全知全能と泥の中
一体のゴーレムをボロボロに崩れさせた後、変形していた体を人のそれに戻した泥のゴーレムは次のゴーレムを標的に捉えようとして……背後から飛び出してきた鋭い石の刃に貫かれた。
「どうだ、必殺の隠し刃……!」
「分かってるでしょ……」
言っちゃえば、君も製作者なんだし。当然ながら、ゴーレムの手から伸びた石の隠し刃は泥のゴーレムを貫いてもダメージは与えられていなかった。
「分かってるけど、言ってみただけだぁ! ま、無理だろうけどな!」
「まぁ、無理だろうねぇ」
泥のゴーレムは他のゴーレムと比べてかなり特殊な構造になっている。泥のゴーレムの体内には無数に超小型の核が仕込まれており、それらが連携することで一つのゴーレムとして活動している。また、小型の核が減って来るとその内部に刻まれた情報と術式が開放され、泥の肉体に反応し、必要分だけコアを再生成する仕組みになっている。致命的な量のコアが破壊された場合、その間は泥の肉体を活かして地中などに身を潜める。コアの大半が破壊されても、活動自体はある程度可能だからね。
「お」
五体のゴーレムの一体が、捨て身とでも言うような勢いで飛び掛かって行った。五体の中でも特に大柄なそのゴーレムは、泥のゴーレムを押し倒して地面に抑え付けたが、泥のゴーレムは当然のように肉体を変形させて大柄なゴーレムの体に寧ろ侵蝕して内部からその構造を破壊していく。
「おぉ」
そこに、片腕だけ大きなゴーレムが近付いて行き、その腕で大柄なゴーレムを思い切り殴りつけた。魔力を纏った石の腕は大柄なゴーレムを地面にめり込ませながら直撃した部分は潰し、そして大柄なゴーレムの体の胴体部分は砕け散ってしまった。
「……これは結構潰れたわね」
その一撃は大柄なゴーレムを半ば犠牲にしてしまうと同時に、内部に入り込んでいた泥のゴーレムも潰されて、その結果コアの三割ほどが破壊されてしまった。
「……うーん」
やっぱり、素材の強度が足りていないのかも知れない。勿論、耐久力を重視しない性能にしているのはそうなんだけど、生存力は高めておきたいから……攻撃を防御する能力が足りずとも、核が一撃でこれだけ壊されてしまうのは頂けないって感じだよね。
「……」
しかし、それでも倒された訳では無くゆらりと立ち上がる泥のゴーレム。そこに敵のゴーレムから礫のようなものが無数に飛来するが、泥のゴーレムの体をべちゃべちゃと貫いて行くだけで大きなダメージは与えられていない。
「来た」
やるんだ。泥のゴーレムから、魔力が立ち昇る。それは、ゴーレムに隠されていた能力の一つである、泥の魔術だ。
足元の地面が土から泥へと染まっていき、一瞬にして辺り一帯が泥沼へと化す。里の一部が泥沼になってしまったことにスイが眉を顰めるが、それに構う訳も無い泥のゴーレムが泥沼を更に大きくした頃には、既に敵のゴーレム達は全て泥沼に呑まれていた。
「……」
「……」
沈んで行ったゴーレム達は、泥沼の中で藻掻くも脱出することは叶わず、泥の中を潜って来た泥のゴーレムに入り込まれて内側から崩壊していく。
「ま、中々悪くないんじゃねぇのか? これに、煩悶の魔術が乗ってりゃ大抵の奴には負けないだろうよ」
「そうだね。多分、そうだけど……」
クリティカルな魔術を一撃食らえば、それで負けてしまいそうなくらいの危うさも感じている。
「素体が相手じゃなかったら負けてたかもね」
「それを言うなら、そのゴーレムも完成版なら魔術を使うまでも無く勝ってただろうな」
「そうかもだけど……」
正直言って、機能の改善とか改良とかで満足なレベルまで引き上げられるとは思えない。このゴーレムの設計的に、根本的な部分を変える必要がある筈だ。
それは、素材だ。この泥のゴーレムは、実は無数の動物の素材や植物などを混ぜ合わせ、土に溶け込ませて泥にするような形で作り上げている。しかし、良くて蝕獣を使っているくらいの現状の素材だと、ハッキリ言って足りやしない。
「うん。取り敢えず、機能の改善や改良を済ませてからにしようかな」
「済ませたら、どうするつもりだ?」
「ちょっと、素材を探しに行くんだよ」
異世界まで、ね。
「ふーん……そっちでゴーレムも作ったら良かったんじゃないのかしら?」
「……いや、ゴーレムに関しては向こうよりもこっちの技術力の方が高いと思う」
ラクリオより上のゴーレム使いが異世界にも地球にも居るとは思えない。いや、ゴーレム使いなんて内向的というか、趣味の側面が強そうだから表に出てないだけで同じかそれ以上の実力者が居る可能性もあるかな。
それにしても、良く素材を探すのが別の世界でって分かったね。スイ。
「スイって、心読んだりしてないよね?」
「してないわよ。別に、魔術を使えば出来るけど」
出来るんだ……流石は賢者である。




