全知全能とひとりごと
あれから何度か聞かれたが、同じように否定している内に昼休みも終わった。それから退屈な授業を一つ二つと乗り越えて、遂に僕は下校の時間を迎えることになった。
「はぁ、疲れたー……」
小声で呟き、僕は軽く体を伸ばした。鍛えていようが、幾度の戦いを乗り越えようが、別に学校生活というものは疲れるのである。これはもう、致し方なしだ。
「ん~」
帰ったら、何作ろっかなぁ。ゴーレムの製作は最早僕の趣味と呼べるものになってしまった。昔は冗談めかして言っていたホムンクルスなんかも、もしかしたらいつかは作ってしまうのかも知れない。実際の所、超高度な知能を持つゴーレムというのは殆ど人と同じなんじゃないかと思うようになってきた。
問題は、その知能によって生み出される人格が存在するのかという話だ。知能をただの機能としてのみ利用する構造になっているなら、それはやはりただのゴーレムのままであるとは思うが。
「そうだ」
人間的な部分から離して考えるなら、いっそロボットにありがちなドリルアームだとかパイルバンカーだとかを付けてみるのも良いかも知れない。ワンチャン、搭乗できるようにしても良い。出来が良ければ異世界にでも放置してみようかな。魔族との戦闘が盛んな地域なら、有効に使って貰えるかも知れないし。僕も僕のロボットに誰かが乗って戦ってるところを見てみたい気持ちはある。
逆に、人間的な部分に近付けるなら……というか、生物的に考えるならば成長性のあるゴーレムなんかも作ってみたいね。高知能で自己複製能力を持ってるとか、やろうと思えば今の僕でも別に出来そうだ。それか、自分で素材を見つけたり術式を学習して自己を改良していくゴーレムなんかも作ってみたいな。そっちは今の僕の技術だと上手く形には出来ない気がするけど。
「……それをするなら、それこそホムンクルスで良いってなっちゃうか」
小さく呟いた僕は、溜息を吐いて無意識に俯いていた視線を上げ……隣を歩いていた男がこちらを見ていることに気付いた。
「ッ、な、えっ……?」
「フフッ」
困惑の声を上げた僕に、男は楽しげに笑った。しかし、それにしても何と言うか、特徴的な男だ。後ろに少し長く伸びた、青の僅かに混じった黒い髪。細い目はどこか胡散臭い雰囲気を醸し出している。
「さっきのお話について詳しく伺ってもよろしいですか?」
「えっと、さっきのお話って言うと……?」
「その、ホムンクルスがどうとかっていう話ですよ」
「え、あー、あはは、アニメの話ですよ」
僕が言うと、男は更に目を細め、口元の笑みを強めた。
「勿論。言われなくとも、普通はアニメや漫画の話でしか無いでしょう? というか、それ以外にありますかね?」
「ッ」
そりゃそうだ。だけど、こんな話をしてきている以上……この男もまた、魔術士関連の奴であることは間違いない。
「……なんか良く分からないですけど、何か用ですか?」
「クマスクなる組織が崩壊したらしいですね」
ッ! こいつ、予想より深く知ってる。ていうか、敵か。敵だろう。ただ、人払いはしてないようだけど……流石に、ここで暴れるつもりで来てるって訳では無さそうかな?
「いやぁ、知らないですね。何ですかその組織? マスクの会社かなんかですかね、はは」
「笑いが乾いていますよ? それに、目がさっきよりもずっと真剣だ。何か、気になることでも無いとそんな目はしないと思うんですがね……そこのところ、どうでしょうか? 宇尾根治さん」
「……」
知ってる。既に、こっちの事情は把握してる……クマスクの壊滅から、もう僕の名前やら通ってる学校やらまで特定したのか。確かに、碌に隠してはいなかったけど……思ったより早いな。
「おっと、そんな目で睨まないで欲しいですね。えぇ、申し遅れましたが……」
男は足を止め、僕も合わせて足を止めると、僕の正面に回り込んでにやりと笑い、頭を下げた。
「お初にお目にかかります。私の名前は三嶌 礼。どこにでもいる魔術士の一人です。今後とも、よろしくお願いします」
三嶌 礼。どこか耳に覚えがある……いや、そうだ。ユモンが言っていた胡散臭い男だ。少なくとも合った時には友好的だったと聞いていた、けども。
「……割と人通ってますけどね、ここ」
「えぇ、問題ありませんよ。私、貴方以外には意識されないようになって居ますから」
最初っから僕狙いって訳だったんだね。いや、分かってはいたけどさ。
「それで、結局のところさ……何の用なのかな?」
「……貴方もまた、狙われていますよ。それに、貴方達の行動ルーティンの中で、最も襲撃が容易なのは貴方だ」
「つまり、一番襲撃される可能性が高いのは僕だってこと?」
「そういうことです。それに、既に動き始めているようですので……どうぞ、お気を付けくださいね」
男は、三嶌はにやりと笑って頭を下げると、あっという間にその場から姿を消し去った。
「……何だったんだ」
敵か味方かも分からないような相手だけど、取り敢えずその忠告だけは受け取っておくことにした。




