第22話
はて……
一通り品物を物色した俺は頭を傾げる。肝心要のものがないじゃあないか。
店先できょろきょろしてた俺を商機と見たのか、はたまた不審者とでも思ったのか、奥のカウンターにいた店主がやってきた。
「何かお探しですか」
「ポーションどこです?」
「ポ……?」
割と若いバイトリーダーみたいな見た目の店主は不思議そうにした。あの寂れたスラーオと違って、ここはまだ活気もあるし、店だって大きい。さすがに扱っていないなんてことはないだろう。ひょっとしてこの世界じゃ別の名称なのかな。
「回復薬というか、傷薬というか……ケガを治す……」
すると店主は顔をポーションみたいな色にした。そうそう、そんな色した液体。そんな高度なボディーランゲージしなくてもいいのに。俺が店主のかくし芸に感心していると、腕をひかれ店の奥につれていかれた。何をするの乱暴する気なの?
「トモノヒ教徒ではないんですか?」
「無神論者です」
「なんてことだ……」
「おお、神よ」と言わんばかりに仰ぐ店主は、引き出しの聖書片手に説明をしてくれた。
「つまりですね、傷を癒す草、病を治す水といったものは、使えば魂の穢れとなり、神に背くとされています。使用はもちろん、所持や栽培も禁忌とされています」
んなアホな。麻薬かよ。
「でも回復魔法はありなんですよね?」
「打ち身や切り傷など、あくまで自然治癒力を高める効果のある魔法は認められています。しかし、病気や猛毒の治療に該当する魔法は禁止されています」
つまり回復アイテムはNG、魔法も状態異常回復はだめ。なんだその縛りプレイ。
でも……
「信者じゃなければ関係ありませんよね、それ」
でも俺トモノヒ教徒じゃないから関係ねえ!
「そう言って密造をしてどれだけの人間が処刑されたか……」
ドヤっていた俺に冷たい現実が突き付けられた。
「ただでさえ肩身の狭い非トモノヒ教徒は、どんな目に遭わされても誰も助けてくれません。人間扱いされないのです」
「ですよね」
俺はもはやうなずくしかなかった。大多数の信仰する宗教とは、それ自体がその世界の規範であり価値基準なのだ。マオの両親が処刑されたガバガバ裁判を見るに、司法も牛耳られているのだろう。異教徒は弁護士をつけてもらえることもなく、そのまま死刑執行コースだ。
「いいですか? 病も傷も、試練なのです。それを乗り越える者のみが生き、そうでない者は死ぬ。それが神の定めた理……摂理なのです」
「そうですか。じゃあ今度本当にそうなのか聞いてみます」
「?」
頭上にはてなマークを浮かべる店主に別れを告げ、俺は何も買わずアイテム屋を去った。
さて……
ふらふら歩きながら、俺は思案にふける。
教団がなぜ回復アイテムを禁じているか。白々しい教義は置いておいて考えてみる。
教義……教団の意思という建前ではあるが、根本はあの総教皇の思想と見ていいだろう。総教皇はなにを思ってそんなことをしているのか。そこを突き止めるのだ。
俺は行き交う街の人をチラ見する。それがこの世界の――この世界の住人でも到達できるような魂胆なら、もうとっくに解決しているであろう。それこそ勇者様が見事に解決して大団円だろうさ。
俺がここにいる意味――神が俺を遣わせた思惑を探る必要がある。
…………いや最初に神がネタバレしろって話なんだけどな。ミツルにも教えてねえみたいだし。
まあ、要するに答えを出すのも俺次第で、その上でどうするかも俺次第ってことなんだろうが。すげえ丸投げ。神とやらはサイコロは投げるがその先までどうこうする気は本当にないらしい。
とりあえず、ここまで前提条件がそろっているなら、ある程度当たりはつけられる。
俺と総教皇の共通点、お互いの生前の共通項から導きだせばいい。
回復薬と回復魔法――もっといえば薬や医療の禁止。
そんなもの、かつてのあの国に生きる者なら、誰しもが思い、そして誰もが実行できなかった手段だ。
そうしなければ民の代わりに国が病むと、みんな思っていても、口には出せなかった。
総教皇の狙いは、そういうことなのだろう。
――もっとも、答え合わせは必要だが。
俺は鼻から深い息を吐く。これは、一度、総教皇猊下に謁見しなきゃならないな。避けて通れるならそれに越したことはないが。どうもマオの件を解決するには、強制イベントっぽいんだよな。
「あ」
ふらふら歩いていたら、ふと、とある施設の看板が目に入った。
『職業選定所』
これはきっとあれだ、異世界ハロワだ。ここらへんの行政まわりも丸パクリしたんだろうな、総教皇。
なにはともあれこれはラッキー。無職がコンプレックスなところにこれは渡りに船というもの。このままじゃロクな武器も技能もつきやしない。なんかもう、なんでもいいからジョブチェンジしよう。
俺は暇そうな門番にペコペコしつつ扉を開く。中はだいぶくたびれた内装で、中央に筆記用の机と提出書類が雑多に入った棚。奥に不愛想な受付。うん、まさしく公共施設だ。市役所っぽい。
とりあえず壁に貼られたフローチャート通りに書類を取って書けるところを書いた。こういうのは、一人でああだこうだやるより、書けるだけ書いていったん出した方がはやい。俺は笑みの欠片もない見た目二〇代そこそこの受付の女性に申請書を出した。
彼女は無言で書類を眺め、ややあってこちらを向いた。
「『教徒番号』が記入されていませんが」
「ああ、それ何かよくわからなくて」
「…………」
世間知らずを見るような眼をされたが、実際世間知らずであるのだから致し方がない。
「教徒番号とは、教団に籍を有するすべての方が持つ番号です。あらゆる分野の手続きにおいて、個人の情報の開示や提供に使われます」
マイナンバーかよ。
「いや、そういうのは特に」
あるわけないだろ。
「教徒なら全員付与されているはずですが。宗門人別改帳を確認してまいりますので、所属されている教会名と洗礼者を教えてもらえますか」
「あ、そういうのないです。教徒じゃないんで」
すると受付さんは目をそらして、
「それでは、申請は受理できません」
…………?
「どういうことですかね」
「ですから、こちらの『職業希望申請書』は受理できないということです」
「トモノヒ教徒でないからですか?」
「はい」
あっさりしっかり、断言してくれちゃった。
「それおかしくないですか?」
これはさすがに俺も異議ありである。
「ここって公共施設ですよね」
「そうですが」
「特定の宗教団体に入ってないと使えないなんておかしいですよ」
「はぁ……」
「何言ってるんだこいつ」みたいな顔された。
「規則なので……」
なんともお役人の鑑のような対応である。
「その規則のどこに正当性があるのか教えてください。そうじゃないと筋が通らないでしょう」
迷惑そうだが、こっちもたまったものではない。あんなイカレ宗教に入るくらいならもう一度死んだ方がマシである。かといって、このままでは無職継続である。頼りにしてた神殿ポジのここが門前払いなら詰むわけだ。
「規則ですから……」
とりあえず規則言っとけモードに入った受付は背後に目をやる。すると奥のデスクで事務仕事をしていた一人が何かを察して立ち上がり、わきの扉を開いて消えていった。と思えば、甲冑をがっつり着込んだ屈強な男を二人ばかりともなって戻ってきた。さっきの門番が職員用通路から出てきたようだ。
あ、これアカンやつだ。
「いやーそうですねー。規則ならしょうがないですよねー」
これ以上深入りしたら最悪また死ぬ。
前世の経験から俺は素早く手のひらを返し、
「それではこれで」
とっとと逃げた。
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それではまたどこかで。




