全知全能と構想
そうして、絵空との話を終えて僕は早々に購買へと駆け走り、パンを買って教室へと戻り、そして何とか昼休みの終わりまでに食べ切ることに成功した。慌ただしくご飯を食べるのは好きじゃないけど、今回ばっかりは仕方ない。
「六幡の辺りで人が刺されたらしいぜ、ヤバくね?」
「えぇ、こっわぁ。捕まったん?」
「らしいけど」
残り僅かな昼休みで聞こえて来た話に、僕は机の上で腕に顎を乗せながら耳を傾ける。スマホを見ながら話しているところを見るに、どうやらネットニュースか何かを見ているんだろう。
「犯人の奴、精神が錯乱してるとか……なんか、捕まった時には様子がおかしかったみたいで、虚空をボーっと見つめてたかと思えば異常に何かに怯えだしたりとか、イカれてるからやったんだろうな。まぁ、刺された人は死んでないらしいからまだマシだけど」
「へぇ、ヤバいやん」
怖いねぇ。とは言え、こうして逮捕されてネットでニュースにもなってるとこを見るに僕たち関連の、もとい魔術士関連の事件って訳じゃないだろう。ちゃんと捕まってて、誰も死んでないなら良かったとだけ思っておくことにしよう。
「……んー」
こうして何かの事件の話を聞いていると思い出したけど、そういえば最近は一日一善も出来てないなぁ。忙し過ぎてそれどころじゃないと言えばそうなんだけど。色々、大変なのが片付いたらより一層精を出して頑張ることにしよう。
今は少なくとも、事務所絡みの事件と裏世界での竜の話があるから正直言って暇は全く無いんだ。遊びの誘いも何回か断っちゃってるし。
あぁ、最近ちゃんとゲーム出来てないから腕も鈍ってそうだ。FPSとかやった日には悲惨なことになるかも知れない。
「っと」
学校のチャイムが鳴って、昼休みは遂に終わりを告げたのだった。僕は顔を上げて、体を起こして伸びをする。さて、裏社会での話も裏世界での話も大変だけど、今は学校生活に励むとしよう。
♢
家に帰ると、ユモンから連絡があった。茜さんが襲われたり、弦義君の姉……黒崎さんが攫われそうになったりしたらしい。とは言え、どちらも無事に対処されて今は安全な状況らしいが、恐ろしい話ではあった。
「どうやら、どこにも属してねぇような個人の奴らが金で雇われて動き出したみたいだな。まぁ、もうなりふり構ってねェってことだろうよ。情報統制が甘くなったって構わねぇって感じだな」
「ふぅん……それも失敗すれば、今度は本気で肩を並べて襲い掛かって来るとかかな?」
「ま、有り得るだろうよ。教授を助けに呼んでることを知ってるのか知らねぇけど、明らかに焦りがあるって感じの動きだな」
「……何かしら対策は考えておいた方が良いかな?」
僕が聞くと、部屋の壁に寄りかかったままユモンは笑った。
「そりゃあな。考えられるなら、考えとくに越したこたぁねぇだろうよ」
「それはそうだよねぇ……どうしようか」
「取り敢えずゴーレムを作れるだけ作っとくくらいでも良いんじゃねえのか? 別に、オレ様はそもそも不安も大して抱いてねェから、そんなに必死にやろうって気にはならねェけどな」
「うーん……」
ゴーレムを数で用意すると、少し悪目立ちが過ぎるような気がするんだよね。この件が解決した後に、僕がそのレベルの術士であるってことが広まるのは望ましくない。
今日の絵空との話で、魔術士として登録するってこと自体は決まったようなもんだしね。その時に、百のゴーレムを操る大魔術士みたいな話になってしまうのは望ましくない。寧ろ、しょうもない取るに足らない雑魚魔術士くらいに管理局には思っていて欲しいくらいである。
「……なんか、無いかなぁ」
今までの考え方は、少しだけ受動的過ぎたような気がする。寧ろ、こっちから出来ることを考えてみよう。
相手がこっちを襲いたくなくなるような、襲えなくなるような、動きづらくなるような、そんな手段を……何か、思いつけないか。
「……そうだ」
一つ、凡庸なものだが、ある考えが思い浮かんだ。
「ユモン」
「あ? なんだよ」
「今、僕らを襲おうとしてるような組織って簡単に纏められる?」
「おっ、やられる前にやっちまうつもりかよ?」
僕の問いに、ユモンはにやりと笑みを浮かべて問い返した。
「そこまで血生臭くは無いけど、でも方向性はそうだよ」
「……何をやるつもりだ?」
「彼らには全員、悪を卒業して貰おうと思う」
僕がやったと思われて、そんな噂が広まるのも望ましくない。だから、飽くまでも第三者……というか、事務所の人間を名乗らないやり方でやらせて貰う。
「つまり、どうするつもりだよ」
「特別な一体のゴーレムを作るよ」
僕はそう答えて、そのゴーレムの構想を練り始めていた。




