全知全能と土竜
巨大なモグラ。土を固めたような鱗に、溢れ出る膨大な魔力……そして、大地を操るその魔術。疑うべくも無く、恐ろしい敵であることは間違いなかった。
「それで、どういう流れでこの戦いは起こってるんですかね……?」
「どういう流れも何も、異変の報告を受けて調査に訪れたらこの怪物が居たというだけの話だッ! 地中の大穴と聞いて土竜であることは予想していたが、まさか変異種とは……ッ!」
そうして事の経緯について話していた僕らだったが、飛来する土石の塊に左右に分かれるように飛び退いた。
「兎に角、話は良いから戦えッ! というか、貴様本当に戦えるんだろうなッ!?」
「それ、さっきも聞きましたよ」
僕は呆れたように言い返し、そして近付いて来ているレプリ達に意識を向けた。
「確かに、僕はあんまり戦えないですけど……」
木々の奥から、群れが押し寄せてやって来る。土塊の群れが、傀儡の群れがやって来る。
「言った通り、仲間が居ますから」
「確かに、言っていたが……」
眉を顰めた男だったが、押し寄せて来るその気配に気付くと目を細めた。そこに飛来する土石の塊を避けて僕の方を睨むように見た。
「なるほど、ゴーレム使いだったのか……道理で、まともに戦え無さそうな風体に見えた訳だ」
「ちょっと失礼じゃないですかね……?」
言うほどまともに戦え無さそうな風体してるかなぁ、僕。
「杖も持っていない割に、身のこなしもそこまで優れている訳でも無いようだったからな。どうやって戦うつもりかと思っていたのだ。だが、ゴーレムを引き連れていたというなら納得も行く……錬金術師というには、少し若そうにも見えるがな」
「あはは、一応は魔術も使えるんですけどね……まぁ、兎に角やっつけちゃいましょうか」
「……言っておくが、そう簡単な話でも無いぞ」
また飛んできた土石の塊を避けて、僕は男の言葉に首を傾げた。正直言って、この割と容易く避けられる攻撃を繰り返して来るだけの相手に負ける気はしない。動きも鈍い感じだし、少なくとも今のところは命の危険も感じていなかった。
「土竜の変異種は特に魔術に強い耐性を持ち、通常よりも高度な土魔術を操るとされている。私の攻撃も隙の少ない簡易的なものは簡単に防がれてしまった」
「なるほどぉ……」
「……分かっているのか? つまり、攻撃はまともに通らず、向こうはまだ本気も出していない状態ということだ。今程度の土魔術は、奴にとっては遊びに過ぎないだろう。こちらが厄介な相手だと認識すれば、今とは比にならないような殺意の籠った魔術を放って来る筈だ」
「それはおっかないね」
うんうんと頷いて見せた僕だったが、男は何か言いたげに目を細めてこちらを見た後、諦めたように首を振った。
「兎に角、貴様のゴーレム達と私の魔術でこの状況を打破……多くないか?」
「ん、何が?」
僕が尋ねると、男はモグラに絡み始めたゴーレム達を睨んでから、再びこちらに視線を向けた。
「その、ゴーレム……流石に、多くないか?」
「え?」
「いや、だから……ゴーレム、多くないかと言っているんだ。これ、何体居るんだ……? 百は、超えているよな……?」
「いや、このくらい普通だよ? 都会のゴーレム使いならこのくらい普通だから」
毅然とした態度で言い返すと、男はむっと眉を顰めて口を噤んだ。
「そう、なのか……? いや、私は確かにゴーレムには余り詳しくは無いが……」
「そうなんだよ。ゴーレムを百体も操れないゴーレム使いなんて、ゴーレム使い失格だからね。普通に」
「そう、か……」
よし、何とかゴリ押せたから今の内に話題を逸らしておこう。
「そういえば、名前を聞いてなかったよね。聞いておいても良いかな?」
「レイサスだ。見ての通り、紫杖のメイジだ」
「うーん……」
その紫杖の魔術士が何なのかは気になったが、どこか自慢げにしていたので触れないことにしておいた。
「……自分の名前は言わないのか」
「あ、おさ……オポッサムです。どうぞ、よろしく」
「オポッサム? 聞いたことも無い名前だな」
「あはは、そうですよね」
僕もオポッサムが何だったかあんまり覚えてないくらいだからね。なんか、動物だった気はするけど。
「……まぁ、何でもいい。今は何よりもあの土竜の相手だ。ゴーレムで何とか抑え込めているようだが……」
何かを悟っているかのように、男は……レイサスは、土竜の方を見た。
「やはり、そろそろ痺れを切らしたか」
土竜の周囲に浮かぶ土石の塊たちが無数に分解し、変形して楔のような形状になった。それらは見た目からは想像できないような鋭さでレプリ達を貫いて行き、あっという間に十数体のレプリを破壊してしまった。
「ッ、これは本当におっかないね……」
「相手の本気の攻撃は見えたな。後は、こちらからも攻撃に移るだけだ。ゴーレムが尽きるまで、奴の気を引いてくれ」
杖を構え、土竜を睨んだレイサス。僕は取り敢えず、数の減ってしまっているレプリ達に自己複製の許可を与えておいた。




