第21話
「アーシがいない間に、またなんかあった?」
「さあてね。……とりあえず今日は個人行動でいいか?」
女将との別れの挨拶もほどほどに、旅館の前で俺は提案した。
「昼までに馬車のところに集合って流れで」
「わかりました」
「アーシも別にそれでいいけどさ。アータ何しに行くの?」
「服買うんだよ」
寝起きで目が半開きのミツルに対し、俺は着古したパーカーのフードを引っ張ってみせる。
「いい加減この格好は場違いすぎんだろ」
「あっそ」
最も場違いなやつは興味なさそうに返事した。
「アーシがコーデしてあげようか」
「遠慮しとく」
もっとおかしな格好になるだろ絶対。
「マオはどうする? あー、言いたくならいいけど」
「私は遺跡というものを見てみたいです」
昨日ハブられた感じになったの気にしてるのだろうか。旅を楽しんでそうな今までの感じに戻ったからまあいいや。
「じゃあ案内頼むわ」
俺に話を振られたミツルは不承不承といった風ではあったがうなずいた。どうせ暇なんだろうし、否定する理由もないのだろう。
さて、と。
女子二人の遠ざかる背中を見送って、俺は歩き出す。
道中、道行く人の姿を改めて見る。服装のセンス、トレンドをそれとなくリサーチしてるわけだ。まあ、よくある村人風の外見だな。これに合わせておけば浮くことはないだろうが、俺勇者だからな……もっとそれっぽい服装が相応しい。いかにも勇者ですといったコスチュームが売っているような服屋がないだろうか。
まあ、ないわな。
「あるよ」
ダメ元で服屋の店員に話してみたら、こう返ってきた。
「その手のは売れ筋だからね、どこの店でも並んでるよ」
あれか、プロアスリートのユニフォーム的なあれな感じかな。
「最近入ったのは、このモデルだね」
棚にたたまれて平積みされていた服を店員が広げてみせる。
「先代魔王を討伐した勇者アルロト・ドルフ・ロイアス・ラフォン公の装束」
なんというか、いかにもといった見た目であった。緑を基調とした、既視感のあるような勇者っぽいコスチューム。
同じ棚に並べられている勇者服シリーズも似たようなもんだ。セオリーというかドレスコードみたいなものでもあるのだろうか。
「かの六英雄に名を連ね、トモノヒ教直属の勇者にも選定された英傑。今となってはその子息が後を継いで教団選任勇者に」
「じゃあそれください」
このままおとなしく聞いてたら日が暮れそうなので長ったらしい能書きをぶった切る。まあいいや、なんでも。
とりあえずそれっぽい格好でもしないと、このままでは勇者以前に不審者扱いだ。
「ありがとうございました」
買った服を早速着た俺はルンルン気分で店を出る。いよいよ勇者っぽくなったな。見た目だけは。
「さてと次は」
何をしようかとキョロキョロすると、香ばしいかおりが鼻をくすぐった。見ると、いかにも縁日の夜店でありそうな屋台があった。焼き鳥でも焼いているように見えるが……焼いているのは鳥なのかはわからない。
「一本ください」
「あいよ」と店の親父から買った串を眺める。肉のようなものと野菜のようなものを交互に刺して焼いてある。バーベキューみたいなものか。
「…………うーん」
少し離れたところであぐあぐやってみると、その、まあ、ありていに言って……
うまくねえ。
「品種改良してなきゃこんなもんかな」
そこいらで獲れた動物とそこいらに植えてある植物を切って焼いただけだろう。この世界でそれなりに食べたけど、調理以前に、畜産や栽培……そういった文明とでも言うような技術はまるで感じられなかった。
実際、こういうもんなんだろうな。
〝お話〟じゃこういうのを美味そうに食うシーンはあるが、そいつはよほど今までロクなもん食ってきてないか、おめでたい味覚の持ち主なのだろう。
なんだかなあ。
しょっぱなからずっと、こんな調子だ。予想じゃもっとこう、チートで無双して、なんもかんも上手くいって……って、漠然と期待していた。それがここまで、悪い意味で予想を裏切られてばかりだ。転生早々死にかけるわ、武器も手に入らないわ、魔法もしょぼいわ、ゲロ吐きながら移動するわ……
憂鬱に遠くを眺めていると、視界の端に見覚えある赤があった。その赤は、最初に泊まった宿で見かけた少女だった。少女は、物陰から屋台を見ていた。
なんとなく近づいてみる。
赤いツインテールと赤いワンピースの彼女は、俺が――こっそりとはいえ――近づいたことにも気づかず、ただまっすぐに屋台を見ていた。
そんな珍しいものなのだろうか。
俺が不思議がっていると、その疑問はすぐに解決された。
耳にかすかに聞こえてくる腹の虫と、少女の唇の端にうっすら浮かぶものを目にしたからだ。
ふーむ。
数秒ほど、俺は顎に手をやったが決心し、再度屋台へ出向いた。そしてこう言った。
「今焼いてるの全部ください」
ご丁寧に袋に入れてもらった三〇本ほどを抱えて、俺は少女のところに行った。彼女は俺を不審そうに見上げている。
「買いすぎたから手伝って」
我ながらざあとらしい誘い文句である。
この街に到着したときに降りた川は舗装された立派なものであり、その川岸には腰を落ち着けるベンチが並んでいたのを思い出した俺は、そこに少女を誘った。
〝待て〟のままで、ずっと視線が俺の抱える袋に釘付けの燃えるような赤い瞳に、「いいよ」と言った。すると袋を受け取った少女はベンチに背を預けて、中身に手を出した。
よく食うなぁ。
ガツガツと噛んで串焼きを文字通り消えるように食っている。そのうち、一本・一本じゃ追いつかないらしく、指全部で串を挟んだ。通称バルログ持ちである。器用というか食い意地はってるというか。
そんなに美味いか?
一本つまんで口に含み、恐る恐るかじってみる。
うーん…………
やっぱうまくねえ。
現地民にはこれがウケる味なのだろうか。まあ現代日本レベルを要求するのは酷ではあるが、改めて自分は恵まれた世界にいたようだ。もっとも、技術的に恵まれていたというだけで、実質はクソゲー極まりないゴミだったことは今更言うまでもない。こうやって女の子にご飯あげただけで不審者扱いで通報だろうな、元の世界だと。世知辛いぜ。
しかし……
俺は横に座り貪欲に串焼きを貪り食う少女に横目をやる。まだお天道様も高い昼前だ。この子は学校に行っていないのだろうか。休みかな?
学校か……
「行きたかったな」
意図せず、ぽろっと口から出た。
足元の石を拾って川に放る。水面は小さな波紋を描き、やがて元の静止に戻った。
行きたかった。そう、学校には行きたかったんだ、本当は。
眠い目をこすって、嫌だなとか、休みたいとかぼやきつつ制服を着て、適当に朝飯つまんで、遅刻すれすれで教室乗り込んで……。退屈だなと思いつつ授業受けて、同級生とどうでもいい話して、帰り道は遊ぶ約束なんかして……
そういう日々が、送れたらと期待していた。
どうもそれは俺にとっては過度な望みらしく、現在に至るわけだが。それで多分にもれず異世界転生してみたものの、このざまだ。まともな職もねえ武器もねえアビリティもねえステータスもねえ。
魔法といったらこれだけ。
俺は人差し指をじっと見つめ、えいやっとりきむ。するとガス欠寸前のライターみたいな火が灯った。ちょっと温かい。
隣で袋を空にした少女はそれをじっと見ていた。ふふふ。どうだい俺の火炎魔法の威力は。怖かろう。悔しかろう。
「…………」
女の子は無言でその小さな両の手を広げて見せた。おっと降参かな?なんて舐めたこと考えた俺は速攻で打ちのめされる。
ボッ。そんなサウンドエフェクトをともなって、小さな指十本すべてに立派な火の玉がそれぞれに宿った。
やだ。俺の火力しょぼすぎ……
手のひらで唇を覆う俺をよそに、少女は食い散らかした串をそのままにして去っていった。飯をおごったら、なけなしのプライドを木端微塵にしてゴミだけ残していきやがった。この世界のようじょひでえ。ひでえよ。
ゴミを片付けた俺は引き続き街をぶらつく。武器屋をのぞいたら相変わらず装備できる武器なかった。一応なんかないのか店主に聞いたが、かわいそうなものでも見るような目で首を横に振った。火でもつけたろか、などと邪な思いを抱きつつ武器屋を後にし、俺はアイテム屋へ向かうのだった。
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https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
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それではまたどこかで。




