って魔術によって亜空間にしまった。とは言え、神樹の素材か……考えないでは無かったが、やっぱり友達だからそんなことをねだれなかったのが一つ、そしてもう一つ利用しようとしなかった理由が、純粋に素材の一つとするには力が強過ぎて不安定だからだ。
「うん、完成が楽しみだ」
だけど、だからこそどうなってしまうのかは……少し、楽しみな部分もある。僕の予想を超えるような素晴らしいゴーレムが出来てくれることを願うとしよう。
「私も、楽しみにしている。出来たら、必ず見せに来て欲しい」
そう言って、ソラはずいと身体を寄せて来た。
「私の素材も、絶対に使って欲しい。使って、くれる?」
「うん、勿論。絶対使うよ。はっきり言って、使わない手は無いね」
不安定を恐れて強力な素材を使わないなんて、ゴーレム使いとしてあるまじき行為だろう。実際に手に入ってしまったなら、ロマンを求めて使っちまうのがゴーレムを作るものとしての矜持である。
「言ったから、絶対!」
「わかった、絶対ね」
やけに強気に推して来るソラに、僕は苦笑しながら頷いた。何でそんなに使って欲しいのだろうか。アレかな、ゴーレム作りに混ぜて貰えなかったから、そこでくらい参加したいみたいな思いがあったりするんだろうか。
「大丈夫だよ、分かってるからね」
「!!」
ソラはこくこくと素早く頷くと、そのままどこかに走り去ってしまった。
「……取り敢えず、戻らないとだよね」
後のことは、異世界に行ってから考えよう。素材もどんなものがあるか、向こうで見てから考えないといけない訳だし。
ただ、その前にご飯は食べないとね。腹が減っては戦は出来ぬ、のである。
♦
そういう訳で自分の部屋に戻って来た僕は一階に下りてリビングの椅子に座った。今日はお父さんも一緒に食卓を囲んでいた。
「お、来たわね。そろそろ呼びに行こうかと思ってたのよ」
「ん、僕もそろそろかと思ったんだよ」
「早めに来て手伝ってくれても良いんだけどねぇ?」
「……今度は、考えておくよ」
そう答えた僕にお母さんはふっと笑って箸を皆の前に配り、自分も座った。
「はい、いただきます」
僕達も手を合わせて言葉を合わせ、箸を手に取り先ずはコロッケを掴んだ。それを自分の取り皿に乗せた僕は、端の方を軽く割り開いて裂き、さっさと小さい方を掴んで口の中に放り込んだ。
「んっ」
カニクリームコロッケだ。僕の好物の一つでもある。とっても美味しい。
「ほら、ちゃんと野菜も食べなさいよ」
「ん」
僕はキャベツもわしっと掴んで取り皿に移し、素直に従っておいた。食卓で母に逆らうことは賢明ではない。
「んー、クリーミーで美味しい」
「でしょう? そろそろ、アンタも料理出来るようになんなさい」
「別に、出来なくはないけど」
「出来なくない程度の料理より、ちゃんと美味しい料理の方が良いでしょうが」
むぅ、と眉を顰めた姉にお父さんがどうどうと穏やかに微笑みながら声を掛ける。
「まぁ、今はどちらかが家事をするって時代でも無いからね……でも、折角なら料理は出来た方が自分の為にもなると思うよ?」
「そういうお父さんは料理できないじゃん」
妹がぐさりと刺すような言葉を呟くと、お父さんは笑顔のままで閉口した。
「……お父さんは、大丈夫だよ。大黒柱だから」
念の為に僕はフォローを入れておき、視線を逸らしてかにクリームコロッケに集中するのであった。




