全知全能と原型と素体
そうして、僕はラクリオ達の力も借りて試行錯誤の果てにゴーレムの原型を漸く完成させることが出来た。
「……とは言っても、これを試すのはちょっと難しいところはあるよねぇ」
「まぁ、そうね。試せても基本の性能くらいかしらね」
「煩悶の魔術を抜きにしても悪くはないだろ。ちっと試しにやってみるか?」
ラクリオが言うので、僕は頷いて賛成した。
「良いけど、どこで試すの?」
「オラのゴーレムとやれば良いだろ? 丁度、試作の時に出来たゴーレムの素体が何体か余ってるからな」
「あ、そういうね。うん、どうせなら良いかも」
「んじゃ、行っちまうか!」
どうせ、魔物相手に罪がどうのとやったって効果が高いとは思えない。なら、ゴーレム同士でやらせた方が寧ろ良く術式以外の部分を見れるだろう。
にしてもやっぱり、ラクリオはゴーレム同士を戦わせるのが一番好きなんだろうなぁ。僕の世界に生まれてたら最強のロボットを作っていたのかも知れない。
「さ、カモン」
そう言って呼び寄せるのは、黒い粘性体だ。人の姿をしたそれは、ただの泥のような物体というよりも、何かをごちゃ混ぜにしてドロドロに溶かしたような物体に見える。というか、実際にそんな感じではある。
「……」
当然、僕の言葉に答えることは無い。というか、今のところは会話する機能自体が存在していない。しかし、今回のゴーレムはある程度は人に見えるように仕立てたいと思っている。
その理由は、飽くまでも事務所と関わりのない第三者としてゴーレムを活動させる為である。何かあっても、こっち側に責任を訴求されるような事態にはなって欲しくない訳だ。
そういうことで、今回のゴーレムさんには人型で喋る機能も搭載してみようと考えている。とは言っても、感情や意思なんかは無く、目的を達成しようとする思考を持った存在になる訳である。
飽くまでも、悪人を裁く断罪者……を、装って貰うつもりだ。実際、術式の趣向的にはそういう感じではあるんだけども。
「さ、やんぞぉ」
そう、頭の中で整理している間に僕は目的地についていた。とは言っても、そこまで離れた場所でも無い開けた場所と言ったくらいだが。良く、イシとラクリオのゴーレムを戦わせている場所である。まぁ、最近はあんまりイシと戦わせること自体は無くなっているのだが。ラクリオ曰く、イシと戦わせることで得られるデータは、今の実力だと限界があるとのことだ。
「こっちはただの試作の素体で大して丁寧に作ってる訳でも無いからな。五体一、くらいで十分だろ?」
ラクリオの言うところの素体とは、特殊な術式なんかを搭載している状態ではない、素の性能だけのゴーレムのことだろう。つまり、構造自体には何かしらの仕組みがあったり、そもそも巣の性能だけで僕の世界のゴーレムと比べればかなり優秀なゴーレムと呼んで差し支えはない筈だ。
「まぁ、良いよ」
とは言え、だ。僕らが作ったこの新造のゴーレムだって普通のゴーレムと比べれば逸した性能を持っている。素体のゴーレムなら、五体相手にしても負けはしない筈だと僕も考えていた。
「んじゃ、準備は良いなぁ……?」
言いながら、ラクリオはずっと自分のゴーレムに触って何かをしている。この一瞬の隙間の時間だけで性能を無理やり向上させているのだろう。時間をかければ、普通に強いゴーレムが出来上がってしまうかも知れない。
「準備は良いから、早く始めようか」
「む……良し、分かった」
ラクリオは眉間に皺を寄せながらもゴーレムから離れ、そして泥のゴーレムと五体のゴーレムが向き合う形となった。
「合図、出すわよ。命令はそっちで出しなさい」
「じゃ、新しい方は僕から」
「五体の方はオラだな」
僕らは頷き合い、そしてスイがスッと片腕を上げた。
「始め!」
「行けっ!」
「やっちまえッ!」
駆け出したのは、五体のゴーレム。飛び上がるゴーレム、駆け抜けるゴーレム、回り込むゴーレム。ラクリオが指示を出しているのか、それらは連携して泥のゴーレムへと襲い掛かっていた。
「……だけど」
その程度の連携でこのゴーレムを破れはしない。各方位から同時に攻撃されるような形になった泥のゴーレムだったが、その体がぐにゃりと歪むと、目の前のゴーレムの体を滑り抜けるように通って行った。
「おぉっ!」
「良いね!」
それだけで、そのゴーレムは侵食され、内側から腐食したように破壊された。ボロボロに崩れ落ちるゴーレムの背後で人の姿を取り戻した。




