全知全能とモグラ
周辺の魔物を殆ど倒してしまったのか、戦場の喧騒も止んでしまった。代わりに、レプリ達は今も増え続けようとしていたが、流石に三百体ちょっとで複製はストップしておいた。
「ん、あっちに大きい気配があるね……」
最後に大物狩りを試してから終わりたかった僕は、森の中の気配を探っていくと大きな気配を見つけて目を開いた。
「行ってみようか」
さぁ、大移動だ。僕はレプリの群れを連れ立って、その気配の方へと歩き始めた。
「あ、向こうから襲って来ないのは放置で良いよ」
一応、見かけ次第殲滅なんてことをしてたら生態系を破壊しかねないからね。既にニ十体以上は倒してしまっているけど……かなり広い森みたいだし、流石に問題は無いだろう。そもそも、魔物の生態系に気を遣うべきなのかどうかというのが僕には分からないんだけど。
「ていうか、そもそも魔物と動物の差って何なんだろう……」
そこら辺にも、僕はあんまり詳しくないのである。魔力器官を所持しているかどうかの差だろうか、それとも魔力に依存している度合いで決めているのか……いや、そこら辺が体形化出来る程の文明があるようには見えないから、普通に何となくなのかも知れない。一応、僕もこの世界で鳥や虫くらいは見たことがある。アレは魔物っぽくなかったし、人間も魔物で無いとするのならやはり動物というものは存在しているということになるのだろう。
「正直、魔物と比べれば動物なんて淘汰されてそうなもんだけどね……」
もし、生存に魔力を必要とする生物の総称とかなのであれば、魔力の薄いエリアでも生きられる存在として生息域はありそうなものではあるけど。そうでもなければ、動物なんて殆ど魔物の下位互換にしか成り得ない気がする。まぁでも、エネルギー効率が悪いとかあったりするのかな。
「お、っと」
僕は足を止め、考えてる間に近付いていた気配に顔を上げた。視界の奥には、恐ろしい程の巨体……四つ足でありながらも木々と並ぶ程の体躯を持った、モグラの如き魔物が存在していた。
「……なんだ、アレ」
但し、モグラと違うのはその体が土を固めたような鎧に覆われており、異様に堅牢そうであるということであった。
「まぁ、兎にも角にも……」
無害な存在であれば、襲い掛かるのも忍びない。図体がデカくて魔力に溢れているというだけで、人を襲わないような温厚な魔物である可能性もある訳だ。そんな相手に、こちらから仕掛けるというつもりは無い。
「チィーーーーーーッッ!!!」
周辺の大地が浮き上がった。巻き込まれて木々が倒れる中、浮き上がる土や石がそれぞれ塊になって、無数の球体が生み出される。
「あ、既に戦ってる……!?」
このモグラの方の存在が大き過ぎて気付いていなかったが、良く確かめれば奥にももう一つ気配が……人のような気配があった。この感じを見るに、両者は戦闘を繰り広げているのだろう。
「良し」
僕は念の為にと、大地を踏みつけて跳躍し、木の上に飛び乗ってから口元に両手をメガホンのように寄せた。
「あのーッ、どういう状況ですかーっ!?」
叫ぶように尋ねながら見下ろして見ると、そこには紫色のローブを身に纏った人間が杖を持って立っていた。僕の叫びを聞くと、その人はキッと睨むようにこちらを見上げた。
「見れば分かるだろうッ、戦闘中だッ!」
僕へと叫び返したその人だったが、宙に浮かんでいた無数の土や石の塊が放たれて、咄嗟に回避行動を取った。その際にフードが外れ、僕はその人の素顔を見た。ローブと同じ紫の髪をした、キリッとした顔立ちのイケメンさんだった。ただ、ちょっと性格がキツそうな感じの雰囲気である。
「助けた方が良いですよねーっ!?」
「当たり前だろうッ、土竜の変異種だぞッ!? 紫杖の私と言えど、殺し切るのには苦労する」
紫杖だのアンダードラゴンだの変異種だのと良く分からないことばっかり口走っているが、兎にも角にも助けた方が良いということは分かった。
「分かりました、助太刀させて頂きますー!」
「ッ、貴様……妙ちくりんな風体だが、本当にこいつと戦えるんだろうなッ!?」
サッと男の隣に降り立った僕だったが、疑わしい目で見られてしまった。確かに、如何にも怪しいマントと仮面を身に付けてる上に、こっちの人基準だと全然魔力もしょぼいけどさ。
「大丈夫大丈夫、僕には仲間が居ますから」
「なに……?」
僕はまだちょっと遠くの方に居るレプリ達を思念で呼び寄せながら、化け物みたいに大きなモグラを見上げた。目はまるで潰れているようで、モグラ同様にあんまり見えていなさそうだった。




