第23話
だめだな。まだカルチャーショックというのが抜けてない。他の手を打とうにも、もう時間切れだ。そろそろ合流しないと。
まったくもって、釈然としない話である。
とぼとぼと歩く俺は顎に手をやる。
現代日本でいえば、たしかにあの施設――行政は確実にアウトだ。だが、この世界ではまかり通るし、まかり通らなければおかしいのだ。そういう風に作ったのは……まあ、総教皇なんだろうな。本当にトモノヒ教に入信していないと人間扱いされないようだ。しかしこんな扱いされても俺は入りたくない。なんかそうしたら負けな気がする。かといって、このままだと戦っても負けな気がする。
割と詰んでね、これ。
せめて武器がないと本当にどうしようも。
「おらよ」
飛んできた細長いものをとっさに掴む。
「アータの分」
馬車の前でたたずんでいたミツルはそう言った。俺は受け取ったものをまじまじと見る。鞘に納まった、まさしく日本刀である。抜いてみると、鈍い光が俺を照らした。うーむ。業物。いや知らんけど。
「俺がもらっていいのか?」
多分発掘品を洗って研いだものだろう。
「科学者がアーシらに持っていてほしいって。宿屋の礼? みたいな?」
アフターサービスみたいなもんか。無駄に高い金払った価値もあったみたいだ。
「アーシにはこっちがあるから」
ミツルは手元のものを掲げる。ぼろ布に包まれたそれは細長く、大きさは俺の持っている刀と同じくらいである。
ひょっとしてあっちが当たり武器なのでは。
「見せたろか」
「見せて」
俺の視線に何か察したのか、そんな申し出をしてきたので、即答した。これでこいつだけチート武器だったら厚底ブーツをビーチサンダルにすり替えてやる。
するする。巻かれたぼろ布が解かれていく。
名刀? 妖刀? 魔剣? 聖剣?
期待感高まる俺の顔は、次第に期待に満ち――――
一気に冷めた。
それは細長い鉄の棒で、先端にはひし形でピンポン玉大の鉄塊がついていた。それはまさしくたまの休みに世のお父さんが家族サービスを放棄して握るものであり、その名は、
「五番アイアン」
武器ですらねえ!
見せびらかすギャルのあまりのドヤ顔にツッコミは飲み込んだ。なんだこいつ。ひょっとして褒めてほしいのか?
「いいアイアンですね」
自分で言っててなんだがいいアイアンってなんだ。ゴルフのゴの字も知らねえからわからん。
「ま、アーシには刃物なんて無粋なものよりこっちの方がしっくり来るんで」
「そりゃよかった」
そっち渡されなくて本当に良かった。
「皆さん、そろそろ出発だそうです」
マオの声に、俺とミツルは顔を暗くした。それはつまり荷造りが終わったわけで、そこの隙間が俺たちの指定席なわけだ。無骨な木箱に申し訳程度の布がかかっただけで、当然クッション性は皆無。尻にささくれや突起が刺さるから深くは座れない。そのため、途中で立ち上がってみたり半分空気椅子だったりするわけだ。いやはや、異世界は存外不便だ。
「強くなる方法ですか?」
乗り手のおっさんの気の抜けた声で、馬が動き出す。直後、人への配慮がまったくない揺れが俺たちを襲った。
「職業に頼らない方法で」
右に左に揺れる体を、そばの荷を掴んで支える俺にマオは人差し指を自身のほっそりした頬にそえて、
「基本的には、まず職業を選定してから、がスタートになります。適正にせよ要望にせよ、特定の職業を決定してから、それを指針に鍛錬していきます」
そりゃそうだ。戦士が魔法に集中しても、賢者が筋力に集中しても見当違いの骨折り損というものだ。
「職業に見合った技能や恩恵もありますし、鍛えたいものがあるなら、やはり職業が前提となります」
マオは異世界ハロワのこと知らないんだろうな。使ってないみたいなこと言ってたし。
「それ抜きで考えると、通常の鍛錬というものはひどく効率が悪いです」
職業ブーストかからないからな。糞みたいな縛りプレイだ。
「相対的にはそれで強くなるとは考えられないです」
仮に、同じ力量で同じ鍛錬をしても、結局は職業の有無で優劣がつくわけだ。これには返す言葉がない。
「もちろん職業を選定しないまま、膨大な時間と労力を費やせば、ある程度は強くなるとは思います。ただそうなさるくらいなら……」
素直に就職した方がいいわな。ついでに言えば、そんな修行したくない。
「やっぱ無理かな」
「装備できるものも限定されてきますからね」
うなだれる俺に、「でも」
「その方自身が強くならなくても、その方自身を強くする方法はありますよ」
「…………?」
とんちめいた言葉に首をかしげる。
「融合魔法」
知識を披露するのが、それとも誰かに物を教えるのが楽しいのか、マオは声を弾ませた。
「たとえばその方より強い精霊や妖精と一体になれば、その方はその融合対象と同等かそれ以上の力を得ることができます」
要は合体か。
「非現実的な方法ですけどね」
ちょっと前向きになりかけた俺に、マオはそう締めくくった。
「つまりそういう強いの捕まえればいいんだろ? ダメなのか?」
「自分より強い存在をどうやって従えるのですか?」
「…………あー」
自分より強いやつと融合すれば強くはなれる。しかし、そんなやつにどうやって言うことを聞かせるのか。向こうからすれば、なにが悲しくてろくなコネもステータスもない無職に力を貸さなくてはならぬのか。俺だっていやだ。
「仮に融合の了承が取れたとしても、融合が成功するかは別問題なのですよ」
たたみ掛けるようにマオの講釈は続く。
「あまりにも力量や相性が合わないと、それだけ成功の確率は下がります。つまり、失敗しやすいのです。ただの失敗ならまだいいのですが、その時にかかる負荷は、場合によっては心身に重大な影響を」
…………本当に詰んだかな、こりゃ。
それからも展開し、時には脇道にそれるマオ先生の授業をBGMに、俺は馬車に文字通り揺られた。
「べーつに無理して強くなることないんじゃないの」
到着した馬車から崩れ落ちるように這い出た俺の後ろからミツルが顔を出した。吐くならもう少し離れたところでやれ。ここは俺が先に見つけたベストスポットだ。
「諦めてたまるか。こっからお前、あれだ、なんかあれして、めちゃくちゃ強くなるから、きっと」
俺は腕で雑に口を拭ってから言った。
「ホントーにそう思ってる?」
「…………」
「割ともう投げてんじゃねーの?」
ミツルは青い顔して座り込む。
「アーシがお情けで武器あげたんだから、もうそれで満足すれば」
ギャルは天高く浮かぶお天道様を見てなにを思うのか――まあ何も思ってないな。
「俺は魔王を倒して世界を救う勇者だぞ」
「あほらし」
それだけ言って、持ち直したらしいミツルは馬車の方へ戻っていった。
あいつの言いたいことはわかるし、一理あるのだ。
魔王討伐だの勇者だののたまっているが、それは『そういう物語』がテンプレになっているからだ。なんの因縁もない魔王倒して何になるというのか。とりあえずなんかやってます感出してるだけだ。でも、それでいいじゃないか。そういうありきたりな物語に身をゆだねて何が悪いんだ。みんな、『そういう物語』に夢中だろ。わかりやすい巨悪に立ち向かい倒す英雄。そして世界は救われめでたしめでたし。なんの問題もないケチのつけようのない素晴らしい物語だ。
俺は到着した街を見上げる。一度も来たことはないが、既視感がある。
宗教都市トルカ。
トモノヒ教の総本山。
「あの、ここって」
「あれ? 言ってなかった? 俺はトルカまでの便担当」
「でも地図だと、エマスラからならもっと中央寄りのルートがいくつか」
楽しそうな様子が一転、マオは浮かない顔で地図を開く。無理もない。荷馬車の中じゃ窓なんてないから外は見えないし。いざ次の街と降りたら、そこがトラウマのある場所じゃな。
「いつもならそれでもよかったんだけど。例の魔王討伐軍のゴタゴタでね」
「……魔王討伐のためにいくつかの街が合同で戦力を集めたという、あれでしょうか」
「ああ。それで交通網はまずズタズタ。無理な強行軍でうちの組合も馬車は取られるし流通スケジュールはめちゃくちゃ。道も荒れ放題。そこにあの〝炎獅子〟が来ちまったからな」
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https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
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それではまたどこかで。




