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ある日、僕は全知全能になった。  作者: 暁月ライト


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全知全能と尋ねる人

 背後から聞こえた声。その声の主は、冷たい鋼を静かに僕の首に沿わせていた。


「聞かれた質問にだけ答えろ。良いな?」


 これ、首振って良いのかな。喋るのは駄目って言ってたけど、質問に答える分には良いってことかな?


「先ず、最初の質問だ……お前は、アイツらとどんな関係だ?」


「……」


 え、喋って良いのかな。良いってことだよね、これ。


「……喋って良いですか?」


「だから、そう言ってるだろうが」


 さっきは殺すぞって言ったじゃんか! 言ってることが二転三転してるよ。知らないけど。良し、ここは一つ格好付けるとしようか。


「お前達に話すことなど何も無い」


「何だお前は急に……?」


 困惑されたが、それと同時に首筋に添えられた刃をより強く押し付けられた。あ、あれ、肌切れてる? これ? 僕、大丈夫だよね?


「良いか、喋らなければ殺す。それだけだ」


「……何で言われても、同じこと。お前達に話すことなど、ただの一つも無い」


 僕がそう喋った瞬間、背中を蹴られて僕は地面に倒れ込んだその上に覆い被さって来た男は、冷たい刃を首筋に押し付けて尚も僕の動きを封じ――――。






 ♦




 目を開くと、そこは暗い地下室のような場所だった。どうやら、さっきまで僕は気を失わされていたらしい。その証拠に、僕の目の前には監視するように一人の男が木製の椅子に座り込んでいた。


「目を覚ましたな」


「あの、すみません。ここ、どこですか?」


「……呑気な奴だな。そんなに死にたいのか?」


 さっきの男とは声が違う。多分、それなりに人の居る組織だったりするんだろう。とは言え、彼の言う通り呑気に考察して居られるような状況では無いみたいだ。

 僕の両手は椅子の後ろに鎖のような何かで括り付けられているみたいだし。同じく足も椅子の足に縛られている。


「お前が何かを知っているということは既に分かっている。お前達に話すことなど何も無い、だったか? つまり、少なくともお前は何かは知っているということだ」


「……何も知らないです。帰してくれませんか?」


 一応、お願いしてみた。もし、これで帰してくれるような人なら何もする必要は無い。そんなこと、きっと有り得ないだろうけど。


「何だ? 勘違いしてるのか?」


 男は、パチッと膝を叩きながら立ち上がり、壁際に置かれている道具を拾い上げた。どうやらそれは、ペンチのようなものに見えた。


「大した道具は無いんだがな、それでも爪を剥いだり指を潰したりは出来る。見た所、素人のお前を吐かせるには……それくらいで、十分だろう?」


「……かも知れないね」


 流石に、怖くなってきたよ。アレで爪を剥がされたりなんて考えたら、足元から寒気がよじ登ってくるような感触がする。僕のバリアは、死に繋がるものには反応するが、爪を剥がされるくらいじゃ流石に反応しないだろう。


「俺は意外と、これで痛めつけてる時間が嫌いじゃなくてな。あぁ、脅かす為に言ってる訳じゃない。どうせ、お前が喋らない限りは使うことになるからな。俺は警察でも何でもない、だからこれを使うことを躊躇う理由も無い。分かるよな?」


「ッ!」


にやりと笑って言う男は、確かに本当に楽しそうに見えた。いや、本当に楽しんでいるようだった。


「さぁ、最後のチャンスだぞ。お前の持ってる情報を全部吐け。手始めに、アイツらとお前の関係について話せ。十秒以内だぞ」


「……今止めてくれるなら、僕も許すよ」


 笑身を浮かべながら、男は僕の後ろに回り込み、若干錆びが付いたペンチを椅子の後ろに括り付けられた手に触れさせた。どうやら、改めるつもりは無いらしい。


「十……九…………八…………」


「時間切れだ」


 ペンチに籠る力が僅かに強くなったのを感じて、僕はそう返した。腕を縛っていた鎖が外れて地面に落ち、椅子に括り付けられていた足の拘束も外れる。


「ッ、何が……」


「そうだ、先にやらないとね」


 僕はこの部屋に存在するカメラ等の監視用の設備の全てを破壊した。ガラスの割れるような破砕音が部屋の中に響き渡り、自由になった僕は男の方に振り返る。


「特に個人的に恨みがある訳じゃないけど」


「ッ!」


 男はペンチをこちらに投げつけて、そのまま即座に手の平を僕の方に向ける。ペンチは僕に触れるより先に何かの力によって弾かれ、壁にぶつかって地面に落ちた。


「だけど、捕まったのが僕じゃなくて仲間だったり、それにもしかしたら家族だったらなんて考えたら、さ……」


 妹が一人であの事務所を訪ねる可能性も、無い訳ではない。その帰りに捕まって、こんな拷問紛いの……いや、拷問をされるって考えたら、どうしてもただ許すことは出来なかった。


「『水撃叉(アクアピアース)』」


 男の手の平から、DNAのような二股で先端が槍のように尖った水流が猛速で迫り、僕の体に触れようとするが……触れる瞬間に、それは弾け飛んだ。


「ッ、何だお前は……ッ!?」


「だから、こうすることにしたよ」


 僕が手の平を向けると、男の体が壁際まで吹き飛んだ。そのまま、抑え付けられたように男は壁際に四肢を広げたまま動けないで居る。


「何をしたッ!? 何で動けないッ!? 魔力は感じないッ、魔術じゃないなら、どうやって……」


「じゃあ、ね」


 男の姿が、そこから跡形も無く忽然と消え去った。勿論、消してしまった訳でも無いし、殺した訳でも無い。ただ、どこか遠くに飛ばしただけだ。


「真っ新になってやり直すんだ」


 今日から、彼は悪行に走る度に凄まじい苦痛に襲われるようになるだろう。そして、自分の犯した罪の分だけ善行を積もうとしなければ毎夜痒みに襲われるだろう。自死することも、許されない。同時に、僕以外の誰からの記憶からも消え去った彼は、誰かに追われることは無い。再び、同じ道に連れ戻されるようなことも、新たな道を閉ざされることも無いだろう。


「なんで僕が、こんなに悩まなきゃいけないんだか……ね」


 悪者なんて、一撃で吹っ飛ばして終わりで居られたら良いのに。どんな解決でも出来る僕は、丁寧過ぎるようなやり方を選択肢に入れずには居られない。力に伴う責任を、僕はどうしても無視は出来なかった。

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