全知全能と泥
ユモンに伝えるべきを伝えてから、僕は裏世界へと消えた。今回作ろうとしている特別なゴーレム、それは僕のものであるということを誰にも伝えるつもりは無い。ユモンにも事務所側には黙っておいてもらうように伝えておいた。勿論、本気で隠し切るようなつもりは無いけど……確定させるようなことを言わないというのは、大事なことだ。
そして、そもそもなんでこのゴーレムの存在を仲間にも隠すのかって言うと……仲間にすら、見せられないゴーレムになるからだ。見た目とかの問題って訳では無く、その素材を地球由来のものだけで作る気が無いからだ。つまり、全知全能を使わない範囲で自重しないゴーレムを作ろうとしているという訳だ。
だから、言ってしまえば僕がゴーレムを使って暗躍しているということ自体はバレてもそこまで大きく問題は無い。僕のゴーレムによって組織を壊滅させる程度は可能なことは既に事務所の人達にも伝わっているだろうしね。
「よいしょ、っと」
僕は裏世界の天界で生み出した椅子の上に座り込むと、スッと手を伸ばした。
「『暗き底より沸き上がれ。身より霊までよじ登り、苦悶と懊悩の果てへと導く』」
唱えるは魔術。それも、皆に協力して貰いながらではあったものの、殆どオリジナルの魔術だ。何度か実戦で使ったこともある。
「『煩悶の黒泥よ』」
魔法陣が僕の手の先に開いた。そこからボトボトと零れ落ちて来るのは漆黒の泥だ。僕の意思に従って動いてはくれるそれだが、今はこの場に僕しか存在していないが故に、僕を標的にでもしているようにじっとこちらを窺っていた。
「おっかないなぁ……」
術式の性質的に、僕をも標的として捉えていることは間違いないかもだが、実際に襲って来ることは有り得ない。当然、僕が術者であって僕の意思に従って動く魔術であるからだ。
とは言え、殆ど一般人として生きてきた僕が襲い掛かられても精神に後遺症の残るようなダメージは受けない筈だろう。何なら、大した罪と呼べるものも僕は持っていない……と安易に考えた僕だったが、黒泥は僕の中の罪を確かに見つめているようにこちらを向いたままだった。
「……やめよう。今日は、自省の為に君を生み出した訳じゃないんだ」
別に意思を持った生物という訳でも無いが、僕は黒泥に語りかけた。何と言うか、じっとこちらを見続ける黒泥が僕を咎めようとしているように見えたからだ。
でも、いつか自省すべきようなことがあれば……自罰の意味も込めてこの黒泥に身を浸してみるのも必要になるかも知れない。
「君には、ゴーレムになって貰おうと思ってね……というか、君という魔術をゴーレムに組み込んで作ろうと思う訳だよ。そこのところ、どう思うかね?」
そう尋ねてみた僕だが、黒い泥はぶくぶくと泡立っているだけで何の返答も返してくれはしなかった。当然である。
「君も、出来るだけの悪人に苦悶を与えてやりたいと思っているだろう」
しかし、そう語りかけると黒い泥からぶくぶくと泡立つのが激しくなったように見えた。おっかないからやめて欲しい。
「そういう訳で、今日は君という存在の性質と親和性のある素材を探したり、都合のいい構造を作ったりとか、そういうことをしていこうと思うんだけど……良いかな?」
黒い泥は答えない。仕方ないので僕は椅子から立ち上がり、先ずは普通の土から試してみることにした。
♢
天界で暫く色々を試し、やり直し、試行錯誤の果てに……僕は、結局一度ソラたちの星に訪れることにした。
「どうかしら?」
そういう訳で、僕はスイに案内されて里に幾つかある物置の一つに訪れていたのだった。色んな素材との反応を試しつつ、分かったことは生体系の素材は大抵が相性が悪いということである。
「うーん、駄目だね。植物系だとかなり行けるんだけど、生物系は黒泥に呑まれるのか上手くいかないや」
「無機物系じゃダメなの?」
「駄目だね。石や金属は完全に術式との相性が悪いや。まだ生物系で呑まれた方がマシってくらいで。あ、でも土は割といけるね。今のところは、土と植物の混合とかになりそうなのかなぁって感じしてるよ」
ふぅん、とスイは唸って眉を顰めた。
「元が泥なんでしょう? 泥じゃダメなの?」
「どろ、かぁ……」
泥のゴーレム、ちょっと難しんだよなぁ。不定形のゴーレムっていうと、ライマーとかが近いと思うけど……アレも元々はしっかり形があって、変質変形出来るっていう特性でそう見えてるだけみたいな感じだし。
「よぉ、来てやったが?」
そこに、まだ呼んでいなかったのにラクリオがやって来た。もう少し考えが纏まってから呼ぼうと思ってたんだけども。
「知恵を貸してよ、二人共」
「勿論よ」
「まぁ、竜の件では世話になるだろうからな。代わりって訳でもねぇが、出来ることなら何でもやってやんぞ」
頼りになるね。この星に二人が居て本当に良かったよ。あとは、ソラも呼ばないと怒るかな。でも、今は忙しそうにしてるから迷惑をかけちゃうかな。




