第17話
「気が晴れたかよ」
「さあてね。で、なんでそんなオチをお前が知ってるんだよ」
「ツマンネー話聞かされて寝たあとに夢にジジイが出てきたからな。調子はどうだとか聞いてきたから、ついでに問い詰めた。今夜あたり、そっちにも来るかもな」
つまりそのオチって、お前の夢の内容ってだけなのでは。いや、古今東西、神が夢枕に立つってのはよくある話だ。あながちただの夢物語と片付けることもできんか。
「……なあ、なんでジジイがアータをここに送ったかわかるか?」
「……徳が足りないから適当に飛ばしただけだろ」
「建前は、な」
俺は風に揺れるケバい髪を眺める。
「確かにアータに大した徳はなかったさ。だから、指定した世界や環境に転生させるわけにはいかなかった。ただ、最後の最後で見せた善行があったから、転生の意思を問うことはできた。マジで評価するところねーやつはそいつの意見なんて聞かないで黙って輪廻に組み込むからな」
「…………」
がりっ。ミツルが何かを掘り当てたらしい。スコップが硬いものに触れた音がする。
「この世界、あの座標、あの時間に飛ばした理由があるはずなんだ」
「でもランダムって……いや、そうか」
俺は反論しようとして止まり、うなずく。
「ランダムってのは要するに、神の気まぐれってことだもんな」
人が無作為にものを選ぶとき、そこに人の意思は介在しない。当然だ。
まさに、神のみぞ知る、なわけだ。
そこには、神の領域たる確率なるものが存在する。
言いかえれば、そこには神の意思が介在するのだ。
「で、なんだよ。その理由って」
「アーシが知るかよ」
発掘したものを雑に転がしたミツルは立ち上がり、「んーっ」と腰を伸ばす。
「よく言うだろ。神のみぞ知る、だよ」
要するに知らないし知りようもないってこと。
考えるだけ無駄かな。
「つーか考えようが考えまいが、ジジイの考え知ってどうなるもんでもねーだろ」
ごもっとも。
「もう日も暮れるし帰んべ」
「ああ、うん。…………うん?」
俺は手をパンパンやってるギャルにふと思う。
これはあれか、一緒に帰る流れか。
下校の時、仲のいいやつらで帰っていくあの感じか。
いいなあ。
「なぜ涙目」
目頭を押さえる俺にギャルは引き気味だ。こいつにはわかるまい。この感動が。
しかも男友達どころか女子だぞ女子! リア充じゃないか!
こんな外見妖怪でも女子だからな! 多分!
おっと、なんか心配になってきたぞ!
「お前女だよな?」
「馬鹿にしとんのか」
よっしゃ! やっぱり女子だ! やっぱりリア充じゃないか! 今この瞬間、俺はリア充なんだ!
「おーい」
感動と達成感に震える俺を現実に引き戻す声。科学者のご帰還だ。
「収穫はどうだい」
「そこそこです。もう暗くなったんで帰ります」
そしてこっちもご帰還だ。
「そうだねえ。ランプでも手元はよく見えないし」
「LEDあれば違うんだけどねー」
「はて?」
蛍光灯すっ飛ばすなよ。俺はとりあえず掘り当てた未鑑定品を示す。
「おお、なかなかやるじゃないか。ここでこのまま発掘調査の手伝いをやらないかい?」
「残念ながら先を急ぐ旅ですので」
「そんな急いでたか?」
お前は余計なことを言わないと死ぬ病なのか。
俺はそっとミツルの耳に口を寄せる。
「このまま土いじりをして過ごしたいのかよ」
「え。やだよ。ネイルが汚くなるじゃん。爪の間に土入るし」
「じゃあおとなしく話を合わせてくれよ頼むから」
ギャルは沈んでいく陽を見てハッとなる。
「そうか。アータ意外と頭いいんだな」
意外は余計だしお前が馬鹿なだけだ。
そう思っても口に出さないのが俺とこいつの知能の違いであろう。
後片付けをしてから戻るという主人を残し、俺達は来た道を戻った。
夕日をバックに、女子との帰り道。
うむ、感無量。
ネジが二、三本どころか、ネジが存在しないくらいオツムが緩いが、この際贅沢は言っていられない。
「そういえばさ」
「んだよ」
「お前が帰る条件としては、[お前が真人間になる]か[俺が死ぬ]の二択だろ」
「だから?」
「俺が魔王を倒して世界を救ったとしても、お前はずっと帰れないんじゃないの?」
そこでミツルは脚を止めた。振り返ると、夕日が逆光の役割をしていた。つまり、目に日差しが入って、こいつがどんな顔をしてるかよく見えない。
「アータに魔王が倒せるわけないじゃん」
「やってみなきゃわからないだろ。今はこんなザマだけど、レベル上げて、装備も充実させて、伝説の剣でザクーッと」
俺が剣を握る真似をする。そうだ、明日剣を買いに行こう。さすがにこの街なら装備できるものがひとつくらいあるだろう。
「かくして俺は伝説となり……」
そこで俺はふと思う。
その先には、何があるのだろうか。
魔王を倒して世界を救う。
その先の世界で俺は、何をすればいいのだろう。
ゲームならばそれで終わりだ。せいぜい、隠しダンジョンか隠しボスでも目指すか、二週目に入るくらいだ。
しかし、これは現実で。
ハッピーエンドを迎えたとしても、この物語は否が応でも続いていくのだ。
「まあ、そのあとはマオとのんびり旅でもするさ」
あの箱入り娘を連れ回すのもいいだろう。魔王がいなくなって平和になった世の中だ。あいつもその頃には外出許可くらい親からもらえるだろうし。とりあえず今はマオを目的地まで連れて行って、そこでマオの目的が終わったら、一緒に魔王を倒して、それからあてもなく……
「バカじゃないの」
吐き捨てるように言って、ミツルは早足で俺を置き去りにした。
「なんか怒らせるようなこと言ったか?」
とりあえずその背を追う。
「お前が真人間になるなんて天地がひっくり返ってもないだろうし、やっぱり俺が天寿を全うするまでいるのか? そしたら」
お前名実ともにヤマンバギャルだな。
後半の言葉はさすがに自重した。
「その前に、アータ殺されるかもね」
風景に町並みが入ってきた。もう少しで宿につく。
「道中のモンスターにか? マオがいるからなんとかなんだろ」
魔王軍の幹部っぽいのですら瞬殺だったし。
純和風の旅館の前まで来た。戸を開きながらミツルはポツリと、
「アータが目指してる勇者によ」
首をかしげる俺をよそに、こいつはさっさと入ってしまった。
なんで? 俺が? 勇者に?
腕を組みながら作りの悪い廊下を歩いていくと、女将がやってきた。
「おかえりなさいませ」
「ども」
「お連れ様は先に湯殿へ向かわれましたよ」
「さいですか。洗面所……手洗い場に案内してもらえますか」
俺もひとっ風呂と思ったが、あいつとのハプニングなんて御免こうむるので、あいつが出てくるのを待とう。あいつの平たい体にまったく興味がないわけではないが……いや、やっぱりよそう。天罰が下りそうだし。
軽く手や顔を洗い、女将から布を受け取りながら飯の用意を頼む。
「もう一人の女の子はどうしてました?」
部屋に戻る道すがら、マオの様子を聞いてみた。
「それが、ずっと思いつめた顔をして外を見ていまして」
「今まで……ずっと?」
定年退職して暇を持て余した老人でもあるまいし。
「ええ。このあたりの名所や地理を説明したのですが、あまり興味がないようで」
「そうなんですか」
むしろウキウキルンルンで散歩しそうなもんだが。ホームシックかな。
「それでは私はお夕飯のご用意をして参りますので」
「ああ、どうも」
一礼して去っていく女将から、ふすまに目を向ける。
「帰ったぞい」
申し訳程度にノックをしてから入る。
「…………」
そこにははたしてマオがいて、彼女は旅館にありがちな〔窓付近によくある椅子〕に腰掛けて、暮れなずむ空を見ていた。
こちらを向く表情は物憂げで、それはそれで絵になるというか、美しさみたいなものがあって、女子のそういうのには疎い俺は無意識に息をのんでいた。
数秒――体感的には数分くらい――時が止まったように、俺とマオは無言で相手を見ていた。先に耐えられず目をそらしたのは俺だ。
「ずっとここにいたんだって?」
とりあえず話題をふってみる。
「…………はい」
重く沈んだ声。
「お、おう。そっか」
なんだろうな。何かに失望したような、この先いっさいの望みがないかのようなダウナー感。
これ、どっかで……
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https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
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