第24話
「ロ……灼熱炎魔、ですか……」
「およそ三〇〇〇人が、ものの見事に全滅だったと聞く。三日三晩は空が赤かったってな。それでいくつかの村や道も焼け野原。整備と復旧で一般の交通にはしばらく使えないのさ。組合でも自粛というか禁止令が出ててな。まったく、魔王の手下の四魔精一体でこの有様だ。本命には何千何万……」
あいつそんな強かったのか。ひょっとして俺たちとエンカウントした時は消耗してたんだろうか。
「今日はこの街に新進気鋭の選任勇者が来るらしいが、先代の親父のように勝てるかどうか」
選任勇者?
どっかで聞いたな。
「んじゃま、ここまでの付き合いだ」
俺が戻ると、馬車のおっさんは着崩した服を軽く揺らした。
「ここから先の道はどこも整備されてるし、足はここでならいくらでも見つからあな」
「ほんとー?」
「まあ……ここはトモノヒ教のど真ん中。信者じゃなければ最悪施設のすべてが使えないかもしれないが、次の街へは歩けばどうにかなる。道を外れなければ獣も出てこない」
「とりあえず異教徒だとバレなければセーフ?」
「そういうこと。俺も用が済めばここからは速攻離れる」
未入信ならまだ手心はあるかもしれないが、おっさんは破門だからな。どんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
「じゃあの」
遠ざかる馬車を見送っていたら、ミツルに小突かれた。
「で、どうすんだよ」
「思いつくことは色々あるけど」
交通手段の確保とか武器屋道具屋めぐりとか宿屋のチェックインとか。
それよりもまずは。
「ここの名所らしい裁判所にちょっとな」
マオが俯くのを俺は見逃さなかった。
その場所は、当時と――夢で見た場所と外観そのままだった。
「なんかこれイタリアかローマにあったよね」
「コロッセオな」
多分元ネタはそれか、はたまた現物がそのままこの時代まで生き残ったか……
どうもここは、何かなければ人は来ないらしく、入り口にも通路にも誰もいなかった。
「不用心じゃね」
「こんなとこ忍び込んでも盗るもんないだろ」
「こちらは裁判で使われている時以外は開放されているのです」
薄暗い、じめじめとした道の中、同じく陰気なマオの声が響く。
「ワオ」
ミツルの驚きに俺も目を少し見開く。
道を抜けた先には、やはり円形のだだ広い空間。学校のグラウンドくらいはあるな。
「あそこで罪人は審判され、裁きを受けます」
最奥の壁に隣接する祭壇のような舞台にマオは近づく。
『オジサンここで何してんの?』
『何って席取りに決まってんべ。明日の夕方ここで処刑が見れるってお達し出てたで。今のうちにいい席を取っとかんと』
『マジ? そんなの見たいの?』
『まー自分が見たくてやるやつもおるけど、おでの場合は席売りだな。当日にこの席を売るんだ。結構いい稼ぎになるでな。処刑もこんな娯楽のない街じゃ一大ショーだで』
『ほーん』
観客席のオヤジとアホ面で何やら話してるミツルは捨て置いて、俺はマオについていった。
ローブに身を包んだ少女は処刑台に上がり、しゃがみこんだ。
そこは、その部分だけは、石造りの灰色とは違って赤黒かった。
つまりは爆心地、ここで処刑が行われ血が流れ続けたわけだ。
当然、こいつの両親もここで。
「ここで死んだやつはさ」
つい、口が滑った。
「みんな悪いやつだったのかな」
そうとしか思えないくらい、自然に出てきた言葉だった。
「そんなことはありません」
小さいが、しっかりした声が返ってきた。
「そうは、思いたくないんです」
凛とした視線で見上げられた俺はうなずいた。
「そうだな」
今更ながら、気づいた。
――――『そこになら、きっと私の求める答えがあるはずなんです』
彼女が求める答えとは、きっと。
「俺もそう思う」
『それではこちらに教徒番号を……お二人様はトモノヒ教徒ではないのですか。それではお断りします』
…………。
『は? うちは異教徒お断りだよ帰ってくれ』
……………。
『とっとと失せろ。警備兵に突き出すぞ』
…………。
…………。
…………。
「ぜ~んぜっんだーめじゃん」
ぜえぜえ息を吐いてミツルがうめく。宿泊を断れたどころか通報された宿屋から路地裏まで逃げてきた俺たち。これで何件目だったか。馬車のおっさんの言う通りどころか、それ以上にひどい。人間扱い以前に害虫扱いだ。
まさか宿屋・武器屋・道具屋。冒険家の三大施設ぜんぶ使用できないとは。ああ、クソ。久しぶりに全力疾走したからわき腹が。
しかたない……
「ここを宿泊地とする」
「ふざけんな」
俺は慌ててしゃがむ。一瞬後、俺の頭があった場所にゴルフクラブが通り、壁と派手にぶつかって火花が散った。あぶねえな。
「ここで寝るとかそれこそ人間じゃねーよ」
「お前ストリートチルドレンの皆さんに謝れ」
たしかにここは汚い路地裏だ。薄暗いしジメジメしてるしなんかやばそうな虫も鼠もちらほらいる。でも言うじゃないか。住めば都だって。きれいなシートや天幕を張れば、きっと住みやすい環境に。
「あー、君たち」
この糞ギャルがギャアギャア騒いだせいか、一人の兵士がやってきた。なんというか、いかにも警備兵ですみたいな見た目。
「どうかしたのかな」
やべえ。職質だ。前世でも食らったけど、これこっち悪くないのにネチネチ因縁つけてくるやつだ。胸糞わりぃ。くそっ。なんだよこの強制エンカウント。イベントバトルか?
「ええと、その……」
俺は周りをキョロキョロする。どうする。やるしかないのか。なんでこんなことに。この糞ギャルのせいだ。糞ギャルが悪いんだよ……
「ああ、そうか」
何かを納得したらしい警備兵。俺は刀を握ろうとした手を止める。
「パレードならこっちだよ」
「ええと」
「ここは迷いやすいからね。よくパレードを見に来た子が迷子になっちゃうんだよ」
「そう。そうなんですよ」
そういうことにしておこう。正直に『異教徒だから追われてここにテント張ってゆるいキャンプでもしようと思ってました』とか言ったら絶対しょっぴかれる。
「それならこっちだよ。ついてきて」
親切にも案内してくれるらしい。誰も興味ないのに。路地裏から出ると、警備兵の同僚らしい武装した方々が五人ほどいらっしゃった。これバトルになったら詰んでたかもしれん。危ない危ない。
「あー」
「今は黙って合わせろ」
何か言いたげなミツルに耳打ちする。
「今回の選任勇者は期待の新人なんですよ」
案内する警備兵さんが気さくに話しかけてくる。この陽キャ特有の距離感なんかいや。
「あの六英雄のご子息で、教団が最も推してるんです。今回の魔王を討伐する日も近いでしょう」
「なるほどー」
すげえ薄っぺらい相槌をしつつ、脳をフル回転。今回ってことは、魔王って代替わりするのだろうか。結局魔王をその場で倒しても第二、第三の……ってパターンか。とすれば、そのたびに勇者なるものは現れるわけか。パレードってのはそれの壮行会みたいなもんか。
もう少し思考を広げてみよう。
勇者と魔王はその時々で代替わりを繰り返す。勇者は教団が指定する。教団が指定する勇者が魔王を討伐する。このサイクル、システムとは……
「いやーなんというか、俺もあやかりたいもんですよー」
探りを入れてみる。
「俺もああいう勇者になりたいなーみたいな」
「教団直属の選任勇者は一般勇者と違って、なろうとしてなれるものではありませんからね」
そこらへんは馬車のおっさんの言っていた、名前だけのお飾りの称号である勇者とは根本的に違うのだろう。トモノヒ教が後ろ盾になっている勇者、その中でも教団が直接管理している選りすぐりの勇者。勇者オブ勇者。信頼と実績のトモノヒ教ブランド。
「まず教徒の中でも優秀な層が勇者候補生として教団の目に留まり、その中でもさらに一握りが選任勇者として教団の信任を得ることになります」
「選ばれなかったらどうなるんです?」
「だいたいは教団の職員ですね。かくいう私たちもその選定に漏れた者たちでして」
苦笑する警備兵に、周りの同僚もわずかに声をもらし肩をゆらす。勇者のなりそこないは一般兵として再利用か。
「優れた血筋・家系。恵まれた才能・環境。弛まぬ努力・精神。そうした諸々がすべて結集した人物が教団直属の選任勇者となれるのです」
「アータ全部ないじゃん」
糞ギャルのつぶやきに俺は反論できなかった。とりあえず足元の石を蹴る。
「さぞかし立派な人物なんでしょうね」
皮肉交じりで称賛する。嫉妬だ。
「ええ。歳はあなたたちと同じくらいと伺っております。……つきましたよ」
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それではまたどこかで。




