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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と真人間

 世界が加速していくような感覚に、どこか忙しなさを覚えながらも周囲を見回すが、違う。加速しているのは僕自身だ。寧ろ、世界は停滞している。


「これが、超感覚か……」


 正に、って感じだね。飛来した銃弾をスローモーションのように捉えながら回避し、僕は呟いた。


「よいしょ、っと」


「速い……ッ!?」


 身体強化も併用し、距離を詰めると銃を構えていた男は目を剥いた。咄嗟に膝を突き出して僕を蹴り上げようとした男だったが、今の僕には遅過ぎた。


「はい、没収ね」


「なッ」


 拳銃をひょいと奪って、反対の手で首筋に指先を滑らせると、魔力が放たれて男は目を見開き、気絶した。


「『魔猛(ギナ・レ)――――」


 続いて、魔術を放とうしていた男に一瞬で詰め寄った僕は魔力を纏った手でその魔法陣を貫きながら男の胸倉を掴み、思い切り地面に投げつけた。


「ぐッ、ァ……!」


「させないよ」


 地面に倒れながらも、密かにポケットに伸ばそうとした手を踏みつけた僕は、そのまま男の首筋に軽く手刀を叩き付けて意識を奪った。


「『霊凍窮(クラシ・スペリクタ)』」


「『魔暴球(ティラニー・スフィア)』」


 その僕を、足元の男ごと冷気が覆い尽くした。外側から僕を中心に押し寄せるようにしてくる冷気は、単純な身体強化程度では耐え切れない程に冷たく、僕から熱を奪い去って行く。そして、そこに飛来する巨大な魔力の球体は周囲の魔力を吸い込んで奪い取りながら迫り、それが近付くにつれて僕の中の魔術も不安定化するのが分かった。


「本当に、恐ろしいよ」


 僕は溜息を吐き、思い切り地面を蹴ってそこから跳び退いた。直後、巨大な魔力の球体が冷気の檻の中を通り過ぎていく。壁にぶつかると凄まじい爆発が巻き起こり、そこには大きな穴が開いていて、その威力を物語っていた。


「戦い慣れた魔術士って、こんなに強いんだね」


「ッ、どこからそんな魔力を……!」


 冷気で身体的な動きを封じられ、魔力を吸収する球体によって魔術及び魔法陣の構築を妨害する。確かに、まともに戦えば詰んでいたことは間違いない。僕があそこから抜け出したのは、単純に魔力を身体強化に大量に注ぎ込んで、無理やり突破しただけである。


「こんなのが大量に敵になってるなんて考えたら、普通は怖くて眠れないよ」


 それでも、懸命に日々を送っている事務所の人たち。彼らもまた、強い魔術士ということなんだろう。ただの戦闘力だけじゃなくて、精神的にも。


「『霊――」


「あ、もうさせないよ」


 再び魔術を唱えようとした男の顎をかち上げ、そして残す一人の方へと滑るような動きで接近して、構えようとした所を足払いで崩し、倒れていく所に蹴りを食らわせて気絶させた。


「ふぅ、これで取り敢えずは片付いたかな……あ、そうだ」


 そういえば、一応この黒い靄状態の時の為に作った強化用の魔術があるのを思い出した。今から増援も来る所だろうし、それに備えて使っておくとしよう。


「『暗影纏い(ダークシャドウ)』」


 暗い闇をローブの如く全身に纏った僕だが、それでも視界は明瞭のままであり、寧ろさっきまでよりも頭の中が透き通ったような感覚になっている。

 主に速度、耐久、感覚、情報処理を強化するこの魔術だが、一応攻撃力も上がってはいる。今の僕ならば、大抵の相手を認識すらさせずに倒してしまえるだろう。


「さて、と……」


 今の僕になら気配も手に取るように分かる。一軒家のような形状になっているこの屋敷を囲い込むように、十三人。恐らく、何らかの手段で連携して迫っている。中の人間がやられたことは察知しているか、最初から割り切って陣形を組む時間を作っていたか……情も無いようなやり方で襲って来る相手である可能性は高い。


「来たね」


 玄関の方から物音が聞こえた。瞬間、その反対側から壁を突き破って魔力の槍が迫った。物凄い速度で空を切り裂いて来たそれだったが、僕は当然それも認識していた。故に、当たる訳も無かった。


「撃てッ」


「死ね……!」


「西和田さんの仇だッ!」


 左右から囲み込むように現れた男達が、その手に持った拳銃で弾丸を放つ。お互いに当たらないように僅かに位置をズラしているのも、連携力と言うべきか。


「仇とか、そういう概念あるんだね。君らにもさ」


「ッ、当たり前だ……! 俺らはお前と違って人間だからなッ!」


 銃弾の全てを軽く避けながら、僕は溜息を吐いた。心外だなぁ。少なくとも、この中だと僕が一番の真人間な自信はあるけどねぇ、流石にさ。


「罪のない他人を傷付けて、恐怖を与えて、それでお金を貰って生きてるんじゃないの? こんな見た目でも、僕の方がよっぽど人間じゃないかな」


「罪のない人間なんて居ねぇよ、バァカッ!」


 暴言と共に、吐き散らすように放たれた弾丸を、僕は咄嗟に手で受け止めた。


「……確かに、それはそうかも」


 僕だって、いつか何かの罪は犯している。きっと、誰だってそうだろう。


「けど、それで君達を見過ごすって話にもならないんだよね。残念だけど」


 自分の行いが正義であるのか、果たして何を以って悪とするのか。そこら辺は考える余地のあることだけど……少なくとも、一般人にも簡単に手を出しているであろうこの組織は僕の価値観に置いては間違いなく悪である。


「この組織がどのくらいの人を抱えてるのかは知らないけど……一先ず、君らだけでも眠って貰うよ」


 既に傷が付きまくっている床を蹴りつけて、駆け出し……そして、窓が割れ、扉が破られ、壁が壊れる音があちこちから響いた。


「……おっと」


 僕は小さく呟き、足を止め、視界を埋め尽くすような勢いで、濃い緑色の触手が無数に家に飛び込んで来るのを見た。


「来てくれたんだ」


 僕は小さく笑い、無数の触手達が男達を蹂躙していく様を黒い靄の中から見ていた。

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